14-2大切なこと
早朝にミーナと会って、彼女を宿舎まで送り届けてから、ギルバートは自分の宿舎に戻った。
自室に戻るために宿舎の中を通って歩いていると、食堂ではもう朝食を求める生徒達が多数いた。その中に、いつもの取り巻きたちと座って朝食を取るジャックの姿が見えた。ギルバートは方向を変えて、真っ直ぐにジャックの方に向かった。
「おい」
目の前に来て声をかけると、ジャックはギルバートを見上げて少し驚いたような顔をした。そしてすぐ、おお、と嫌味な様子で目を細めた。
「おはよう。機嫌がずいぶん良さそうだな」
「日曜日のミーナとの約束を、断りに来た」
ギルバートはそう、ジャックに言い放った。するとジャックは、鼻で笑うと、立ち上がった。
「おいおいおい、好きにしていいんだろ?」
ジャックのわざとらしいほどの言い方が食堂内に響いた。周りの生徒達が異変に気がついてこちらに注目しだした。
ギルバートは、周りの視線も構わずにジャックを冷静に見据える。
「確かに昨日そう言った。だから、劇のチケットも、食事の予約もしていたならその分も、こちらが払う。それで日曜日の約束はなしだ」
ギルバートの言葉に、周りの生徒達が口々に騒ぐ。
ジャックは余裕そうにギルバートを見つめる。
「で、理由は?」
「…」
「理由もなしに、人の自由を奪うわけか?」
どうせ理由なんかないんだろ、と言いたげなジャックを、ギルバートは真っ直ぐに見つめる。
目の前の男のことを、ギルバートは忌み嫌っていた。こんな男の前で自分の本心を言うなんて、考えるだけで鳥肌が立つ。
でも今、そんなことはどうでもよく思えた。自分の中で守ろうとしてきた男らしさなんか、ミーナを前にしたら取るに足らないものなのだ。
「俺が、彼女を好きだからだ。好きな女性が他の男と出かけることは不快だ」
ギルバートがそう言うと、周りの生徒達が一瞬で静かになった。そして、しばらくの間の後、口々に困惑の言葉を言い始めた。
ジャックは目を丸くして一瞬動揺した後、余裕ぶるように鼻で笑った。
「冗談はよせよ。あのミーナだぞ?幼馴染が鈍くさくて可哀想だからって、いつまでも庇ってんなよ」
ジャックの半笑いの言葉に、周りの生徒たちも小さく笑う。あのミーナだもんな…、確かさんざん笑われてた人だろ?という声が聞こえる。
ジャックはそんな周りの声を聞きながら、ほらな、と笑う。
「お前のその真面目ぶるところ、昔から気に食わないんだよ。いいや、全部気に食わない。お前の全部が嫌いなんだよ、俺は」
ジャックは、そう私怨を込めた瞳でギルバートを睨みつける。ギルバートは、そんなジャックに眉をひそめる。
「…今そんな話はしていない。俺は、彼女との約束を取り消せと言ってるんだ」
「理由もないのに取り消さない。俺は行く、お前の婚約者とな」
ジャックはそう、ギルバートの先ほど言ったことをただの方便だと受け取っているのか、そう返す。ギルバートは、一度歯を食いしばると、眉を更にひそめて、鬼のような形相でジャックに詰め寄った。
「俺は!ミーナが好きなんだ!!12年間ずっと!!だから!!行くなと言ってるんだ!!!」
そんなギルバートの気迫迫る様子に、流石のジャックも、は、はい…、と声をもらす。ギルバートは、肩で息をしたあと、踵を返して食堂を去った。その間、食堂の中は静まり返っていた。
ギルバートは食堂を出て廊下を歩く。
これまで恐れてきた軟弱な部分をさらすという行為は、存外悪くない、と不思議な高揚感の中ギルバートはそう思った。これまでため込んでいた気持ちを晒したことで、思いのほかすっきりとした。
これでミーナに良い報告ができる、とそんなことを思いながら歩いていると、食堂にいるはずのジャックが、なぜか突然ギルバートの目の前に現れた。
「な、なんだお前…」
