第四十二旅 話が長い 前編
家の中でもよかったが、嫁を含めて全員家の前に集めて座らせた。
下に何か敷こうとも思ったが、前世の様に手軽に使えるビニールシートなんか無いし諦めた。
春の晴れた爽やかな日の下で今からたらたらと色々説明する事を思うと面倒この上ないけれど、しない訳にはいかんし出来るだけ纏めてちゃちゃッといきますか。
まあ、一々隠す気も無いので順番に話せばいいだろう。
隠さないその理由も話の中に入れとくか。
「ま、風も気持ち良いしそのまま聞いてくれ。元からいるのには重なる話もあるけど、出来るだけ短くするから。」
隠す気は零なので、最初の前世の所からアルムに会ったそのまま聞けば胡散臭い気がする所もそのまま話した。
話し始めて少しして気付きたくない事に気付いてしまった‥‥実はあまり説明する所って無いんじゃないかと。
この世界に来てからの事は人との出会い以外では基本修練してばかりで、愛の女神ミルシアに会って祝福された以外ほぼ何も無いな。
どこぞの貴族との揉め事は有ったが、この国では子爵以下は仕事を持っている者以外は存在価値も薄くて、自分の家の者も自分で探して雇って自衛も自分でしなければならないほど扱いが適当だ。
貴族であると自負は有れど何も出来ない(する気も無い)連中は大体自分の暇潰しや欲を満たす為に行動するので、基本肉欲権力欲等様々な欲に沿った行動をするから、そこでちょこちょこ無能を減らして数の調整をしているんだろうかね。
伯爵以下は跡取りがボンクラだったりの状況次第で直ぐに爵位が下げられるので、才能もやる気も無い連中は策略では色々騙されたり暗殺されたり、武力では決闘でボコられたりと、すぐに居なくなる様だ。
正義の味方がいる訳で無し、自分がそんな滅私奉公のキチ〇イになる気は全く無いし、一々これから先の無干渉を交渉するのも面倒だったので、さらって細かい事を聞かない裏に近い奴隷商にそのまま売ったが、結局犯人の捜索はほぼしていない様だった。
一週間(十日)後には新しく爵位を貰ったばかりの騎士爵の有望株が一部隊を任せる為に衛士長として来て、手が増えて助かると衛士隊がえらく盛り上がったらしいし。
貴族としては最底辺ではあるがある程度人を雇うつもりらしく、仕官が出来ないかと貴族に伝手の有る護衛を主にしている冒険者連中も喜んでいたな。
どの物語でも現実でもそうだが、地位にはその地位に見合った責任が否応なく付いてくるし、付いてくる責任を見る貴族も見ない貴族もかかわると碌でも無い事になりやすい。
見る方だと、利用しようとする周りから情報操作されたり、自分の判断は後回しに、もしくは自分の判断そのものを求められない場合もあるし、よく有る婚約破棄系やざまぁ系の様に役立たず役の周りや上司の判断だけで動かないといけなくなった時、どうしようもなくなる。
見ない方だと、そもそも地位に付いてくる責任を見ない連中がまともな訳は無く、どう考えてももれなく碌な事にならん。
まあ、そういうのに限って金儲けだけは上手かったり、情報操作だけは上手かったりする手下が居たりして、稀に保身が上手くいったりすると面倒な事に被害が更に広がったりもするし。
ただ、能力の高い友好的で高い倫理観を持った貴族とは知己になっておきたくは有るが。
何か起こった時にはどうしても権力が必要になる事も有るし、有能な貴族とだったら最低限の付き合いは有りだろう。
物語上出てくるのは両極端になりがちだけど、有能で優しくて気遣いもしてくれて完全な味方なんて自分の周りに居る訳無いと思っといた方がいいし、最悪王家転覆を考えていたり、そうじゃなくとも自分の特殊な性癖を自分の治める領地から攫って何とかしてるとかの屑もそうは自分の周りに居ないと思う。
つらつらと別の事を考えながらこれまでの事をざっくりとではあるが話し終わると、何か気になる事があるのか基本ルティアに隠れていたミナが手を挙げていた。
「さっき聞いた感じだと頑張って実績を上げれば、奴隷から解放して貰えると思って良いんですか?」
「おう、ちゃんと聞いていたか。意図的にまとめて話した中に一緒に言ったから、ちゃんと確認しなかったらちょっとした罰を考えてたんだが。それで間違ってないよ。」
