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第11話 おはようございます

 翌朝。

 布団を2組敷いたのにも関わらず、1つの布団でいちちゃんに抱き着いて寝る篝火さんの姿がそこにはあった。

 うさぎがたくさん描かれたかわいらしい寝巻は、その裾が少し捲れて肌が見えている。

 ……。見なかったことにしよう。



 歯磨きをしながら、昨日話したことを思い出す。

 パーティーを組む仲間が見つかった。1人はいちちゃん。まだスキルについて詳しく話はしていないが、間違いなくこの3人の中で一番慣れている。

 もう1人は篝火桃さん。なんかスゲー攻撃力かつ低射程のスキル持ちだが、本人曰く、際限なく荷物を保持することが出来る。


 ダンジョン攻略において、戦闘の安全マージンが取れているなら次に問題になるのが「荷物」だ。深い階層に行くなら、食料は必須。現地調達も出来るだろうが、確実とは言えない。

 それを丸ごと解決できる篝火さんの存在は非常にありがたい。


 それと、ダンジョンでの配信をどうするか悩む。

 そもそも、基本的にダンジョンで配信をする目的はトラブル防止だ。

 ほとんど誰も見ていなかったとしても、アーカイブは残るので抑止力になる。配信をせずにスライム狩りをしていた過去、後ろから蹴りを入れられるトラブルがあったので、それから俺は欠かさず毎回配信をしていた。

 逆に言えば、配信をしていない人は何かしら後ろめたい部分があると見られる可能性がある。


 とはいえ、篝火さんのスキルについて明るみに出すのは避けたい。裏社会のこともそうだし、単純に嫉妬する奴が出てきそうだから。絶対鬱陶しい。

 まぁ、これについては2人が起きてきたら話そう。


 そしてこれから先、真剣にダンジョンを攻略していくならばいずれ欲しい人材。

 それが、補助スキルを持つ攻略者だ。

 どれだけ強力なスキルを持っていたとしても、それを操るのは所詮人間。人体の強度には限界がある。


 魔物は低階層ならそこまで脅威ではない。攻撃スキルがあれば簡単に倒せる。攻撃スキルがあれば!

 だが深い階層に潜る程、急激に魔物の脅威度が跳ね上がるのだ。俺の家の近くにあるダンジョンだって、10階層に出てくる魔物は殺意を持って追いかけまわしてくるダンプカーみたいなやつだとも聞いたことがある。

 俺がどれだけ回復しながら耐えられるとしても、回復する間もなくプチっと潰されたら終わり。


 それを解決するのが補助スキルである。

 スキル効果にもよるが、人体の強度を上げるスキルや運動能力を向上させるスキルが多いと聞く。

 いちちゃんと篝火さんにそんな知り合いは居ないか、居ないなら募集を掛けるくらいしかないか?


