第四十四旅 焼いても煮ても肉美味し。
さて、俺ももう疲れたし一旦面倒なことは放り投げて、今日はもう美味いもん食って寝よう。
色々考えなければいけない気もするが、明日明日。
いつも通りの分担で嫁たちと宴用の料理を進めていく。
シーラはゆっくりじっくり作るのが好きなので煮込み料理を任せていて、全体的に大きく切ったオークのバラ肉と野菜と香草を醤油っぽい調味料で味付けてコトコト煮ていた。
角煮的な感じかな。
ギャップを期待したオルガは結局料理は苦手だったのでサラダを任せ、いつも通り大雑把に野菜を切って毟って盛り付け、大皿に山盛りにしていた。
そこにかけるのは、去年末に南のヘーリワン王国から来た商人から広まったマヨネーズ(日本人が広めたからだろうが同じ名称で売っている)だ。
さすがに気になったので他国の事なので安くない依頼料を払い冒険者ギルドで調べてもらった情報だと、かなり昔だが関係者に黒髪黒目の日本人らしき人が居たらしいって事で、ヘーリワン王国で数十年前からある商会で売り出された、と。
この世界は昔から異世界人が転生して来ていると情報があるくらいで当然色々出回っているが、ほぼ同条件で味を付けるのに塩くらいしか無い異世界も何故か多いのは、主人公を物語の中心に置くための物語上の問題なのだろう。
作り方を知らない人ばかりだったんだろうけど今迄売り出されていなかったが、胡椒や酢、醤油っぽいのもあるし行き成り大人気なんて事には当然ならなかった。
何年もかけ時間をかけて町から町へ、町から領へ、領から国へと浸透していって去年グラーデ王国王都フォートレウスに支店を出し、この国にない香辛料や食材がかなり売れたようで先月には俺達が今よく居るカルカーンの町にも店を出したって事らしい。
フォルス商会って名の店だがマヨネーズ以外も結構品揃えも質も良いのでこれから使っていこうと思ってはいる。
っていうか食料品関連についてこの商会を見て気付いたが、うちの国は一割以上高い商会が多いな。
さて料理を続けるとして、俺は今までで一番塩胡椒のみで焼いて食うのがうまかったアースボアの腰から背中辺りの肉をステーキ用に2,3cmの厚さに切って塩を振って焼く準備を進めていく。
ゴブリン程とは言わんが、村の周りのレニの森から南のガニア山の麓辺りは猪系統の遭遇率がかなり高く、魔の森の浅層にも魔猪はよく居て辺境においては主食と言っていいな、多分。
その中でもまだそこまで強くなかった時に遭遇して狩るのに一番苦労したのがアースボアだったが、今では一番の御馳走だな。
デカいわ、早いわ、硬いわで、その頃はまだ筋力も足りなくて槍で正面から顔面を刺そうとしてもかすり傷のみで弾かれたりして致命傷には程遠く、考えてはいたけれど初めて障壁を攻撃に使ったんだったか。
挑発した上で突撃の進路上に何とか円錐にして固定して頭にぶっ刺した訳だが、今なら魔力消費量を抑えて針状に固めてもっと早くきれいに狩れるし……まあ、普通に槍でも勿論狩れる。
回想は置いといて、出して切ってまでの肉の用意は俺がやるが、焼くのは一番上手い嫁に任せているので焼き当番を呼ぶといそいそと嬉しそうにやってきた。
「おーい、イーリス。そろそろ頼むよ。」
「……はーい。頑張る。」
外での料理作りの為に屋敷の斜め前に場所を作って、専門ではないが多少は知識のあったイルメラとコボ達に建てておいてもらった屋根付きバーベキュー場みたいな場所にある竈に火を入れてあり、鼻を利かせつつ置く場所を変えて焼き加減を考えながら全員分を焼き上げていく。
煮物にステーキ、肉野菜炒めにサラダと大机にそろっていく料理に、気が付いたら皆周りに集まって涎を垂らさんばかりになっていた。
別に普段女性だからとか言う気は全くないんだけど、いくら何でもその顔は辞めたほうがいいと思う。
「いいじゃないですか。数か月ぶりのまとも以上な食べ物なんですから。ホントに美味しそう。」
「そうですよ。奴隷商での食事は、最低限健康を損なわない程度ですし。外面が売りならもっとまともな物を食べれたと思いますけれど、そこを売りにしたかったわけでもないですし……そこを売りにされたわけでもないですし。」
「うん、そんなに嫌そうに言わんでも。……その状況で最低限でもまともに扱われる以上に良い事なんかないだろう?」
「まあ、確かにそうですが、最悪も考えると不安は拭えないですよ。私が居た所がそうかは知らないですけど、以前聞いた話では領主やその下の下級貴族の屑度合い次第で色々便宜を図ってもらうために禄でも無い事をしている所があるとか。領主と領主に近しい貴族連中はタダでお試しができるとか、本来違法な無制限契約で売る奴隷商も居るとか、そこから次から次へと買い漁っている豪商やら役人が居るとか。……噂ですけどね。」
「ある程度金回りが良いだろう所にいろんな噂が出るのは当然として、最後の噂って普通に出回る噂なら貴族の所までじゃないか?実際にやっているかはともかくそんな事をしているかも、って悪評を言えるほどの怪しい人物が居るって事なんじゃないか?」
店をやっていたミナが聞いていた噂なら奴隷商関係も居そうだし、更に現実味が出ちゃうんだが。
横のルーンもうなずいているが知ってんのか?