ジャックはいつもの嫌味な笑顔でギルバートの顔を覗き込む。
「だがなギルバート、俺はミーナに手を出すぞ」
「は?」
「手を出してやるからな」
ジャックはそう言うと、前方を見た。するとなぜか、男子寮の廊下を歩くミーナの背中が見えた。
「えっ、な、なんでミーナが…」
ギルバートが動揺している隙に、ジャックが走ってミーナに近寄る。ギルバートは、あっ!と声を漏らすと慌てて駆け出そうとした。しかし、ギルバートの足元だけがぬかるんで前に進めない。なんとかジャックを追いかけようと焦って足を動かすが、思うように動かず、ギルバートはそのまま前に倒れた。
ジャックがミーナにどんどん距離を詰める。そして、ミーナに手を伸ばす。ミーナは背後から近づく人物に気がついたのか、肩を揺らして振り向く。丸い瞳がジャックをとらえると、恐怖に揺れた。ギルバートは必死に彼女に向かおうとするが前に進めない。
「あーーー!!!」
声を上げて起き上がると、ギルバートは医務室のベッドの上にいることに気がついた。体中に汗が流れ落ちている。
「(……夢…?)」
ギルバートは肩で息をしながら前髪をかき上げながら、先ほどまで見ていたものが夢だったことにとりあえず安堵する。
「(…今朝あったことを思いだしているのかと思っていたら、とんだ悪夢に転換していたな…)」
ギルバートは額の汗を拭い、そして眉をひそめるとベッドから勢いよく立ち上がった。
「(とにかく、ジャックにきつく言いに行かなくては…!)」
ギルバートが鬼の形相でベッドから出た時、起きたの?というミーナの声がした。医務室の扉から入ってきたらしいミーナが、心配そうな顔でギルバートの方へやってきた。
「起き上がっても大丈夫なの?」
ミーナは眉をひそめてじっとギルバートを見つめる。ギルバートは、問題ない、と返す。そんなギルバートに、ミーナは心配そうにさらに眉間にしわを寄せる。
「さっき医務室の先生と話していたの。先生もおっしゃっていたけれど、今日はもう宿舎に戻って休んだほうがいいよ」
歩けるようなら、私、宿舎まで送るから、とミーナはギルバートを手招きした。ギルバートは、いや、と口を開いた。
「もう平気だ。俺は教室に戻る(一刻も早くジャックに話をつけきゃならん…!)」
「ええ?!だ、駄目だよそんなの、休んだほうがいいよ…」
「問題ない」
ギルバートはそう言うと、行こう、とミーナに声をかけた。
「君を教室まで送るから」
「えっ!…さ、さっき倒れた人に送ってもらうわけには…」
「何を言ってるんだ!君が一人の時にジャックと出くわしたらどうするんだ!」
ギルバートは必死の形相でミーナに訴える。ミーナはそんなギルバートの圧に怯みながら、そ、そうかな…、と曖昧に返した。ギルバートは、そうだ!とミーナに駄目押しをする。
「とにかく送るから」
ギルバートはそう言うと歩き出した。ミーナは、う、うん…、と頷くとギルバートの後に続いた。
授業の終わりを告げる鐘の音を聞きながら、ギルバートはミーナのクラスにやってきた。ミーナは教室の扉の前に来ると、ありがとう、と頭を下げた。
「あの、…本当に大丈夫?やっぱり帰って休んだほうが…」
「問題ない。…それより、今からきちんとジャックに話してくるから。だから、君は何も心配しないでくれ」
ギルバートはミーナにそう真剣に告げる。ミーナはそんなギルバートに、申し訳なさそうに眉をさげる。
「ごめんなさい、あの、余計な心配をさせるようなこと、言ってしまって…」
ミーナはそう言いながら顔色を悪くする。ギルバートは、違う、と慌てて否定する。
「元はと言えば、あいつに嫌われている俺のせいだ」
「で、でも、」
「とにかく今から話をつけてくる。何も心配しないでくれ」
ギルバートはそう言うと、ミーナに小さく微笑み、女子のクラスを後にした。