 ぶっちゃけ、いちちゃん割と有名人だし、すぐ見つかりそうだけどね。



「おはようございます、唐金さん」

「あ、おはよう、篝火さん」

「早起きなんですね……」

「まぁね。篝火さんもかなり早いね?」

「物音がしたので……」

「あはは、ごめん、起こしちゃったか」


 顔を洗い終えたところで、篝火さんが眠そうな目を擦りながら起きてきた。

 銀髪美少女の寝起き姿に思わずドキッとしてしまうが、昨日の話が酒の席での戯言(ざれごと)ではないのであれば、これから何度も見る光景だ。早く慣れないと。


「いちちゃんはまだ寝てる?」

「はい」

「まぁまだ早いもんね~……あ、ねぇ篝火さん。ここ住むって話は本気ってことでいいの?」

「……一華先輩がその気で、唐金さんが良いなら、本気です」

「いちちゃんは多分本気だろうね。昔はよく泊まりに来てたから、勝手も知ってるだろうし……じゃあ先に、篝火さんに使ってもらう部屋に案内しとくね」


 どの部屋も綺麗に片付けているので、物置と俺の部屋以外ならどこを選んでもらっても構わない。

 とりあえず2階に移動しようとすると、後ろから呼び止められた。


「あのっ」

「ん?どうしたの?」

「私のこと、桃って呼び捨てにしてほしいです。折角パーティーを組むんですし……」

「えっと……それでいいなら、モモって呼ばせてもらおうかな?それなら俺の事も千花でいいし、タメ口でいいよ?」

「そんなっ、一華先輩の幼馴染さんなのに、タメ口なんて……」

「ほら、同じパーティーなんだし?なんならいちちゃんにもタメ口で行こうよ」

「ええええ絶対無理、無理です」

「ふーん?いちちゃんなら喜びそうだけど。でも本当に俺にはタメ口でいいからね」

「……善処します」


 篝火さん……改め、モモからの提案は飲むことにした。

 パーティーを組むんだし、なんなら寝食を共にする仲となるならば、いつまでも他人行儀というのも妙な話だろう。

 些か距離の詰め方が急すぎる気もするが……俺自身、いちちゃん以外に異性の友人はいないので、案外こんなものなのかもしれない。

 ただ、提案の仕方がちょっと小悪魔的だ。この容姿でそんな言い方されたら好きになる男も多そうだな。

 いちちゃん一筋っぽい感じするから、天然なんだろうけど。


「……千花さん」

「ん?」

「あ、呼んでみただけです。ごめんなさい」


 グワァァ!

 前言撤回、わかってやってるかもしれない。

 俺の内心では苦悶の声を挙げているが、顔は苦笑いで留めることが出来たはず。


 

「2階の部屋、どこが良いか選んで使ってね」

「どこでもいいんですか?……いいですの?いいの?」

「無理はしなくていいからね~」


 階段を登りながらモモに話しかけると、語尾が滅茶苦茶になった。愉快な人だな。


「一番手前左の……この部屋が俺の部屋で、そこ以外ならどこでも。あ、一番奥の右側は物置ね」

「ふむふむ」

「ちなみに和室と洋室ならどっちがいい?」

「んー……ベッド派なので、洋室ですかね」

「じゃあ物置の対面か、俺の部屋の前のどっちかだね」

「うーん……一華先輩はどこを選ぶんでしょう……」


 モモが腕を組んで悩んでいると、背後の階段からぺたぺたと足音を立てながらいちちゃんが現れた。

 寝癖で髪が凄いことになっている。


「ふたりとも、おはよ」

「お、いちちゃん。早いね?おはよう」

「一華先輩、おはようございます」

「ふぁあ……へや、きめてたの?」


 眠そうな顔をしながら、あくびを隠そうともせずに訪ねてくる。そんな無防備な姿を見ていると、少し安心した。


「はい!千花さんに聞いて、洋室のどっちにするか迷ってました!」

「……せんかさん?」

「モモは多分いちちゃんの近くがいいんだろうけど、いちちゃんどこにする?」

「……もも?」

「いちちゃん……?」


 先ほどまで眠そうな顔をしていたのに、今度は目がパッキパキになっていた。

 え、なに?怖い。

 

「なに、急に距離縮まってる。私が寝ている間に、なにがあったの」

「え?ああ、パーティー組むし一緒に住むんだから、他人行儀なのは無しにしようってさっき話したんだよね」

「……そうなの?モモちゃん」

「は、はい、そうですよ?どうしたんですか?」

「……そう。べつに、なんでもない」


 いちちゃんが露骨にしょんぼりしている。おおっと……自分のいないところで仲良くなられるのは少し嫌だったか。

 思えば、俺がいちちゃんの目の前で他の友達と仲良くしたことはない。いちちゃんにも嫉妬する感情とかあったんだなぁ、と微笑ましい気持ちになった。


「あ……ご、ごめんなさい……一華先輩の幼馴染さんに、馴れ馴れしかったですよね……?」

「んーん……大丈夫。パーティー内で仲良くするの、大事だから。大丈夫、大丈夫」

「……いちちゃん、部屋どこにする?」

「せん君の部屋」

「……ん?」

「……の隣」

「あ、ああ。和室だけど大丈夫?」

「うん」


 びっくりした。俺の部屋って言ったのかと思った。


「じゃあ、私はこの洋室でおねがいします!」

「むかいがわ」

「はい!一華先輩と近い方がいいので……えへへ」

「……かわいいね。モモちゃん、荷物運ぶの手伝って」

「わかりました!」


 ペタペタと降りていくいちちゃんを追って、モモは階段を下っていく。

 ……とりあえず俺は、着替えて朝飯を作ろう。

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