第五話:その小太刀は何を望む
「シャナ、待たせてごめんね」
「大丈夫だよ〜」
シャナが1階まで降りてきたところで遅れたことを詫びたが、特に気にしていないようだ。
こっちだよ、と歩き出すシャナの後ろをついて行く。
「こっちこそ、任務前に来てもらってごめんね」
「任務に関係ありそうなんでしょ?」
「それは間違いないね」
調査部は、曖昧な表現を好まない。
確定していないことは伝えない。それは、不確定要素で任務に支障が出ることを防ぐ為でもある。
だから、任務の依頼書は【調査中】や【不明】が並ぶことになるのだが────。
カグヤからしてみれば、確定していないことを教えられる方が困るので好ましいと思うのだが、そうでもない監史者もいるらしい。
ただ、シャナたち調査部も黙ってはいない。
「あまりにうるさいから上に掛け合って、不特定要素入れまくった依頼書作ったら、その後何も言って来なくなったよ〜」
どうやらシャナたち調査部の方が一枚も二枚も上手だったようだ。
シャナがカグヤたちを伴って図書館の階段の裏にある扉を抜けると、そこは幻想的な図書館とは少し違う落ち着いた書庫が現れた。だが、シャナはそこを真っ直ぐ突っ切っていく。止まる様子はない。
やがてシャナが立ち止まったのは、書庫の果てにある一際厳重に管理された扉。
四隅に貼られた護符、中央部分の取手には、魔導錠が付けられていた。
魔導錠とは、登録した魔力を鍵として開く錠前。
「もしかして、これから行くのって⋯⋯」
カグヤには、シャナの向かう先に心当たりがあった。
シャナは無言のまま、魔導錠に片手を添えて魔力を流す。
すると魔導錠が一瞬だけ輝き鍵が外れる。外れた瞬間、扉自体がまるで折りたたまれていくように消えていく。
目の前には、下に向かう階段があった。
あまり当たって欲しくなかったが、間違いないようだ。
「うん、“禁書庫”だね」
禁書庫────書庫とついているが、本だけではない。そこは、扱いの難しい代物が収められた場所。つまり、この先にはヤバいモノしか存在しない。
背中を冷たい汗が伝う。
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
「カグヤ」
ヒスイの声に背中を押されるように意を決して一歩踏み出す。
そして扉の無くなった空間に足を踏み入れた瞬間、ヒヤリとした空気が体を包む────いや、まとわりつく。
先程までとは空気が違う、まるで別世界だ。
「大丈夫か?」
「────うん」
「本当に無理そうなら言え」
ヒスイのその言葉で心が少し軽くなった。やはりヒスイがいると心強い。
甘えているとは理解している。だが、最近は仕方ないではないかと、開き直っている。
「シャナ、なるべく早めに終わらそう」
ヒスイの言葉に、シャナも頷く。
三人は無言で地下に続く階段を降りる。何度も折り返しているうちに、今が何階なのかもう分からなくなる。
永遠にも思える時間だったが、やがて底に着いた。
そこには、賢者のような黒いローブを来た性別不明の人物がいた。シャナは無言でその人物に何かを手渡す。
たぶん、取り出すための許可証だろう。
許可が無ければ、禁書庫のモノを取り出す事は絶対に出来ない。
「⋯⋯⋯」
無言で歩き出したローブの人物の後を、三人も無言で着いていく。
そこまで歩くことなく、目的の場所に着いたようだ。少し開けた場所。まるで儀式でもするような祭壇が真ん中にある。
ローブの人物が何事か呟くと、祭壇が光り輝く。
光が収まると、祭壇には先程までなかった小太刀が置かれていた。
無造作に置かれているように見えるが、何重にも封印が施されている。
だが、それでも何かが微かに漏れ出ている。
これが、シャチが感知した電波だろうか。こんな微細な電波を離れた場所からキャッチ出来るとは、シャチは思っていたよりも優秀なようだ。
「⋯⋯これがね、問題の小太刀なんだ」
問題がある事は、誰が見ても明らかだったが、シャナは敢えて口にしたのだろう。
「触れてみる?」
「────これ、触れても大丈夫なの?」
「調査部のメンバーは触れてるよ。誰も抜けなかったけど⋯」
どう見ても大丈夫そうではないが、調査部のメンバーは触れても平気だったようだ。
カグヤは、慎重に小太刀へと手を伸ばす。このまま見ていても何も解決しない。
「────!」
触れるか触れないかという距離まで近づいた時、身体中に電流のようなモノが走り抜けた。ザウルスへと。
〈────転イ⋯起、ドウ〉
電流を受けたことによる誤作動だろうか、ザウルスが勝手に転移しようとする。
「カグヤ!」
切羽詰まったヒスイの声が、まるで水の中のようにくぐもっていて良く聞こえない。
強く腕を引かれた瞬間、光が弾けた。
TRUST内部の一部紹介は如何でしたでしょうか?
次回からは、また長編がスタートする予定です。
お付き合い頂けますと嬉しいです〜。