ギルバートは自分のクラスに向かった。すると、教室前の廊下で取り巻きと何やら話をするジェームズの姿が見えた。ギルバートは眉を小さくひそめると、彼らの方へまっすぐに向かった。
「なあジャック、もうミーナにちょっかいかけるのやめといたら?」
「今朝、ギルバートがあんなこと言ってたのに、これ以上ミーナに何かしたらまずいって」
取り巻きがジャックに言いにくそうに伝えている。そんな彼らに、ジャックは不機嫌そうに眉をつり上げる。
「…なんだと。お前たちも、あいつより俺のほうが下だって、そう言いたいのか?」
「そ、そういうわけではなくて…」
「でもさすがに、ギルバートがあそこまで言ってるのに、ミーナに手を出すのは…」
取り巻きたちが、こちらにきたギルバートに気がついて一斉に口をつぐんだ。ジャックは遅れてギルバートに気がつくと、余裕そうな顔を取り繕った。
「やあギルバート。体調が随分良いらしいな」
「お前、ミーナを休日に誘うだけでは飽き足らず、手を出すつもりだったんだって?」
ギルバートの言葉に、教室にいた生徒達が一斉に静まり返り、そしてドアの近くや教室の窓からさっとこちらの様子をのぞきにやってきた。廊下にいた生徒たちもフリーズして、2人の話の行方を見守っている。
ギルバートからの言葉に、ジャックは目を丸くし、周りを見回した。
周りはギルバートの言った言葉を理解してきたのか、口々に騒ぎ始める。
「えっ、ギルバートの好きな人に…?」
「それは、…度胸あるな…」
「流石にまずいだろ…」
ざわざわと生徒達が騒ぎ立てるのを聞きながら、ジャックは分が悪そうな顔をする。しかしジャックは、すぐに余裕そうな顔を作り立てて、ギルバートに対して鼻で笑った。
「ボランティアだよ。誰にも相手にされてなくて可哀想だったから声をかけてやっただけ。じゃなきゃ誰があんな、グズでブスな豚なんかに近づくかよ。普通に考えたらわかるだろ。好きだなんて言うお前が異常なだけなんだよ」
ジャックは、そう憎たらしい表情で言い返す。
ギルバートは、そんなジャックを冷たい目で見下ろす。
「お前が勝手に心の中でどう思おうが、俺には全く関係ない。だが、お前の勝手な主観でミーナに余計なことを言って、彼女を傷つけることはやめろ。そんなこと、俺は絶対に許さない。彼女は俺の大切な人だ」
ギルバートがそうジャックに言い放つ。ジャックは何も言い返せずに言葉に詰まる。
すると、顔色が悪くなっていくジャックを見た生徒の1人が小さく吹き出した。
「…ギルバートに何やっても勝てないからって婚約者になんかするのは、ちょっとださいな」
そんな声が小さく響くと、教室にいた生徒達はくすくすと嘲笑し始める。ジャックはその声を聞きながら慌てて、はあ?!とギルバートを睨む。
「俺の主観じゃない!一般論だ!あの女はデブでブサイクで、」
「そもそもお前はさっきから何を言ってるんだ彼女は限度を大幅に越すくらい可愛いだろうが!!!」
とうとう怒りが爆発したギルバートはジャックにそう詰め寄る。ジャックも負けじとギルバートを睨み返す。周りにいる生徒達は盛り上がり、もっとやれ!と煽る。
そこへジェームズがやってきて、まあまあまあ、と二人の間に割ってはいる。
「その辺にしとこうぜ。先生もいらしたしさ」
な?とジェームズは、扉のそばで身を潜めていた教師の方を見る。すると教師は、だ、大丈夫、始業まであと5分あるから…、と怯えながら返した。
ギルバートは教師の方を見ると軽く咳払いをして、そして改めてジャックの方を睨みつけた。
「とにかく、今後彼女に何かしたらただじゃおかないからな」
ギルバートはそう言うと、自席に戻った。ジャックは、誰がするか!とギルバートの背中に返す。
他の生徒達は、ジャックの方を冷笑的な態度で見ていた。この空気感の中、ジャックの取り巻きたちも流石に気まずそうな顔をしていた。
