第二話:開発部という名の迷宮
ここはいつ来ても騒がしい。
うず高く積まれた何に使うのか用途不明のバカでかい機械。どう見てもガラクタにしかみえないモノの山。何が書かれているのか理解不能な書類が無造作に置かれている。あれは絶対にいつか雪崩が起きる。
相変わらず足の踏み場が無いほど散らかった辺りを見渡し、カグヤは苦笑を浮かべる。
やはり、ここはある意味迷宮だ。
基本的に静かで綺麗に整頓されているTRUSTなのだが、ここだけは唯一例外だった。
ここは、TRUST内部にある開発部。
TRUSTで使用するザウルスなどの機器や武器などは、ほぼ全てここで開発されていると言っても過言では無い。
「すみませーん」
カグヤは部屋の奥へと声をかける。
だが、ここは常に騒々しい音が響いているため誰も来ない。
勝手に入るわけにもいかず、かと言って何もせずに帰ることも出来ない。
八方塞がり状態にカグヤは大きくため息を吐き出した。
「あれ、カグヤ?」
不意に後ろから声をかけられた。
急いで振り向けば、騒がしいこの場所には不釣り合いに見える学者のような風貌の男が立っていた。
鼻の上にちょこんと乗った丸メガネがトレードマーク。
「クゥ!」
クゥと呼ばれた男はにこやかに笑う。
優しげな見た目だが、この男は開発部の副部長だ。
副部長といっても部長であるクゥの兄は、研究ラボに閉じ籠っているため、開発部の実質的トップはクゥである。
途方に暮れていたカグヤには、神に等しい存在だった。
「武器のメンテ予約は入ってなかったと思うけど、どうかした?」
開発部は、監史者たちが使用する武器のメンテナンスもしてくれる。武器は監史者一人一人に合わせて開発された一点物なので、代用が効かないのだ。
定期的にメンテナンスをしてもらうようにと言われている。
「武器じゃないんだけど、ちょっとザウルスの調子が悪いみたいなんだ」
ただし、開発部は研究で忙しいので、基本的にメンテナンスなどは予約制。だが、手が空いていれば予約を入れていなくても気になっていることを相談したりすることができる。
基本的に研究にのめり込むタイプが多いので、運良く誰かを捕まえられればの話だが⋯。
予約なしで来ると、先程のカグヤのように入口で途方にくれてスゴスゴ帰ることになりかねない。予約は必須だ。
「いいよ、こっちにおいで〜」
クゥがにこやかに手招きしてくれた。クゥの優しさにホッとしつつ、彼の後ろをついて行く。
「さて、見てみようか」
クゥは丸メガネの上から拡大鏡を付ける。
最新の細部まで拡大できる機械にセットして画面に映す者が多い中、慣れ親しんでいるからと昔ながらの拡大鏡で見ることをクゥは好んでいる。
「ふーむ⋯特におかしなところは無さそうだけど」
ザウルスの中には、恐ろしく細かくて精密な機器が詰め込まれている。カグヤにはさっぱり分からないが、クゥは手馴れた様子で確認していく。
あっという間に解体され、細部まで確認し、そしてまた元通りに戻される。
その間数分。
まるで魔法のような手際の良さ。
「気になったのはいつ?」
「えっとね────」
さっき仕事から戻った時、ザウルスが一瞬だけフリーズしたこと。それはほんの一瞬のことだったこと。
カグヤ的にはあまり気にならなかったが、キリュウに開発部にすぐ行けと言われてしまったことを告げる。
さすがに上司の命令は無視出来ず、そのままカグヤは開発部へと来たと言うわけだ。
「ザウルスが、フリーズ?」
クゥは、カグヤの説明を聞くと黙り込んでしまった。
無言でさっき元に戻したザウルスを見つめている。
「クゥ?」
難しい顔のまま、クゥの沈黙が続く。カグヤが話しかけても、声が聞こえていないようだ。
クゥも開発部の例に漏れず、一度考え込むとほかの事は目に入らないし耳も聞こえなくなるタイプだった。
長考してしまったクゥを放置していく訳にもいかず、カグヤは暇つぶしに周りを見回してみることにした。
クゥの部屋は、執務室兼研究室になっているようだ。
前に行ったSFとか言う世界の雰囲気に少し似ている。
ふわふわニコニコしているクゥからは少し想像出来ない部屋だが、開発部のトップらしい正に科学者の部屋という感じだ。
だが、雑然とした雰囲気はない。資料は全てファイリングされ、ラベルが貼られて棚に並んでいる。机の上も、とても綺麗に整頓されていた。
何故トップの部屋はこんなにも整理整頓されているのに、開発部自体はあんな迷宮に育ってしまったのか謎である。
カグヤが開発部の謎に首を傾げていると、部屋のドアが勢いよく開いた。
「ボスー!!」
いきなり騒がしくなった。
クゥが結構お気に入りです!