っていうか確認し忘れていたが、違う奴隷商だったがどちらも王都に本店がある店だったはずで、そもそも実は知った人だったりするのか?
「そう言えば、確認する暇もなかったけど、実は二人は知った顔だったりするのか?一緒にうなずいているけど。それとも情報が一致しているだけなのか?」
「「あ~~……。」」
顔を見合わせた後、二人揃って首を振っていた。
併せて細かく聞こうと思ったら、二人の後ろでレティがすぐに注釈を入れてくれた。
「こちらで二人に確認しましたが、商人や兵士などが居る上級平民用地区とスラムが近い下級平民用地区とでかなり場所が違っていたようです。細かく聞いたら実は二人とも家は両地区の近くにある住宅街らしいですが。」
二人と話していて思い出したが、まだここにきてから事情やら身の上の話やらをさっぱり聞いていなかったことに気が付いた。
色々有ったけれども、ちょっと帰れた事に安心しすぎていた気がしないでもないな。
やる事は順次やって置く事を習慣付けないと、その内「あ、あれ忘れた」って言って何かしら危険なことを起こしかねん。
「まあ、それもここで話しておけばよかろうってもんだな。……よしっ、皆め、し……って皆居るし。」
「そりゃそうですよ。もうほぼ出来ているのも見えてましたし、後は呼ばれるのを待つだけの状態でしたから。こういう時にあまり周りを見ないで話に集中する輩も居ますが、主様はそういう気づかいはちゃんとなさりますからね。細かい所の話は終わらせて、雑談をして待っていました。子供達も含めて最低限の事情くらいは聴いてありますので、それは後程。」
「おう、後で報告よろしく。待ちきれないようなのも居るしとっとと食うか。じゃ、皆合わせてくれ。」
この世界では神様への食前の祈りがあったのだが、俺自身が無神論者だしレティはそもそも祈る習慣が竜たちにはないしでやる気はなかったんだが。
シーラもイーリスもそんな事やりそうもない屑の下に居たオルガも、実はそこら辺はきちんとしていたというか庶民貴族関係ない習慣という事らしかった。
という訳で、うちでは食前の祈りは色々な観点からシーラが行っている。
なぜか日本式でいただきますって皆で言ってるのもあるけど、異世界にだって食に対する感謝はあるだろ。
いつも通り横で皆が祈っている間に普通にいただきますと小さい声で言いつつ、タイミングを合わせて食べ始めることにした。
「……農耕神ウスノノ、狩猟神グリフ。大地の恵みを命を感謝致します。」
「「「「「感謝致します。」」」」」
「じゃ、食べようか。新人も無礼講……って言っても分からんか。(老害共が大好きな酒の席でよくある現実見た上での無礼講は俺は大っ嫌いだし、区別しづらいしで使うんじゃなかった。)まあ、ここでは良いもん食ってたからって奪いに来るのは居ないから、俺らを気にせずに好きに飲み食いしていいよって事だ。ここにいる間は衣食住に不安を持つ必要はないよ。ほれっ、良いから好きなもんから食えって。」
意図的に俺が箸を付けてやると、ちょっと考え無しにも見えるデュークも空気を読んで待っていた様でがっつき始めた。
それに続いて子供達が食べ始めると、こっちの意図を読みたかったであろう大人たちも諦めたのか食べ始めた。
まあ、逆にそういう間に入りうる面倒なモノを排除したいこっちからすれば無駄な努力だと思いはすれど、行き成り信用される訳もないけど一月も経てば馴染んでくれるだろ、多分。
「うっめ~!ロザもこれ食えよ。ハルトもほらっ。肉も野菜も全部美味いぞ。なんか塩以外のよく分からん味もするし。」