それ以来、ギルバートはジャックがクラスにいるときは彼を見張り、休み時間等はミーナのクラスに行って彼女を見守りに行くようになった。
「あの…、だ、大丈夫だから……」
今日も今日とてギルバートがミーナのクラスに向かうと、彼の姿に気がついたミーナが教室の入り口までやってきてそう言った。ギルバートは、大丈夫なものか、と眉をひそめてミーナを見つめた。
「何かあってからでは遅いんだ」
「ぎ、ギルバートがここまでしてくれたから、たぶんきっともう何も起こらないよ、だからもうだいじょ、」
「何も起こらなくなったことを確認してからでないと気がすまない」
一歩も譲らないギルバートに、ミーナは困惑した顔をする。ミーナは何やら周りの様子を気にしたあと、ギルバートに小声で話しかけた。
「本当にごめん、ほんとにごめん!私が余計なことを言ったから、あなたに余計な心配かけて…」
「余計な心配なんか…」
ギルバートは、申し訳なさそうに眉をひそめてこちらを見上げるミーナを見つめて一瞬固まる。
「(…かわいい…)」
「…ねえギルバート、あのね、さすがに私、ちょっと申し訳ないというか…」
「(…かわいいが過ぎる。過ぎすぎている)」
「こう毎度来てもらうこと、本当に悪いなって…。あれから一度もジャックは私に近づかなくなったし、もうギルバートに来てもらわなくても…。あなたにも変な噂が立ってしまっているし、そろそろこの辺でやめておいたほうが…」
ミーナはそうギルバートに告げる。ギルバートはミーナの言葉にはっとする。
「(…変な噂…、やはり俺の告白を冗談かなにかだと思っている…)」
「あのねだからもう…」
「俺は、君のことが好きなんだ」
ギルバートはそう真剣にミーナに告げた。すると教室が一瞬で静まり返る。ミーナは目を丸くして、その後周りの様子をうかがい、そして顔を青くしてギルバートの方を見た。ギルバートは一歩、また一歩とミーナに詰め寄った。
「俺は、君が、好きなんだ!」
一度好きだと伝えてしまえば、本心はいくらでも溢れ出た。なぜこれまで伝えなかったのか不思議に思えるくらい、本心は心地よく口から飛び出る。
ただ問題なのは、飛び出した言葉が、相手にうまく伝わらないことであった。
「わわわ、わかった、わかった!」
顔を青くして額に汗をにじませたミーナは慌ててギルバートの口元を両手で押さえた。
ギルバートは、自分の言葉を止められながら、ミーナをのほうを必死に見つめた。慌てたように自分をなだめる彼女を見ながら、絶対に伝わっていない、と、ギルバートは確信していた。
ある日の放課後、ギルバートはミーナを探していた。
すると、カフェテリアでレーガとアイリーンがお茶会をしている姿が見えた。ギルバートはそちらに近づくと、アイリーンに、ミーナを知らないか、と尋ねた。
「…ミーナなら、ガーベラたちといる」
アイリーンはそう、少し拗ねたように言った。ギルバートはそんなアイリーンに少し目を丸くしたあと、レーガの方を見た。レーガは苦笑いを浮かべた。
アイリーンは、じっ、とギルバートのほうを軽く睨んだ。
「…何よ、また輪に入ればいいのにとかいう能天気な助言でもしようとしてた?」
「…いいや、別に」
「……」
アイリーンは目を伏せると小さく唇をとがらせた。
「…本当はわかってるわよ。ぜったいにミーナは、ガーベラたちなんかといるより、私といたほうが楽しそうだって、とっても自負してる 」
「…それは、随分、…傲慢だな」
ギルバートがそう返すと、またアイリーンが睨んだ。
「こっちの事情をなんにも知らないくせに軽々しく口挟まないでくれる?!」
「(……余計なことはもう何も言うまい……)」
