第二話:月の加護
突如黒い影が音もなく膨らんだ。
膨張した影が地を這うように広がっていく。
「────っ」
反射的に、カグヤは後方へ跳ぶ。
元々いた場所が、黒く侵されていく。
「よい判断だ」
冷静な声。声と同時に、影に向かって札が飛んだ。
黒い影に触れた瞬間。
空気が弾けるような音が響く。
続けざまに晴明が札を放つと、それを避けるように黒い影が後退した。
「⋯へぇ」
カグヤは口元に笑みを浮かべる。
晴明は、思ったよりも動きが俊敏だった。戦い慣れているともいえる。
ぶわっと、影が膨らむ。
だが、先ほどのようにすぐに攻めてはこない。
学習したというよりは、何かを嫌がっているようにも見える。
いつの間にか、辺りは明るさを取り戻しつつあった。
カグヤは無言で空を見上げる。
雲の切れ間から、青白い光がすこしだけ漏れていた。
(⋯これが影だとするなら────)
いつの間にか掲げたカグヤの手には、二対の扇子が握られていた。
右手の扇子を顔の横に掲げて、ゆっくりと開く。
扇面の白金に、青い繊細な模様が美しい。
「────“照らして、月華”」
カグヤの声に応えるように、扇の要から下がる透明な玉飾りが青白く輝いた。
それに伴い、扇面が淡い光を帯びる姿は、まるで月のよう────。
一瞬で、影との距離を詰める。
左下から、扇子を撫でるように振り上げた。
夜の闇に、火花が舞散る。
影が、弾いた。
続けて、左下の扇子は閉じたまま左上から袈裟斬りのように振り下ろす。
だが空を斬ったように、まるで手応えがない。
「⋯⋯なるほど」
カグヤは、得られた事実に口元を緩める。
右手の扇子は、淡く闇を照らしている。左に光はない。
閉じていた左手の扇子を開くと、シャランと涼しげな音が響いた。
「“月華”」
名を呼べば、光の無かった左手の扇子が輝きを帯びる。
二対の扇子を構え直し、影に相対する。
そのとき、月が姿を現した────。
構えた扇子に月の光が降り注ぎ、輝きを増す。
(⋯⋯見えた)
光に照らされて、一瞬だけ見えた暗い塊。
────核。
カグヤはそれを確認すると────音もなく相手に肉薄する。動きに合わせて裾が揺れた。
軽やかに舞いながら、交互に攻撃を繰り出すと、空気が弾けて火花が散る。
徐々にそのスピードを上げていくと、影が徐々に削れ始めた。
やがて、カグヤの連撃に影の動きが止まった。
その瞬間を見逃さず、月の加護を受けた扇子を胸の前でクロスさせると、思いっきり影に向かって引き抜く。
手応えがあった。
だが────浅い。
「ほう」
晴明の関心したような声。
追撃をしようとしたが、影が避けるように引いた。
と思った瞬間────。
「────っ!」
引いたと見せかけて、カグヤの死角から攻撃してきた。反射的に身体を捻って避け、影から距離を取る。
カグヤが引いたのをみて、影は溶けるように姿を消した。まるで最初からいなかったかのように。
「深追いはするな」
「しないよ」
得体がしれないものを追いかけても、事態が好転することはほぼ無いに等しい。
そして、逆に危うくすることは多かった。
「さて、あれについて教えてくれるんですよね?」
カグヤは扇子を消し、晴明を振り返る。
問答無用で戦いに巻き込んだのだ、ちゃんと説明してもらうまで許すつもりは無い。
晴明は戦える陰陽師ですよね〜。
書いてて楽しかったです!




