第四十旅 長々と紹介してから模擬戦開始
最後の嫁を呼ぼうと近くの森の気配を探ると、そろそろと思っていたのか既に近くに来ていた。
まあ、レティにも会っているし落ち着けばそう騒がないとは思うが、最初の衝撃はかなりのモノだと思う。
奴隷であるのは逆に良いタイミングだったかな。
「さて、修練を始める前に最後に紹介する者が居る。色々長々と説明するのは面倒だし、奴隷の三人は一旦声を出さない様に。何も問題は無いので、子供達は落ち着いてな。」
中途半端な状態で後に回したり焦らしたりすると、いきなりイベント発生で説明する暇が無くなって伝えていない事を駆け引きに使われたりとか有りそうで、碌な事にはならんだろうし真夜には直ぐに出て貰おう。
多少拙速かもしれんが、そう悪い事にはならんと思うし。
「真夜!」
強く呼ぶと、横の森から音も無く真夜が出て来た。
アラクネ種に置いて最強とみられるのはアラクネクイーンが有名だが、基本は進化毎に順次大きくなっていく種族なのでそこまで怖がられはしないと思ったんだが……一瞬時が止まったと思えるほど音が無くなり、次の瞬間悲鳴が響いた。
「「キャーーーッ!!」」
声は大きいがよく聞くと数が少ないのでパパッと声の方を確認すると、叫んでいたのは経理のルーンと此処までほとんど喋っていなかった子供のロザだった。
因みに経営者のミナは驚きすぎたのか叫んでいるルーンの袖を持ったままへたり込んでいた。
ただ、俺があまり声を出すなと言っていたのに反射とは言え大声を出してしまったルーンは、命令違反で奴隷紋が光り出しこちらは痛みで蹲ってしまった。
「痛ったーーい!痛い!痛い!」
「ほら、声出すなって言ったろうに。」
奴隷が命令違反した時痛みが走るのは何処でも同じだが治める方法は個々の国で違うらしく、今居るグラーデ王国では音声認識は無く主人の奴隷紋に一定以上の魔力を流して貰う事でしか治まらない。
ただ、違反した状態で主人が死ぬとそのままになってしまう事もある為、一つの判定を行い問題が無ければ主人からの魔力供給が絶たれて奴隷紋自体が消える様になっている、らしい。
主人に対しての想いや行動を判定して意図的に助けなかった、もしくは敵対したと判定されれば、最大の痛みを受けつつ強制で自刃させられるという最悪な結果になる、と。
今回は関係ないのでルーンの肩に手を置きつつ魔力を流して痛みを治め、叫び疲れて座り込んでいるロザに手を貸してやろうとした。
横に居るデュークとリーンハルトは仁王立ちのまま硬直していて、手を貸してやる余裕は無い様だった、が……。。
「ほら、ロザも座ったま‥‥ま‥‥。」
今思えば他の大人は兎も角、子供達は別にして後でちゃんと説明してから会わせるって事でも良かったかな。
まだガリオン達にすら会っていないのに、上等な衣服をまとい普通有り得ない程人に近いアラクネを見てしまえばこうなるかも、ってもうちょっと考えとくべきだったか。
いや、ホント。
プルプル震えていたと思ったら、我慢はしたんだろうがちょろちょろと漏らしてしまっていた。
「おう、スマン。レティ、シーラ、フォローを頼む。ほら、デューク、リーンハルトちょっと向こうに行っとこうか。」
「えっ!?あ、おう。」
「……はい。」
すぐ横に居た二人を離れさせつつレティ達に後処理を頼み、ぱっと見では分からんがちょっと困っている真夜にはそのまま待つようにパスで伝える。
『落ち着くまでちょっと待ってて。』
『了解。』
ぱたぱたとロザを家に連れていっているレティ達の後姿を見送って周りの様子を見てみると、嫁も含めて居た堪れない感じで森の方を見ていた。
一旦解散して少し時間を置いてロザが落ち着いてから、家の広間で集まり直した。
人が増える予定だったので多めに作って貰っておいた椅子に皆を座らせ、真夜を改めて紹介。
「えー、何か色々あって微妙な感じだが、最後の嫁の真夜だ。今は全部で五人か。」
「「「「「「「「おあうsでぇふskじゃdy!!!」」」」」」」」
何かいろいろ思う事があるのは分かるが、一気に喋るのは止めてもらいたい。
後ろに控えた真夜に対して不安は兎も角恐怖の目を向けるのはいただけないが、まだ何も説明していないのでしょうがない。
「まあ黙って聞きなさい。って言っても余り言う事も無いんだが。聞いた事があるかは知らんが、真夜の種族名はアラクネエンプレスだ。何か知ってるのは居るか?」
