第七話:沈黙の邸
屋敷の中は静かだった。
いや、静か過ぎるとも言える。これだけの大きさの屋敷ならば、人の気配があって当然だ。それなのに、ここには人の気配がまるでない。
外見は立派だが、すでに命の灯火が消えている。
「⋯⋯」
空気が、重い。
風の精霊が、居心地の悪さを訴えてくる。カグヤもそれを感じ取っていた。
湿った重苦しい空気がまとわりつく。呼吸する度に重い空気が肺を圧迫して息苦しい。
「荒れたな」
晴明がポツリと呟いた。
彼はこの屋敷の事を、元々知っていたのだろう。
晴明に問いかけようとした瞬間────。
「!」
突如、空気が揺れた。
そして、身構えるカグヤの前に牛車が現れる。音もなく、ごく当たり前に其れは出て来た。
側面には、花を円状にした紋様。そして、傷の位置が一緒だ。
間違いなく、追っていた牛車だった。
出てきてから暫し待ったが、何の変化もない。
誰も乗っていないような静けさが不気味だ。
警戒しながら一歩牛車に近づいた瞬間、牛車の影が蠢いた。
「────っ!」
反射的に体を反転して避ける。晴明も難なく避けていた。やはり、この男は文官ではなく間違いなく武闘派だ。
改めて牛車の方向を見れば、牛車とカグヤたちの間に、あの黒い影が音もなく現れた。
「⋯やはり、現れたか」
晴明の小さな呟き。
風が届けてくれなければ、きっと聞き逃していただろう。
「ねぇ、コレは祓えるの?」
カグヤの言葉に、晴明は無言で首を振る。
「祓うには、足りぬ」
“何が”とは、教えてくれなかった。
無言になった晴明から視線を逸らし、影を見つめる。
今はまだ、祓えない。
今はということは、何らかの条件が揃えば祓えるのだろうか。
「コレだけでは祓えないってことか」
カグヤの呟きに、晴明がピクリと反応する。
否定の言葉はない。カグヤの考えは正しいということだ。
つまり、この影のようなモノには片割れないし、足りない部分がある。
たしかに、初めて晴明に会った時、彼はこう言った。
『これが怪異の一部だ』と。
怪異の一部だけでは、祓えない。
謎は多いが、怪異の全てを制圧し、解明する必要があるという事だろう。
「────とりあえず、コイツを何とかしないとね」
そう告げたカグヤの手には、扇子が握られていた。
「“風雅”」
カグヤの周りで騒いでいた風の精霊が、呼び声に呼応するように扇子の周りに集まる。
要の先の玉飾りが、薄緑色に輝いた。
月の精霊は効いた。
では、他の精霊ではどうなのか。
(何が効くのか、検証といこうか)
影を見つめ、カグヤの口元が不敵な笑みを形作る。
遅くなりました⋯。




