17-2かみ合う2人
ギルバートの家にミーナが行った数日後、今度はギルバートがミーナの家にやってきた。
朝から家中がてんやわんやだったけれど、ミーナの母が、花瓶の花が…や、着る服が…、などと一番慌てていた。
無事ギルバートを家に迎え入れると、ミーナの両親は、ミーナがお嫁に行くことを実感してきたのか、二人で手を取って泣き出してしまった。
ギルバートはそんな二人に困惑していた。ミーナは、自分を大切に思ってくれる二人に、思い切り抱きついた。
応接室でお茶をした後、昼食の時間まで、ギルバートはミーナの部屋で話をすることになった。
ギルバートは、ミーナの部屋に入ると、懐かしいな、と言った。
「昔とあまり変わらないな」
「確かにそうかもしれない」
ミーナは自分の部屋を見渡して改めてそんなことを思う。
幼い頃はよくお互いの部屋で遊んだりしたけれど、お互い大人になってからはそんなことはしなくなった。
「(…それが今、また部屋に呼ぶ関係に戻るとは…)」
ミーナはそんなことを考えてなんだか照れくさくなる。ふと、部屋の棚に幼い頃に2人で撮った写真が飾られているのが見えて、ミーナは指をさしながらそちらへ向かった。
「この写真、懐かしいね」
「ああ、本当だ」
ギルバートは写真に近づいて、小さく微笑む。ミーナは、ギルバートの横顔を見つめて、つられるように微笑む。
ギルバートは、写真を見つめながら、ほんの少し眉をひそめた。
「…この頃、ジャックが頻繁に君をからかっていた」
「そう、…そうだね。でもね、ギルバートがいつも追いかけ回してくれたから、私、とても嬉しかった。怒ってくれるの、ギルバートだけだったから」
「怒ってはいたけど、…もっと、俺が君に対して思うことを伝えられていたら、今よりも君が傷つかなくて済んでいたのかと思う。あの頃俺は、君に本心を言えなかったから、だから君は、奴らの言う事が世界の共通認識だと勘違してしまった」
ミーナは、そう苦しそうに言うギルバートを見つめる。ミーナは彼を見上げながら、ううん、と頭を振る。
「私、今ギルバートがそう言ってくれるのなら、もうそれで良いんだ」
ミーナはそう言って微笑む。ギルバートはそんなミーナを見つめる。
ミーナは真剣なギルバートの瞳を見つめ返しながら、ふいに、とある年の夏休みの日を思い出した。いつものようにミーナの家とギルバートの家が集まった日、ミーナはギルバートに好きな人がいるのかと尋ねられた。その時、事前にギルバートの好きな人を知っていたミーナは、咄嗟に。
「…あっ!」
ミーナは、自分があの時オリバーを好きだと彼に伝えたことを思い出した。突然声を上げたミーナに驚いたらしいギルバートは、えっ、と目を丸くした。
「ど、どうしたんだ?」
「いや…言ってた…、私、言ってた…!」
思い出したミーナは頬が少しずつ赤くなる。
「(散々ギルバートに、好きな人についての嘘を謝らせておいて、自分も嘘をついていた…。しかもそれを忘れていた…)」
「だ、大丈夫か…?」
「え、ええと、お、思い出した…。私たしかに、あなたにオリバーが好きだって言ってた…」
ミーナは額に手を添えて深呼吸をする。ギルバートは、突然のことに、えっ、と声を漏らす。
「私、動揺してて…あなたがアイリーンのことを好きだって、事前に知ってたから…」
「……」
ギルバートは目を丸くしてミーナを見つめる。ミーナは、ギルバートに散々謝らせた手前、彼に見せる顔がなくて目を泳がせる。
「…それは、…どうして動揺したんだ?」
ギルバートは、ミーナと向き合って、そう尋ねた。ミーナは、え?と声を漏らす。ギルバートは真剣な目でミーナを見つめている。
「そ、それは…」
「…うん」
「それは、…」
ミーナはどんどん頬が赤くなる。背中に汗が流れるのを感じる。怯みたくなるけれど、しかしミーナは、真っ直ぐに目の前の人を見つめ続ける。
「それは、私が、あなたのことをずっと、好きだったから…」
やっと言えた、とミーナは心の中で叫びたくなった。心臓の鼓動が煩いほど鳴り響く。ミーナは深呼吸を繰り返して、その鼓動を鎮めようとする。
ギルバートは、ゆっくりと瞬きをした後、ミーナの頬に両手を添えた。
「…うん」
ギルバートはそう言うと、ミーナに顔を近づけて、そっとキスをした。ミーナは目を閉じる余裕もないまま、唇が離れた。近い距離でお互いの目が合った時、ミーナは恥ずかしさから目を泳がせた。ギルバートはそんなミーナを見つめて、かわいい、と囁く。
ミーナはどんどん頬の熱が上がるのを感じるけれど、負けずに、ギルバートに、大好きだよ、と伝える。ギルバートはそんなミーナを見つめて幸せそうに笑うと、また彼女にキスをした。




