16-2心が動くとき
以前よりもさらに大変なことになってしまった、とミーナは困惑していた。
方便だと思っていたけれど実は、本当にギルバートがこんな自分のことを好いてくれていて、さらには、ギルバートは人目も憚らずに可愛いだの好きだの連呼してくるようになってしまった。
「(…なんでこんなことに…)」
ミーナは、先ほども教室までやってきて、大真面目に好き、だの可愛い、だの言って去っていったギルバートを思い出して、混乱から頭を抱えた。
「(…どうしてこんなことに…。というかそもそも、そういうタイプじゃなかったじゃん、ギルバート…)」
長い間一緒にいたから、よく知っていたとばかり思っていたギルバートの豹変に、ミーナはさらにわけがわからなくなる。
「(私なんかが可愛いなんて、周りの人が聞いて笑われてるんじゃ…)」
ミーナはそんな羞恥心から机に顔を埋める。すると、ぽんと背中を叩かれた。恐る恐る顔を上げると、にこにこ笑顔のアイリーンがいた。
「アイリーン」
「お熱いわね。えらく仲良しじゃない」
そう嬉しそうに言うアイリーンに、ミーナは頬を赤くして目を逸らす。
「…本当に恥ずかしいよ、私。…こんな人前であんなことを言われて、笑われてやしないかって…」
「まあそうね、微笑ましくて笑っちゃうけど」
「…私なんかが可愛いなんて、そんなの可笑しいよ」
ミーナは、心の中で抱えていた羞恥の原因を漏らす。そしてすぐにはっとして、こんなことを人に言っても気を使わせるだけだと慌てた。
しかしアイリーンは、何を言っているの、と目を丸くした。
「ミーナ、あなたって可愛いじゃない」
「え」
「可愛いわよ。私、ずっと思ってたわ」
「えっ…」
そんなわけがないのに大真面目に言うアイリーンに、ミーナは動揺する。アイリーンはしゃがみこむとミーナと目線を合わせた。
「ねえミーナ、あなたきっと、何か勘違いしているわ」
「勘違い…」
「私ってよく可愛いって言われるでしょう?でも、その噂につられて私を見に来た男に、大したことないじゃんってわざわざ言いに来られたことが何回もある」
「そっ!そんなの許せない!!そんなわけがないのに!!」
ミーナは眉をひそめて、目の前にいるとんでもなく可愛い、そして自分にとって大切な人が傷つけられたことに憤慨する。そんなミーナを見つめて、アイリーンは目を細める。
「ありがと。あなたがそうやって思ってくれる一方で、そう思わない人もいる。…他人の基準なんてあやふやで、とても不確かよ。絶対的な正解なんかない。大事なのはね、きっと、何人に何を言われたかじゃない。誰に何を言われたかよ。ねえミーナ、あなたは昔、心ない言葉をたくさんかけられたと思う。たくさん傷ついたと思う。でもね、あなたにわざわざそんな言葉をかけた人たちっていうのは、あなたにとって取るに足らない存在だと思うの。だからそんな言葉は信じなくていい。だって私は、あなたが大好きなんだもの」
ミーナは、アイリーンの目を見つめる。目の奥から熱い涙がこみ上げるのを感じる。
自分を好きだと言ってくれる人がいる。その事実に、ミーナはひどく安堵する。
素直な人になりたい。ミーナはそんなことを改めて思う。自分の自信のなさのせいで、自分を思ってくれる人をはねのけてしまうようなことはせず、素直に気持ちを受け取りたい。
ミーナはまっすぐにアイリーンを見つめる。
「あのねアイリーン、私もね、あなたが大好きなの」
震える唇で、ミーナはそう紡ぐ。自分なんかが、ということは考えず、ただただ、目の前の大切な人に向けて言葉を発した。アイリーンは目を少し丸くしたあと、嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう、ミーナ。私もよ」
「あのね本当によ?本当に私、あなたが大好きなの、本当よ?」