「……分かったよ。(完全に負けたばっかであんま食欲もないけど、それがバレるのも嫌だし。食うか。)って美味っ!」
「うん、美味しい。」
食ったとたんテンションの上がった子供達が脇目も振らずに食っている中、ミナは使っている香辛料や調味料に興味があるようで何か確認するようにゆっくり味わっていた。
……久しぶりの美味い飯に感じ入っているだけかもしれないけど。
うちのも含めて飯に集中し出すのを見てから、さっきの子供達との手合わせを思い出して今後どうするかを少しだけだが考えておくか。
先ずは二人大体横に並んで真っ直ぐにかかってきた。
デュークは感情の赴くままって感じで、もう全力で切り下し、切り上げ、袈裟斬り、逆袈裟、切り払いと全方向から斬りかかってきた。
リーンハルトは様子を見ながらデュークを確認しながらって感じで、同時に来たり横にずれてより死角になりそうな角度で来たりと、かなり考えながら行動する子の様だ。
まだ見た感じ十前後位だろうに慣れすぎじゃねって思わんでもないが、そういう環境だったわけだししようがないか。
スラムに居た時も、突っ走りがちに見えるデュークを後衛でのサポートにつけて無理をしないようしていたとの事だが、目端は効くんだろうが結果いろいろ背負い込んで苦労性になりそうな予感もあるな。
仲間を増やすなら一人は自分と同じか似たタイプにしないと禿げるかも、と忠告してやったほうがいいような。
「おっさん……フッ!守ってばっかで……いいのかよ?ハッ!オラオラッ!!」
まあまあ激しく動きながら煽ってくる気概は認めるけど、煽りながらより多く斬りかかるには技量が足らん。
注目を集めてハルトを動きやすいようにしたいんだろうけど、チンピラに毛が生えた程度の相手ならともかく多数相手に慣れた冒険者相手だと、初心者を抜けようかってランク2、3程度でも通用しないだろう。
で、更に言うと、少しだけど斬りかかる拍子が悪くなっていた。
実戦経験もあまりない状況で二人で戦うにはどうすればいいのか考えたんだろうけど、実力差がはっきりしている時の事までは想像が追い付いていないようだな。
喋りだした瞬間リーンハルトは意図的に攻撃を止め、視界から外れる様に少し遠ざかりながら側面に移動して普通では完全死角となる後ろ側から右手で払って来た。
まあ、俺も前世から今迄を考えればそう戦闘経験があるわけじゃないし、後付けだとしても何が正解かなんて分かる訳もないんだが。
ただ、次善を考えると、この状況だと真っ直ぐ二人並んで正面180度使って襲うか、多少は持つか待って貰えると思えば一人は後ろに回って前後に挟んで襲うかじゃないかな。
中途半端に視界の内と外を使うくらいなら、ほぼ同じ方向からの手数を増やすか完全に視界外からにしようとするかじゃないかと思うけど……どうだろうかな。
スラムでの襲撃の経験は役に立たないだろうし、リーン……うん面倒、え~ハルトが主導してやってんだろうけど、どう見ても感覚派のデュークにもちゃんと意見を聞くようにせんとな。
と後の事も考えながら相手をしていたら、デュークが早くも息を切らせ手数が減りハルトも動きが鈍ってきたので最後に修練での鈍器による重い痛みを味わわせて終わろうか、と思った瞬間デュークが一瞬息を溜め全力で斬り上げてきた。
「すぅ……だあっ!!」
感覚なのか状況次第では悪くないタイミングだが、基本油断しやすい奴じゃないと無理だろうし、今目の前にいる俺がそうかをちゃんと見てないな。
まあ、スラムに居るのは大抵引っかかるだろうが。
ちゃんとそんな事をしなくていい様これからみっちり鍛えてやろう。
「はっ!」
二人の利き腕の肩を強めに叩いて蹲らせて終了を告げた。




