第十話:惟光の独白
「それで? わたしが、何だって?」
落ち着い話せる場所へ移動しようという晴明の言葉で、屋敷へと戻ってきたカグヤたち。
いつの間に用意したのか、前回と同じように濡れ縁にはすでに酒宴の用意がされていた。
「まぁ、座れ」
晴明は、相変わらず落ち着いた態度を崩さない。
まるで騒いでるこちらがおかしいように感じるが、勝手に丸投げされたら誰だってこうなる。
どう考えても、事前に何も言わない方が悪いのだ。
「⋯⋯⋯」
品も何もないが、ドカッと濡れ縁に膝を立てて座る。
無言のままに見つめても、カグヤの憤りなど何処吹く風。普段と変わらず優雅に酒を飲んでいる。
「惟光」
『────承知した』
二人の関係性は未だ不明だが、名前を呼ばれただけで晴明が言わんとしている事を“承知”出来るのは大したものだ。
『改めて、私は惟光と申します。木城家に仕えておりました』
「⋯⋯カグヤです」
『カグヤ殿、何も知らぬ貴女に頼ってしまった事、誠に申し訳ない。出来れば、手を貸して頂けると嬉しく存じます』
惟光は、人の姿を模しているが、少し薄いというか透けている。どう見ても、生きた人間では無いだろう。
関わらない事が一番なのだが、彼の必死さに免じて手を貸してあげる事にした。
ヒスイがいたら、「カグヤは優しいから」と言われていたかもしれない。自分でも、甘いと思うが仕方ない。
「⋯分かりました」
「感謝致します」
カグヤが了承を告げれば、惟光は嬉しそうに相好を崩す。
それから、姿勢を正して座り直した。実体が無いのにわざわざ座り直すとはおかしな話だ。
『事の始まりは、木城家の一人娘である小夜姫様を左大臣の息子が見初めた事でした』
木城家は、大納言を補佐する立場にある中納言。
大納言や中納言とは、天皇を補佐し政務を執り行った中央官庁「大政官」に置かれた役職なのだそうだ。
惟光が詳しく説明してくれたのだが、残念ながらカグヤは半分くらいしか理解出来なかった。
こういう時にヒスイがいてくれると、カグヤにも分かりやすく説明してくれるのだ。
やはり少しヒスイに甘え過ぎかもしれないと、心の中で反省する。
これからはもう少し努力しようと思い直し、惟光の話に耳を傾けた。
『小夜姫様は琴の名手で、天皇主催の宴でその腕前を披露された事がございました。その会で、小夜姫様を見た左大臣の息子が姫を気に入り⋯⋯⋯左大臣が縁談を持ち込まれたのです』
この時代には政略結婚が多かった。
貴族の娘ともなれば、家の為に嫁ぐ事は当たり前とされていたらしい。
だが、小夜姫はその慣習に疑問を持った。
今ならば自立した立派な女性だっただろうが、生きる時代を間違えたとしか思えない。
『姫は“何故好きでもない男の所に行かねばならぬ、私は好いた方に嫁ぎたい”そう、常々申しておりました』
小夜姫の事を話す時、惟光の顔はとても優しくなる。
本人にはその自覚は無いようだ。
もしかすると惟光は、小夜姫の事を────。
『姫は武芸も達者で、あまり姫らしくないところもございました。なので姫への縁談はそれが初めての事だったのです』
武芸が達者な姫君。
たしかに、それは世間が姫に求めるものとは真逆な事はカグヤにも理解出来た。
逆にカグヤは小夜姫に好感を持った。自立していてとても良い姫にしか思えない。
『木城家当主の直孝様も、本心では姫様の好いた方に嫁がせたいと、そう思っておられました。ですが⋯⋯⋯』
「⋯⋯位が上の左大臣からの縁談は、断れない?」
カグヤの言葉に、惟光は無言で頷いた。
やはり、上下関係は厳しい。
『────そして、事件が起きたのです⋯』
いつもヒスイがフォローしてくれているのですが、今回はカグヤ一人だけ。
もう少し一人で頑張ってもらいます!