「なあにミーナ、ギルバートみたいよ」
アイリーンがくすくすと笑う。ミーナは、伝えられた嬉しさと恥ずかしさから頬が紅潮する。
「(…言っても良かったんだ、私でも)」
好きという気持ちを受け入れてもらえたことに、ミーナは、胸の奥がくすぐったいような気持ちになる。恥ずかしくて照れくさくて、ミーナは両手をもじもじと動かした。アイリーンはそんなミーナにまた小さく微笑む。
「そうだ、レーガがお菓子つくってくれたみたいだから、今日放課後一緒にいただきにいく?」
「お菓子…!…ねえアイリーン、でもその、…そこに私、お邪魔してもいいの?」
「え?」
「ほら、あなたとレーガって…」
「ねえミーナ」
声をかけられて、顔を上げるとガーベラがいた。ミーナは、…ガーベラ…、と声をもらす。
「今日の放課後、またみんなでお話しない?」
ガーベラはそう言って優美に微笑む。ミーナはつい反射的にほほ笑み返す。そんなミーナを見たアイリーンが、小さく微笑むと、それじゃあね、と言って立ち上がって歩き出した。ミーナはそんなアイリーンを見上げる。
「ごめんなさい、先約があるから」
ミーナはそう言うと立ち上がって、アイリーンの後を追いかけた。アイリーンは驚いた顔でこちらを見ていた。
ガーベラは少し目を丸くした後、あら残念ね、と言うとこの場から去った。
「…よかったの?」
アイリーンがぽつりとそう尋ねた。ミーナは、うん、と頷く。
「だって、アイリーンと約束したじゃない」
「…でも、私って…」
アイリーンはそう言いかけて止める。ミーナは、前にアイリーンから、自分はほとんどの女の子に嫌われているから、と言われたことを思い出す。
ミーナは頭を横に振ると、私はね、と言った。
「周りの言うことは関係ない。私はね、私の知ってるあなたのことが大好きだから」
「…ミーナ、」
「そもそも、あなたが言ったんじゃない。そんなのは取るに足らない人たちの言葉だって」
ミーナはそう言って笑う。アイリーンは目を丸くした後、ほんとだね、と嬉しそうに笑った。
放課後、ミーナは久しぶりにレーガのお菓子に舌鼓を打った。
お菓子を食べた後、ミーナはレーガと一緒に勉強して、その様子をアイリーンが見ていた。
しかし、途中からアイリーンが忘れ物をしたと言って席を外してしまった。ミーナはレーガと2人きりになると、ちらりとレーガを見た。
「…ねえレーガ、…余計なお世話かもしれないことを聞いてもいい?」
「ん?なあに?」
レーガはノートから顔を上げるとミーナの方を見た。ミーナは周りを見回して、アイリーンがいないことを確認すると、小声で話しかけた。
「…レーガとアイリーンって、どういう関係なの?」
「え?友達だよ〜」
レーガはほのぼのと返す。ミーナは少し目を丸くした後、そ、そっかあ、と微笑んだ。
「(…つまり、恋人同士というわけではないのか…。なら、私はお邪魔というわけではない…)」
「僕なんかとアイリーンが、恋人になれないよ」
レーガはそう苦笑いをする。ミーナは思考を読まれていた気がしてびくりとしたあと、レーガの方を見た。
「…お、お節介なこと聞いてごめんなさい…」
「ううん、そんなことないよ」
「…でも、僕なんか、っていうのは、聞き逃がせないかもしれない」
ミーナは大真面目にレーガの方を見る。レーガは目を丸くしてミーナの方を見たあと、優しく微笑んだ。
「ギルバートの気持ちが通じたみたいでよかったよ」
「へ?」
「前までと、なんだか雰囲気が変わったもの。これまでは過剰に萎縮してたのに、なんだかのびのびとしてる」
レーガはそう言って目を細める。ミーナは少し目を丸くした後、ゆっくり微笑む。
「…レーガが前に言ってた、いるべき場所が、私にもわかった気がする」
ミーナはそう言って口元を緩める。レーガはミーナの言葉ににこりと微笑む。
