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永遠の翼 〜変えられない運命に、祝福を〜  作者: 咲良 柚葉
第三章【永遠の翼〜夜を蝕む都〜】

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第一話:繰り返す夜

空を見上げれば、青白く輝く満月がちょうど真上にある。今は深夜12時くらいといったところだろうか。


今までの転移先は基本的に朝か昼などの明るい時間が多かった。夜に転移するのは珍しく、深夜の転移はあまり記憶にない。


それに、普段との一番の違いは────。


(ヒスイが、いない⋯)


いつも一緒だった。

監史者はツーマンセルで動くから、相棒であるヒスイとは常に一緒に任務に赴いていた。初任務の頃から随分経つが、一人の任務はないに等しい。

ヒスイがいない、その事実が思いの外重く、カグヤの心にのしかかる。


『カグヤ!』


切羽詰まった声。

少し聞き取りにくかったが、腕を掴まれた感触は残っている。

無意識に腕へ触れた時、手首に付けたザウルスが目に入った。


普段の見慣れた白いザウルスとは違う、黒いザウルス。開発部のクゥに借りたものだ。

それは、この世界に来てからずっと沈黙している。


(やっぱりマズイ状況だよね⋯)


そもそも、今回の転移は異例尽くめだった。

転移門を起動するための起動コードを読み取っていないのにも関わらず、ザウルスが転移した。


(あの小太刀、一体何だったんだろう)


カグヤが今陥っている現状の原因。

装飾らしい装飾といえば、小太刀の端にひっそりと刻まれた花の紋様だろうか。それ以外には装飾はない。だが、それなりに上等な品だったように感じる。


何が起きているのかは分からない。

だが、あの光が弾ける瞬間、たしかにヒスイはカグヤのそばに居た。

それならばヒスイもこの世界に転移している。それだけは間違いないと断言出来た。

同じ世界にいるならば、必ず会える。

まずは、この世界が何の世界なのかの把握。それから、ヒスイとの合流。



今後の目標を決めて気合いを入れ直すカグヤの横を、牛車が通り過ぎる。


この刻限に牛車を走らせる者は、そう多くはない。

だが、それにしても────妙な違和感があった。


何かがおかしい、そう感じた。

漠然とした勘だ。

だが、カグヤの勘は特別だった。


違和感の正体を確かめるために暫く待っていると、また牛車が通り過ぎた。

先ほどと同じ方向。

同じ傷。


「⋯⋯」


無言のまま空を見上げる。

月は変わらず一番高いところで輝いていた。


やはりどこか違和感がある。

何かが、引っかかった。


「────もしかして」


一つの可能性が、頭を過ぎる。


「其方は、何者だ」


声が落ちた。

落ち着いた声には、何の感情もない。

だが、その圧は圧倒的だった。辺りの空気が重くなる。


ゆっくりと、振り返る。


そこに、男が立っていた。

狩衣と呼ばれる動きやすい格好に身を包んでいる。


この男────ただ者ではない。


「⋯⋯先に名乗るのが礼儀では?」


カグヤは威圧をものともせず、敢えて挑発してみる。

イラついてくれるかと少し期待したが、男の態度は変わらない。

男は目を細める。


「これは失礼した。私は晴明という」


晴明──。

それは、聞き覚えのある名前だった。

彼が来ている服装と、牛車での移動。そして、この町の雰囲気。

点が線になっていく。

つまりこの世界は────。


「⋯⋯丁寧な名乗りをどうも。────わたしは、カグヤ」


一瞬、偽名を名乗ろうかとも考えたがやめた。

稀代の陰陽師に、小手先の小細工が通用するとも思えない。


「さて、カグヤ」

「⋯⋯」

「其方は、ここで何をしている?」


辺りの空気がまた一段重くなった。

一瞬にしてこの場の空気を制圧したようだ。


「調べ物だよ」


カグヤは何食わぬ顔でニコリと笑う。


「この都に、調べ物か」

「そう、色々とね」

「何かおもしろいものでもあったか?」


晴明の表情に、変化はない。

カグヤは、視線を少し動かす。


「そうだなぁ、例えば────同じ牛車が何度も通る理由、とか」


また、牛車が通る。

先ほどと傷の位置まで全て同じ牛車をチラリと見る。

一瞬の沈黙。


「ほう」


感心したように晴明の目が細まる。


「気づいたのか────それならば、話は早い」


少しだけ嬉しそうに見えるのは、気のせいだろうか。

何を企んでいるのか、読みにくい。


「其方にも、手伝ってもらおう」


予想外の一言に、一瞬言葉に詰まる。

晴明は、相変わらず無表情に近く、その表情から考えを読み取ることは難しい。


「⋯冗談でしょ?」

「知りたいのだろう?」


晴明は、口元だけで笑った。

その目は一切笑っていない。まるでカグヤを見定めるように眺めている。

月が雲に隠れたのか、少しだけ薄暗くなる。


カグヤが口を開こうとした瞬間。


「──!」


突如、二人の目の前に現れた────黒い物体。

それは影のように、揺らめいている。


「────ここまで入り込んだか」


晴明がボソリと呟く。

その物言いから、結界でも張っていたのかもしれない。


「カグヤ」


名を呼ばれて振り向けば、晴明の口元が弧を描く。


「これが、怪異の一部だ」

「⋯⋯⋯」

「手伝ってくれるだろう?」


有無を言わせぬ言動に、カグヤは口元を僅かに緩める。

会ったばかりだというのに、カグヤが戦えると確信しているらしい。


「わたしは、高くつくよ」


カグヤは、好戦的な笑みを浮かべる。

共闘してあげよう、謎を解き明かすため────。


新しいシリーズは、陰陽師編となります。

楽しんでいただけると嬉しいです!

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