ざっくり説明した中シーラ達の話をした時に、結局嫁に貰ったが鍛え終わってきちんと冒険者として活動したら、給料的な感じで買った金額から減らしていって返し切ったら解放の予定だったと言っておいた。
今ミナが確認したがルティアもルーンも聞いた瞬間頷いていたし、今回の大人達はちゃんと人の話を聞いてくれる様だ。
ちょいちょいオルガは気もそぞろになったり、イーリスは気が付いたら寝てたりがあって真面目な話をする時は油断できないんだよな。
「本当ですか?本当なんですね?嘘じゃないでしょうね!」
「うん、ルティアは落ち着こうか。嘘は言わんし、今言った通り間違ってもいないよ。ただ、ルティアはどうしても色々面倒になるかも。」
「え‥‥。どーいう事よ!?なんでよ?!」
「落ち着けって。そう喚いても状況は変わらんし、理解出来るもんも出来なくなるぞ。」
一瞬で頭に血が上り突っ込んできたルティアを深呼吸で落ち着かせて何故かをまず考えさせる。
一応ヒントは出してあるけど、理解する所まで進んでくれるかね。
ゆっくり呼吸をしながら視線をフラフラと揺らして何かを考える様子だが……ハッとするとこっちを真っ直ぐ見て来た。
「分かったわ。そういう事ね。私の職が、此処での役割が問題なのね。」
「当たり。戦闘職では無いし、ミナ達の様に商人系の職でもない中途半端な位置に居るって事。言い方は悪いが」
「ぐぬっ!私の職業を分かってて買っといて……そこまで言う?」
「すまんな。ここで手加減してもしょうがないからな。舞踊をやっているから運動能力的にある程度動けるだろうが、だからこそ今この中に競う相手が居ないのが問題って事だ。後から子供達やルナ達に追いつかれて拗ねられても困るし、どこまで強くなれるかも実際やってみなければ分からん中、思ったより上限が低くて周りへの嫉妬や憎悪になってしまう事も有るかも知れん。後の事を考えると此処で現実をしっかり見つめて貰って、これからの努力を自分から進んでやってくれると助かるんだが。精神的にはもちろん肉体的にも、な。」
「そうね。」「どういう事ですか?」
自分にも関係する事だと思ったのか一番落ち着いた様子で後ろから見ているだけだったルーンが、納得したルティアの横に来て話に混ざって来た。
厳しい事や、余りそうみられる事自体嫌な事も言ったので凄いしかめっ面になってしまったルティアは置いといてそのまま説明を最後までしておくか。
「さっきも言ったが、今ここに居る全員には基本的な勉強は全部してもらう。そして戦闘に関しても最低でも一対一でランク3程度には楽勝できる様になってもらう。で、精神的にも肉体的にもって言ったのは、結局色んなモノがつながっているって事だ。精神も肉体も影響し合い、どちらかが充実していれば片方も引き上げられ、どちらかが調子が悪ければもう片方も引き下げられる。同じ量の修練をしたとして、自分からやる気をもって行動するのと、人からやらされるのでは結果に違いが出るのは当然って事だ。」
「……ただ、完全な運動音痴というか適性が全くない者も居るし、勉強においても全く理解出来無い者も居るのは知っているので、そこは仕方がないから別の事で補って貰う事になる。一人前にするのに最短で半年を見ているから、奴隷から解放された時の自分の今後も考えて頑張ってくれ。」
「ふぅ。……そうね、此処で駄々をこねても仕方ないわね。ただ、ひとつだけきいておきたいんだけど。いいかしら?」
「ん?余程自分勝手な事でも言い出さない限り、発言を無視したり拒否したりはしないよ。」
「んー、そう。じゃ、余り言いたくは無いけれど仕方ないわね。……私は今23歳なんだけど、今までほぼ鍛えた事無いんだけど、そこまで成長できると思う?そこだけ聞かせて貰える?」
「ああっ!それは私も知りたい。私は22歳なんだけど、どうかな?」
ずっとルティアに隠れながら喋っていたミナも出てきて興味ありげに確認してきた。
「種族関係なしで、何歳からでも、ある程度は何とかなるよ。始めるのが遅かった分はどうしてもより時間は掛かるけど、それは衰えが出るほどの年齢からであっても余程何もしない生活をしていない限りはどうとでもなる。重ねて言うが、遅ければそれだけ余分に時間を食うのはどうしようもないが、だからと言って無理ではないよ。」