二人してにこにことしていたら、ミーナの隣の席に誰かが腰掛けた。アイリーンが戻ってきたのかと思ったら、ギルバートがいた。
「ぎ、ギルバート!」
「…2人は仲が良いのか?」
ギルバートが用心深く尋ねる。ミーナは瞬きをした後レーガを見て、まあ、仲良くしてもらってるかなあ、と返した。ミーナの言葉にギルバートの眉がぴくりと動く。
レーガはそんなギルバートに小さく吹き出した後、お菓子仲間だよねえ、とミーナに言った。
「今もアイリーンと三人でお菓子食べてたんだ。ギルバートも仲間にはいる?」
「アイリーンと?」
ギルバートはそう返すと、力が入っていた眉が通常に戻った。その時、おまたせー、とアイリーンの声がした。
「なかなか見つからなくって…、あれ、ギルバート。どうかした?」
アイリーンがそう尋ねると、…いや、とギルバートは頭を振った。レーガは小さく微笑むと、鞄から茶色い袋を取り出して、のこったお菓子の半分をいれ、それを差し出した。
「ミーナ、これ持っていってよ」
「え?」
ミーナはよくわからずにそれを受け取る。何かを察したらしいアイリーンが、そうね、と笑った。
「ギルバートに勉強を教えてもらったら?今回も真ん中目指すんでしょ?」
「う、うん…」
ミーナはアイリーンにそう促されて訳がわからないまま立ち上がった。ギルバートは、なら行くか、と言うと立ち上がって歩き出した。
すると、レーガがミーナにこそっと話しかけた。
「ギルバート、かなり嫉妬深いから気をつけたほうがいいよ。僕なんかにでも妬いちゃうくらいなんだもの」
レーガがそう苦笑いを漏らす。そんなレーガに、ミーナは、もう、と眉をひそめる。
「なんか、じゃないってば」
ミーナの言葉に、レーガはまた目を丸くした後、うん、と微笑んだ。ミーナはそんなレーガに微笑んだあと、二人に手を振って歩き出した。
ギルバートと勉強のできそうなテーブルのある中庭まで歩いて向かった。
周りからの視線を感じて、ミーナは反射的に目を伏せる。すると、あっミーナ、と声をかけられた。顔を上げると、前にミーナとギルバートのことを尋ねてきた二人のクラスメイトがいた。
二人はギルバートが隣にいたことに声をかけてから気がついたのか、目を丸くした後気まずそうに、ごめんね、とミーナに謝った。ミーナは、ううん、と頭を振る。
「何かあった?」
「ううん。前みたいな話、聞きたかっただけ」
「そうそう」
二人は顔を見合わせてそう笑う。そして、ミーナのほうを見ると、またね、と手を振った。
「素敵な二人ね」
二人はそう、きらきらの瞳で言う。そんな二人に目を丸くした後、ミーナは少しずつ頬を赤くした後、ゆっくり微笑んだ。
「ありがとう」
ミーナはそう、嬉しい気持ちで2人に返す。素直な人になりたい。またそんなことを思う。優しい言葉をかけられたとき、素直に受け取って、優しい言葉で返せる人になりたい。
ミーナは2人に別れを告げると、少し前で立ち止まっていたギルバートに駆け寄る。
「お待たせしました」
「いや…、知り合い?」
「うん。クラスメイトだよ」
ミーナはそう言ってまた歩きだす。ふーん、と返したギルバートはその隣で歩く。
ギルバートと2人で廊下を歩きながら、ミーナは不思議な気持ちになる。この学園に入ってから、お互いなんとなく2人でいることは避けてきた。それが今、また昔のように2人で歩いている。婚約者同士となって。
「(…そっか、結婚するのかあ…)」
ミーナはそんなことを改めて思って胸の奥がくすぐったくなる。隣を歩くギルバートをちらりと横目で盗み見る。綺麗な銀髪が、窓から入り込む風に揺らされている。
「(…そういえば私、好きだって言えてたっけ…)」
ミーナは、はたとそんなことを思う。向こうから言われてばかりで、自分はちっとも言えていない。
「(…アイリーンにも言えたんだもの。この勢いに乗るしかない…)」