「……でも、そうよ、そうなのよ。私はあなたとミーナを引き離そうとした前科がある。だから、自信を持てない、自分が正しいっていう、自信が…」
アイリーンは、そうしおらしく言った。ギルバートはそんなアイリーンを見たあと、助けを求めるようにレーガを見た。レーガはにこりと微笑むと、まあまあ、と優しくアイリーンに話しかけた。
「さっき僕たち話してたんだよね、ギルバートがはっきり言っててすごいよねって」
レーガの話に、そうそう、とアイリーンは少し表情を明るくしてギルバートの方を見た。
「あなたやるじゃない。自称男らしいだったくせに。ミーナのことが好きだって本人にも伝えて、周りにも噂が流れてる!…まあ、当の本人は信じてないけど…」
「……」
今度はギルバートが眉を潜めて不機嫌そうに固まる。そんなギルバートを見て、レーガが慌てて、まあまあまあ、と手を横に振った。
「えーっと、じゃあ天気の話をしよう!」
「…なんで天気?」
アイリーンが尋ねると、これ以上この話はまずいかなって…、とレーガが苦笑いを漏らす。
ギルバートは小さくため息をつくと、邪魔をしたな、と言うと二人の前から去った。
夜、ギルバートはユーリの珍しく部屋にいた。ユーリは、勉強道具を広げた机に向かいながらも、ちらりと自分のベッドに腰掛けるギルバートを見た。
「…ねえ、なに」
「何じゃない。ミーナに俺の気持ちがなぜ伝わらないのかを聞いている」
ギルバートは必死の形相でユーリに問うた。ユーリは呆れた顔をしてギルバートを見つめた。
すると、ユーリの同室のルイが、聞きましたよ!と笑顔でギルバートのそばに向かった。
「ミーナ・ワイアット、っていう女性が好きなんですってね!その噂本当ですか?」
目を輝かせるルイに、ギルバートは、本当だ、と真っ直ぐな瞳で伝える。ルイは、わあっ!とさらに目を輝かせる。
「あのギルバート・コートネイに想い人かあ…。学園の女子生徒の誰に告白されても受けなかったのに…!」
「本当だから、もっと言いふらしてくれ…!俺はミーナが好きだって…!」
「もうみんな知ってますよ〜」
外堀工作を始めたギルバートと、ルイのやり取りを横目に、ユーリは面白くなさそうに机の方に向き直した。そんなユーリに、ギルバートが立ち上がり、おい、と詰め寄る。
「君からもミーナに言ってくれ!弟の話なら聞くかもしれん!」
「…人に言ってもらうのって、男らしいわけ?」
「うっ、お、俺はもう、そういうのには囚われない……でも、た、確かに…男らしくは、ない……」
「……」
ユーリは頬杖をついて、横目でギルバートを見ると、まあさ、と人差し指を立ててくるくる回した。
「そもそもなんで、ギルバートが直接ねえさまに伝えてて、周りも噂しまくってるのにねえさまに気持ちが伝わらないのかを考えた?ギルバートがねえさまの眼中にないからだよ」
「ぐっ…」
ギルバートはダメージを受けて後ずさる。
「眼中に、ない…なぜ……」
ユーリはジト目でギルバートの方を見た。
「さあね〜。まあ、例えば?ねえさまに忘れられない人がいるとか」
「ぬっ!」
「あと、単純にタイプじゃないとか。ギルバートって、暑苦しくて古臭くて煩いから」
「ぐっ、ぬっ…っ!」
ギルバートは足元をふらつかせながら後ずさり、ユーリのベッドに座り込んだ。ルイは、ギルバートの方を見て、そんなことありませんよ、ときらきらした瞳で言った。
「先輩は暑苦しくなんかありません!とってもかっこいいし、みんなの憧れです!」
「まあ、上っ面だけ見てたらそうかもね。長年の付き合いがあるとその下の部分まで見えちゃうしなあ〜」
ユーリは、宿題を進めながらそうさらりと言い放った。オーバーキルをくらったギルバートは、そのままベッドに倒れ込んだ。そんなギルバートに、ねえ僕のベッドで寝ないで、とそっけなくユーリが言ったが、瀕死のギルバートには聞こえなかった。




