第十一話:交錯する運命
隔離されていた空間を解き、ひと息吐いた。
一瞬の気の緩み。
それはときに致命的なミスに繋がる。
「ランスロット?」
第三者の声。
柔らかく、親愛がこもった優しい声。
振り返った先に立っていたのは、この場にいるはずのない人物だった。
「グィネヴィア、王妃」
そう、王妃であるグィネヴィアがいた。
(何故ここに────しかも今、このタイミングで⋯⋯)
色々な考えがカグヤの頭を過ぎる。
ここでランスロットとグィネヴィアを合わせてしまったのは、明らかな失態だ。
(⋯⋯しくじった)
カグヤが動こうとしたとき、引き止めるように肩に触れる者がいた。振り返れば、ランスロットだった。
ランスロットはカグヤと目が合うと、ニコリと笑う。その笑顔は、まるで「大丈夫だ」と言っているようだった。
「グィネヴィア王妃、如何されましたか?」
ランスロットは右膝をついて跪礼し、グィネヴィアに頭を下げる。
その際、ランスロットはごく自然に立ち位置を変えていた。カグヤたちとグィネヴィアの間、それはカグヤたちを背に庇ったようにもみえる。
「国が襲われかけたと聞きました」
「ご心配おかけして申し訳ございません」
グィネヴィアのいう国が襲われかけたとは、あの魔獣騒ぎのことだろう。
ランスロットは頭を下げたままの姿勢で報告を続ける。
「ご安心下さい、そちらはすでに処理済みです」
「ランスロット⋯貴方は大丈夫なのですか? 敵と対峙したと聞きました⋯」
王妃が騎士を心配して話しかけているにしては、少し違和感のある声音。
対するランスロットは、平静を保とうとしているようにも感じる。
「ご心配いただき、ありがとうございます。問題ありません」
(────多分、嘘だ)
カグヤは直感的にそう思った。
初めて祝福された武器を使用して戦ったのだ、体にかかった負荷は計り知れない。
体だけでなく、心にも負担がかかっていたと考える方が自然だ。
それでも、ランスロットはグィネヴィアに心配かけないように問題ないと語ったのかもしれない。
「そうですか────ところで、其方の方々は?」
不意に、グィネヴィアの視線がカグヤとヒスイを捉えた。
二人を交互に見て、カグヤに視線を止める。
「こちらの二人は、私の戦友です。先の闘いにて共闘いたしました。彼らの功績なくして勝利は有り得ませんでした」
ランスロットは、ハッキリとした口調でそう告げた。
たしかに、カグヤはランスロットに祝福を与え、ヒスイはランスロットがトドメをさせるようにお膳立てした。
だが最後に決めたのは、紛れもないランスロットの実力だった。
「⋯⋯⋯⋯⋯」
けれどカグヤは、何も言わなかった。
否定も、肯定も。
言ったところで意味が無いと思ってしまったからだ。
「────そうでしたか、この国の王妃として、感謝申し上げます」
「勿体ないお言葉です」
ヒスイが代表して応え、カグヤは無言のままお辞儀をした。
「グィネヴィア王妃、もう遅いのでお部屋にお戻り下さい」
そう言って、ランスロットが立ち上がる。
このまま部屋までお連れするのだろうか。
止めるべきかこのまま立ち去るか、カグヤがどうしようかと考えていると、続くランスロットの言葉に動きが止まった。
「私はこの二人を見送って参ります」
この国の騎士が王妃を部屋まで送り届けずに、他国の者を優先して良いのだろうか。
グィネヴィアと二人きりにするのは非常に不味いのだが、それでもカグヤはランスロットの言葉に内心激しく戸惑っていた。
「⋯⋯⋯⋯そうですね、では私はこれで失礼致します」
何か言いたげなグィネヴィア。
だがそれを言葉にせず、王妃らしく感情をあまり出さない優雅な笑みを浮かべて自室があるだろう方へ歩いていく。
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
グィネヴィアが去った方を、ランスロットは見つめている。
何か、思うところはあるのだろう。
「ランスロット、オレはちょっと調べたいことがある。カグヤのこと頼めるか?」
「あぁ、任せてくれ」
この後はもう帰るだけのはずだ、そう思ってヒスイを見れば、ヒスイが意味ありげにカグヤを見る。
二人の視線がかち合った。目は口ほどにものを言う。
その目を見た瞬間、カグヤは何も言えなくなってしまった。
「じゃあ、頼んだ」
ヒスイはそれだけ告げると、音もなく闇に紛れて姿を消した。
毎度の事ながら、ヒスイのその隠密スキルには驚かされる。
「カグヤ、行こう」
「────うん」
ランスロットに促され、カグヤは歩き出す。
色々なことが起こり過ぎたが、とりあえず侵入者は確保した。
それは、紛れもない事実だった。
グィネヴィアを登場させるか最後まで悩みました⋯。