そう意気込むものの、胸の鼓動がやたら激しくなり、ミーナはうまく言葉が紡げない。何度も何かを言おうとしては口を閉じる、というのを繰り返す。
すると背後から、おーい!という声がした。振り向くと、ギルバートのクラスメイトが数人いた。
「頼むギルバート、少しだけ力を貸してくれ!」
「今皆で集まって勉強してるんだけど、どうしてもわからないところがあって…」
頼む!と両手を合わせるクラスメイトに、ギルバートは、断る、ときっぱり言い放った。
「先約がある」
「えっ!そう言うなよ!」
「少しだけ!!」
「断る」
ギルバートは聞く耳をもたない。クラスメイトたちは途方に暮れた顔をする。ミーナはギルバートを見あげると、ねえ、と言った。
「私、先に中庭に行って、レーガのくれたお菓子食べて待ってるから、ギルバートはお友達のところ行ってきて」
「でも…」
「助かるミーナ!」
「さすがギルバートの奥さん!」
調子のいい顔でクラスメイトたちがミーナに感謝する。ギルバートは怪訝そうな顔をした後ため息をつき、わかったよ、と言った。
「すぐそっちに行くから」
ギルバートはそう言うとクラスメイトたちと歩いて行った。ミーナはその背中に小さく微笑むと、中庭に向かって歩き出した。
中庭に向かい、ミーナは椅子に座った。そして、レーガがくれた紙袋の中を見つめた。おいしそうなクッキーに目を輝かせて、今日くらいはたくさん食べてもいいか、と自分を甘やかして袋のなかに手を伸ばした。
「あらミーナ、こんなところにいたの」
声がして、ミーナは反射的に背筋が伸びる。振り向くとガーベラと、その友達が笑顔でこちらを見ていた。
「…ガーベラ、」
「ちょうどみんなでお話してたの。一緒に話しましょう」
そう言って、ガーベラたちはミーナのそばにやってきた。ミーナは、うん、と反射的に頷くと立ち上がり、その輪に入った。
ガーベラたちの話は、テスト明けに開かれる学園のダンスパーティーの話になった。学園の目立つ有名人が誰と踊る、だの、誰々は誰々に断られた、だの、彼女たちの話題は尽きない。
「そういえば例のビル、隣のクラスのクリスティをお誘いして断られたらしいわよ」
女子生徒の一人が、そう笑いながら切り出した。やだ、とガーベラたちは嘲笑する。
「あの不細工な男でしょ?よくもクリスティを誘えたわよね」
「身の程知らずよ」
「鏡を見たことがないから身のほどを知らないのよ」
ガーベラの言葉に、女子生徒たちが一斉にくすくす笑う。ミーナは彼女たちの笑いについていけない。
「そういえばみた?2年のあの女子生徒」
「みたみた!制服がはちきれそうな」
「あの体型でよく外を歩けるわよね」
「恥ずかしくないのかしら」
「私なら生きていけないわ」
彼女たちの笑い声が響く。ミーナはその声のなかで取り残される。
「(…これまで私は、こういう人たちの勝手に決めた基準で、笑われてたんだ…)」
ミーナはそう、この笑い声のなかで客観視する。魔女のような顔で嘲笑う彼女たちを呆然と見つめる。
「(…本当に、彼女たちは正しいの?)」
「ねえミーナ、あなたもそう思うでしょう?」
ガーベラが笑顔でミーナに話しかける。ミーナは、はっとしてガーベラを見つめる。
ずっと彼女が自分にとっての正解だった。けれど今ようやく、その決めつけが自分を滅ぼしているんだとわかった。
「…ごめんね、よくわからない…」
ミーナはそう、弱々しく返す。彼女たちの笑い声が徐々に止む。
ガーベラは恐ろしいほどの笑顔のまま黙ってミーナを見つめる。ミーナは生唾を飲み込む。
「…ごめんなさい私、…笑えない。その話、…私には、あんまり面白くないのかもしれない……」
ミーナはそう恐る恐る告げる。重苦しい沈黙のあと、女子生徒たちは顔を見合わせて吹き出し、そして馬鹿にするような、嫌な嘲笑をした。
