第六話:開戦の一手
「さて、具体的な作戦はどうする?」
ヒスイの言葉で孔明の顔が引き締まる。
現実に戻ったとも言える。
「風が吹かなければ失敗する作戦の準備を始めます」
「何のために?」
元々、この地には曹操側が有利な北西の季節風が吹いていた。史実では、逆の風が吹いたときを見逃さずに火攻めを仕掛けるのだが、今は風が囚われている。
火攻めを仕掛けても上手くいくはずがない。
「人の心理として、どんなに完璧な作戦でも問題ないことを確かめずにはおられないのです」
人はどんなに完璧に準備しても、万が一を考えてしまう。そういう生き物だ。
「敵は、精霊を捕らえるために周到に準備したはずです」
たしかに、精霊を閉じ込められる相応のモノを準備しなければならない。
精霊は、ただの箱にいれても閉じ込めておける訳ではないからだ。
「そこまで入念に準備したことが失敗することを恐れるでしょう」
だから、確かめずにはいられない。
と、孔明は続ける。
「必ず、確認に来る」
孔明には、何手先が見えているのだろうか。
やはりこの頭脳は恐ろしい。
「────精霊が騒げば、貴女は気づけますか?」
孔明の視線が、カグヤに注がれる。
濁していたはずなのに、正確にカグヤが精霊を使えることを感じ取ったようだ。
改めて、孔明の洞察力に感服する。
「⋯分かるよ」
精霊の声は、分かる。
でも、もし自分が見逃したら⋯全て終わりだ。そんな不安が過ぎり、一瞬間が空いてしまった。
それに気づいたのか、ヒスイがポンと頭を撫でる。
視線が合った。
ヒスイが、ニコリと笑う。それだけで、大丈夫な気がするから不思議なものだ。
「素晴らしい」
孔明が嬉しげに笑った。
会ってから初めて笑った顔を見た気がする。
「これで、囚われている場所を突き止められます」
今も大体の場所は分かるが、閉じ込められている所為で曖昧だ。正確な位置を知るのは重要だった。
「火攻めの準備と言ったが、失敗したら終わりだぞ」
「だからこそ、成功させるのです」
自信に満ちた表情。
孔明のことだ、失敗しそうなことは何パターンも回避策を考えているのだろう。
もしそうでなかったとしても、ヒスイとカグヤが力を貸せば、失敗など有り得ない。
「じゃあ、決まりだな」
ヒスイが不敵な笑みを浮かべる。
「動かして、見つけて、叩く」
あまりにも簡潔に、今回の作戦を言葉にする。
言葉になった途端、簡単な気がするから不思議だ。
だが、実際には綱渡りの部分も多い。
それでも、やるしかない。
「風は────取り戻します」
風を取り戻し、火攻めを成功させる。
史実通りに。
孔明の言葉に迷いは無い。
次の一手は決まった。
あとは、動くのみ────。
この一手が、全てを決める。
お待たせしました⋯!




