第六話:消えた姫君
ヒスイがいれば、この橋を解明してくれたかもしれないが、今は無理だ。いない者に縋っても仕方ない。
それに、今は渡れない橋に何時までも留まっている必要もない。
「これからどうする?」
絶妙なタイミングで晴明から声がかかった。
まるでカグヤの気持ちが落ち着くのを待っていたかのようなタイミング。
相変わらず何を考えているのか読めないが、使える者は何でも使う。共闘する理由は、それだけで十分だ。
「────出発点を探す」
この怪異は、消えたあの牛車と関係している。それはたぶん、間違いない。
あの牛車がここで消えたということは、ここが今のところの終着点。とすれば、出発点を探し出せれば、少しは答えに近づけるような気がするのだ。
単なる勘だが、今は解決の糸口がそれしかない。
「では、向かおう」
一緒に行動するとは思っていなかったので、咄嗟に返事が返せず間が空いてしまった。
だがカグヤの戸惑いなど眼中にないらしい晴明は、返事を待たずにさっさと歩き出す。
出発点を探す事に関しては、特に否はないらしい。
(ホント、何考えているだろう⋯)
誰に対してもこの様な態度だとするなら、色々と衝突しそうだ。だが、晴明本人はまるで気にしていなさそうであるから、タチが悪い。
そして、二人はまた影と遭遇した通りへと戻ってきた。カグヤにとってはここが出発点であるが、牛車は違う。
牛車はここから現れたとは、考えにくい。何処かの貴族邸から出ているはずだ。
屋敷といえば、気になる事があった。
「ねぇ、消えた姫様の事知ってる?」
もう一つ気になった噂────消えた姫。
晴明なら何か知っているかと思い何となく問いかけたが、晴明の動きがピタリと止まる。
「────何処でそれを?」
「町中で聞いた噂話だよ」
思わぬ反応に驚きつつも、態度には出さない。
先ほど聞いた噂話の事を告げれば、晴明の目がスッと細められる。
そして、またゆっくりと歩き始めた。
「我々が、今負っている牛車に描かれた紋様を見たか?」
唐突な質問。
何の脈絡もなさそうだが、晴明の事だ何か意味があるのだろう。
「⋯三つの花が描かれていたと思うけど」
花を円状に並べた紋様。
それが、牛車の側面に描かれていた。
「さすが、よく見ているな」
晴明が楽しげに口元を緩める。
「あれは、とある貴族の娘が好んでいる紋様だ」
その娘は、自分が使うモノにその紋様を刻んでいるのだという。もちろん、自分が使う牛車にもその紋様を刻んでいた。
「もしかして────」
一つの可能性が浮かぶ。
カグヤの呟きに、晴明が大きな屋敷の前で足を止めて振り返る。
「────ここが、その貴族の姫君のお屋敷だ」
屋敷の壁は高く聳え、門構えもとても見事な造りだ。
行方知れずの姫君は相当しっかりとした家柄だったのだろうことが、その門構えから窺えた。
この屋敷を見上げた瞬間、何故か胸の奥が僅かにざわつく。
理由は分からない。
だが、この屋敷は何かがおかしい。
「やはり、勘がいいな」
晴明が口角を持ち上げ、ニヤリと笑った。その顔を見た瞬間、嫌な予感が確信へと変わる。
カグヤの勘は、ハズレない。
この門の向こう側から、冷たい気配が漏れていた────。
謎解きを考えるのは頭を使いますね⋯。
楽しんでいただければ嬉しいです!