ガーベラは笑顔のまま、真っ直ぐにミーナを見据える。その笑顔に、ミーナの背筋から汗が流れる。
「…何か、勘違いをしていないかしら?」
ガーベラは、そう穏やかに言う。ミーナは震える声で、え、と呟く。ガーベラはミーナに近づく。
「ギルバートに好きだと言われて、思い上がってはいないかしら?こんな人に好かれるなんて、自分は周りより素敵なんだって、そんな勘違いをしていない?友人として訂正してあげる。それはとんだ間違いよ。そんな恥ずかしい間違い、すぐに訂正したほうがいいわ」
ガーベラはそう言って微笑む。ミーナはそんな彼女を見つめる。
自分を可愛いと言ってくれる人がいる。そうじゃないという人もいる。どちらを信じたらいいのか、どちらが正しいのか、何も分からない。それでも。
「それでも良い。間違いでもいい。私の好きな人たちが私を好きだと言ってくれて、可愛いと褒めてくれてるんだもの。私はそれを信じたい」
ミーナは、震える声でそう返した。ガーベラの周りの女子生徒たちが黙って顔を見合わせる。ガーベラは笑顔のままミーナを見つめている。
ミーナは、それに、と続けた。
「私とあなたは、本当は相容れないのよ。…またあなたに声をかけてもらえて嬉しかった。でも、無理に仲良くしてもらわなくていい。あなたにはあなたの気の合う友達がいて、私にもいるのだから」
ミーナはそうガーベラに告げた。萎縮していた体が、恐怖からさらに縮こまる。
ガーベラは、笑顔を少しずつ無表情に変えた。息が詰まるような空気が流れる。
「……豚のくせに」
ガーベラはそう小さく吐き捨てる。ミーナは瞳を揺らして彼女を見つめる。
「図に乗らないで。私はあんたと仲良くなりたいなんて、一度だって思ったことがない。出会ったときから今までずっと、あんたのことが大嫌いよ」
「…じゃあなぜ、仲良くするふりを…」
そう言いかけてミーナは、引き立て役か、と思い出して口を噤む。
ガーベラは恐ろしい顔でミーナを睨みつける。
「…あんたにだけは言いたくない。絶対に」
ガーベラはそう冷たく言い放つと、踵を返して歩き始めた。ミーナが呆然と立ち尽くしていると、ガーベラがはっとして立ち止まるのが見えた。ガーベラの視線の先を見ると、ギルバートがこちらへ向かってくる姿があった。
「…ああ、ガーベラ、えっと、それと…」
ギルバートはガーベラと、その周りにいる友人たちの名前を思い出そうとして固まる。ギルバートは軽く咳払いをした後、やあ、と軽く微笑んで誤魔化した。
ギルバートを見つめたガーベラは、表情をしかめてみるみる頬を赤くした。ギルバートは、ガーベラの様子に、少し目を丸くした。ガーベラは唇をかみしめた後、ギルバートにそっぽを向いて駆け出した。困惑した女子生徒たちが、慌ててガーベラの背中を追いかける。
「(…もしかしてガーベラ、ギルバートのこと…)」
ミーナは、前から薄々感じていた予感を、さらに強くする。
一方ギルバートは、おろおろとミーナのそばにやってきた。
「…す、すまない、どうやら俺が彼女の機嫌を損ねてしまったらしい…」
ギルバートはよくわけがわからないままそうミーナに謝った。ミーナはギルバートを見上げて、ううん、と頭を振る。
ミーナは、昔のガーベラの優しい笑顔と声を思い出す。こんな最後になってもなぜ自分はこのシーンを思い出してしまうのか、ミーナは自分でも分からない。
「…違うの、ギルバートは何も悪くないよ。…さっき少し話をしてね、私とガーベラは、もう一緒にいられないって、…お互いわかったの」
ミーナはそう言って目を伏せた後、空を見上げて微笑む。ギルバートは心配そうにミーナの横顔を見つめる。
「…そうか」
ギルバートは何かを言いたそうにしていたけれど、口をつぐみ、それだけ言った。ミーナは、ごめんね、もう帰ろう、とギルバートに告げた。




