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永遠の翼 〜変えられない運命に、祝福を〜  作者: 咲良 柚葉
第二章【三国志編】

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第七話:動き出す影

対岸に陣を張り、双方が睨み合って数日が経った。

風は吹かない。


それはそうだろう、精霊は捕らえてあるのだから。

自然現象には、精霊の力の恩恵が大きい。風の精霊がそこにいるだけで清涼な風が吹く。


「⋯動いたか」


漆黒のフードを被った祈祷師が小さく呟く。

強制力を測るために死ぬはずの将軍を生かしておいたのだが、やはりヤツらは気がついたようだ。


「相変わらず鼻が効くな、“監史者(かんししゃ)”」


ばら蒔いた餌に食いついたとも知らずに────。

監史者の大層な理念を思い出し、祈祷師はフンっと鼻で笑った。


「歴史は────最善であれば良いのだ」


正しくなど、なくていい。

そんなものは、後からどうとでもなるのだから。

所詮人間は、自分に都合のいいことしか認識しない。きっとすぐに新しい歴史を受け入れるだろう。

そして、いつしかそれが正しいと思い込む。


「────あの男が勝った方が、まだ“マシ”だ」


この戦いは、曹操を勝たせる。

今の歴史のままでは、無駄が多すぎるのだ。


「今のままでは、無駄に人が死に過ぎる⋯」


淡々としていた祈祷師の口元が歪む。何の感情もなかったその声に、どす黒いモノが混じった。


「⋯その為にも、()()は渡せない」


手の中に在るモノを見つめる。

それは、両手の平に収まるくらいの小さな箱。カタリっと、箱が動いた。まるで生きているかのように。

内側から、僅かに震える。小さく叩く音が、何かを訴えているようだった。


「────黙れ」


箱を片手で握りしめ、空いた手で印を結ぶ。そのまま箱の上を滑らせた。

たったそれだけで、箱はピタリと止まる。


「完璧だ」


その様子に、祈祷師は暗く笑う。

全ては、自分の思う通りに進んでいる。失敗など有り得ない。




××××××××××



「動いた」


カグヤが呟く。

それはごく小さな呟きで、すぐ近くにいたヒスイにしか聞こえなかっただろう。


「場所は?」

「ここから近いよ」


カグヤは読み取った場所をザウルスに伝え、ヒスイと共有する。


「行くか」


ヒスイの声に頷き返す。


向かった場所は、岩場の洞窟。中に入るとクネクネと入り組んでいた。右往左往していると方向感覚を狂わされる。


洞窟の内部、行き止まりの場所は少し開けた場所だった。よくこんな場所を見つけたものだと感心するが、少しだけ違和感も感じる。

まるで、見つけてもらうために用意されていたかのように────。

 

(あまりにも、都合が良すぎる⋯⋯)


だが、行かないという選択肢はない。ここに精霊の気配がある以上、確かめなければならないからだ。


開けた場所に入った瞬間、二人の足元に魔法陣が展開した。


「カグヤ!」


ヒスイがカグヤを突き飛ばす。


「────っヒスイ⋯!」


カグヤがヒスイを振り返ると、結晶に囚われたヒスイの姿に、言葉を無くす。


「捕まったのは、一人か」


声がした。

何の感情もない平坦な声。


「────誰」


カグヤの誰何に、声が笑う。


「君達と同じだよ」

「⋯⋯同じ?」

「未来を知る者」


影がユラリと揺れて、人の形になった。

この時代のモノと思われる、祈祷師の服装した人物。

だが、この時代のモノでは有り得ない。

この世界の人間は、影から出て来たりはしない。


「⋯⋯⋯あなたが、精霊を捕まえた?」

「さぁ、どうだろうな」


肯定も否定もしなかった。

だが、“精霊”と聞いても驚かないところをみると、間違いなさそうだ。


「監史者を正しいと思うか?」


不意の問いかけ。

カグヤは眉を寄せる。この人物は、監史者を知っている。


「このままの史実通りに進んで、いいと思うか?」

「⋯⋯⋯」

「救える者を救うのがなぜ悪い?」


祈祷師姿の人物は、尚も問いかける。

カグヤも、監史者が全て正しいとは思っていない。

だが、目的も分からない人物に話すのは、あまりにもリスクが高いし、こちらのメリットがない。

だが、ヒスイをこのままにしてはおけないので、どうしようかと思案する。


────⋯⋯⋯だ。


カグヤが口を開く前に、微かに声が聞こえた。

目の前の人物にも届いたのだろう。

顔は見えないが辺りを伺っているところをみると、仲間ではないようだ。

その時だった。


────ビキッ。


一瞬、何が起こったのか理解が追いつかなかった。

何かが、砕けるような音。


「馬鹿な⋯」


祈祷師姿の人物が、ある一点を見つめて驚いたような声をあげる。

カグヤも祈祷師の見ている先に視線を向けた。

次の瞬間────。


────グシャァァァァー!!!!


結晶が、砕け散る。

キラキラと破片が散った。


「────やってくれたな⋯」


底冷えする声。

地の底を這うようなドスの効いた声とは対照的に、顔は爽やかすぎるほどの笑顔だった。そのギャップが恐ろしい。


絶対零度の微笑み。

カグヤはそんな言葉と共に、ヒスイの二つ名を思い出していた。


(“魔王”降臨⋯)


久しぶりの魔王の降臨に、冷や汗が背中を伝う。

周りの空気が一段重くなった気がする。


「────まさか、あの結界を破るとはな⋯」


苦々しい祈祷師の声。

顔は見えないが、苛立っているのは伝わった。


「今日のところは引くとしよう」

「逃がすか」


ヒスイが伸ばした手は、空を掴む。

まるで煙のように、祈祷師の姿は霞んでいく。


「精霊は────私の手中だ」


そんな捨て台詞を残し、跡形もなく消え失せる。


「カグヤ」

「────はい」


魔王に呼ばれて、思わず敬語で答えてしまった。

それにヒスイが笑う。

あっという間に先ほどの濃密な気配が霧散する。いつものヒスイの雰囲気に戻った、と思った瞬間。


「アイツは、オレがやる」


ヒスイが、空中を睨みつけて呟く。


“やる”が、完全に“殺る”に聞こえた。

引き攣りそうになりながら、カグヤは無言で頷くしかなかった。


遅くなりました⋯!

ごめんなさい⋯。

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