「基礎の基礎から鍛えなきゃならん上に、前中後衛を選択した上でそれぞれのスタイルを作り上げて、当然実戦慣れも必要だから順次その時の力に合わせて戦闘を重ねんといかんしで、一人前になるだけでも時間差は有るだろうが。力仕事を主にしていたかなり体を動かしていた元々肉体派の人間でも、自分で選んだ戦闘スタイルの適正次第では一月で使い物になるのもいれば一年かかって精々一人前ってのもいるから。誰の何に憧れていようが、これが使いたいって自分の好みがあろうが、自分に合った武具を選ばないと先には進めないどころか早死にするって事をちゃんと考えてくれ。」
「ほぇ~……。」
結構一生懸命伝わるように話したんだが、自分がまだそれをやるって事を信じたくないのか思考が拒否している感じで、ミナとルーンはまだ中空を見つつ現実逃避しているな。
ルティアは元々活動的だからか何か思う所があるのか、自分の手を見て何か考えている様だ。
少し後ろに居る子供達は、元からそのつもりなのか男の子はやる気を見せているが、助けられたままここに来たロザは当然だがイマイチピンと来ていない様だ。
まあ今後を考えればロザにも色々やらせることはやらせるが、デューク達に助けられたばかりでまだ混乱もしているだろうから、まずは普通に家事手伝いとして働いてもらい落ち着いてから、かな。
まず伝えるべき事は大体伝えたが、最後に俺の経験からの此処でのルールを伝えておくか。
「最後に此処に居る為のルールを伝えておこう。ま、後からまとめた物を渡すけど、最低限さわりだけでも、な。分かり易くざっくり言うと、中に色々含むけど三つかな。人に迷惑をかけるな、貴族に関わるな、出来うる限り表に出るな、ってとこだ。」
「一つ目の人に迷惑をかけるなだが、この中に居るだけで人に迷惑をかけるチンピラが居るとは思わないし、普通にしていればほぼ問題は無いだろう。ただ、此処にいる間は兎も角外で酒は基本禁止だ。注意がどうしても散漫になって油断の元だし、結局ある程度以上酔う奴に関して言えばロクデナシとしか言いようがない。自己のコントロールが効かなくなるのが分かってて酔っ払う訳だし。前世では酒は百薬の長とも百毒の長とも言われてるけれど……人の欲、酒は自分達だけの為の現実でのご都合主義の所為で日本では百薬の長だけが知れ渡っているんだよ。特に日本では酒を様々な場面でのコミュニケーションの一つとして使っていた所為で、俺がまだ居た時も酒を飲んだまま何かをするという事(此処では言わんが飲酒運転とかね)を真面目に考える者は政治家含めて全然居なかったな。」
「二つ目の貴族に関わるなは、こちらからは関わるなって事だ。どうしようもない事も有るけど、一々自分から面倒を背負う事も無いだろ。まともで有能な貴族も居るだろうけど、仕事を持っていない法衣貴族はそもそも会う事も無いだろうが、それ以外はまともでもまともじゃなくても大体は仕事として面倒を抱えているわけだから、どの貴族なら良いとかあんまり選ぶ意味も無いしな。」
「三つ目の出来るだけ表に出るなは、まあ貴族のと似ているが貴族以外にもギルドやら町で有名にならない様に、って事だ。出来る限りって付けたのは、これもどうしようもない時は行き切ってしまえって感じで、邪魔をされる前にそういうモノを跳ね除けられる様になっちまえ、って開き直りだな。屑貴族のように問答無用で強制とかはそうそう無いだろうが、反強制の協力要請だったりはまだ良くて、弱い者を助けないのかって言って自分達を人質にしたりで、結局最後には強者には力に言い出す弱者の強者への善意の押し付けをされる可能性も有るし。状況次第で協力する事も有るだろうけど、当然優先順位は有って自分や仲間の命を無関係な人間相手に投げ出す気は無いから。……ああ、暮らしていて普通に仲良くなる事も有るだろうけれど、それをするなってんじゃないよ。暮らしていて大切な者が出来るのは当然。それも含めて考えろって事。」
一つ目の酒に関しては何か思う事があるのが何人か居る様で、話してる最中から頷いてるのも嫌な顔しているのも居たが、二つ目、三つ目はあまり理解されてない様に見えた。
基本皆成功したい、稼ぎたい、モテたいって思いで冒険者になるのが大多数の中、あまり有名になるなってんじゃ何がしたいんだって事になるだろうしな。
じゃ、長くなったが最後にそこら辺を話して終わるとしますか。