商人のミナやルーンは基本のモンスターの情報として、ルティアは別の国での伝承等で、リーンハルトは貴族の情報で何か知らないかと思ったんだが‥‥どうかな。
「すみません、分からないです。」
「私も‥‥聞いた事が無いですね。」
「‥‥ん~、どっかで聞いた事が……あった様な無かった様な。」
「いえ、何も。家に在ったモンスターをある程度纏めた書物にも確か載っていなかったと思います。」
ルティアだけは何か心当たりがある様だが、遠い記憶なのかうんうん唸ったまま頭を抱え蹲ってしまった。
放っておこう。
「まあ、ついでに聞いただけだから思い出したら行ってくれ。他国でも協力者として村や町だったり従魔として個人でだったりだが、近くに居る事の有る種族のモンスターだし皆知ってはいるだろう?まあ、色々あって俺が助けたんだが、その際にちょっとやり過ぎたからか知らん種族に進化してな。で、なんやかんやあって最後の嫁になった訳だ。」
「え~っと……。はっ!いやいや、何言ってんのアンタ!接点が有るって言ったってモンスターはモンスターでしょ?……ゴブリンとかオークとは違って異種族の異性を襲ったりとかは聞かないけれど、それは本当に大丈夫なの?」
結局言葉遣いを強制していなかった為か、ルティアに行き成りかなり強い言葉で詰め寄られてしまった。
別に主人面したいわけじゃないから遠慮が無いのは良いんだが、ちょっとなさすぎじゃね?
ま、そんな事を気にするタチじゃないし、良いんだけども。
「ああ、今の俺には固有スキルの眷属化が有るからな。位置の確認、感情の把握、眷属内での思考による会話等あって、そも俺に対して敵対的な感情を少しでも持っていると眷属に成れないから。そういう意味でも不安はないな。」
「……、……モンスターって事については?」
新人の皆も思っていた事なんだろうけど、後ろで揃って頷くのは止めてほしい。
そして、そこでひっかかる事は分かっていたけれど、俺の場合既にレティが居るし問題じゃないんだよね。
蜘蛛の体に関しては……真夜に関しては余り気にならなかったってだけだな。
他のアラクネを知らんから何とも言えんが。
「あ~……ん?」
そういえば確認を忘れてたが、レティの正体はこの様子だと伝えていない様だ。
って事は王都からここに来る時のレティの魔法をどう思っているのやら。
他国の密偵とか、この国の場合では一部有能な貴族の間者とかかな。
「……そっか。ま、そこは気にはならんが。その理由を話す前に、もう一人紹介した方がいい様だな。」
「どういう事よ?」
「どういうも何も、そんな難しい話じゃないんだよルティア。レティ!」
「はい。」
レティが横に並ぶのを待ち、改めて紹介。
「王都から移動した新人達は只者では無いとは思っているだろうが、レティシアは人じゃないんだよ。」
「人じゃ……ない?」
「そ。レティは竜族なんだよ。風竜族。」
は?って感じで口を開けて現実逃避を始めた新人達に、現実を見せる為に更に追い打ちをかける事に。
パスでレティに指示を出すと、何時もの様にレティがゆっくり魔力の繭に包まれていった。
「ほれ、ボーっとしてないで、ちゃんと見なさい。ちょっとは時間が掛かるから、予め覚悟をしてさっきみたいに叫んだりしない様にな。」
ついチラッと子供達の方を見てしまうと、後始末の後にそのままロザの近くに付いていたシーラに気付かれ、シッシッと視線を手で払われてしまった。
仕方なく視線を横に振ると他の大人たちは何とか現実に戻っては来た様だが、行き成り竜族と言われて信用出来ないのか微妙な視線を向けて来るのも居るな。
一番視線が痛いのはルティアだが、こっちに疑わし気な目線を向けつつ、チラチラレティの繭を交互に見ている。
信用していなかったであろう大人組のルティアやミナも、だんだんと大きくなっていく繭を見て嫌な予感がしているからか、一歩また一歩と少しずつ距離を取っている様だ。
「ほら、ミナとルティア、あんまり離れない様に。事実だった場合怖いっていうのは分かるが、俺の従魔だからここに居る訳で、そこまで怖がらんでも。」
「そうは言っても、その事実だったらが怖すぎて……。」
「そうよ!火竜や土竜ならともかく、風竜なんてここ数十年発見報告も無い種族じゃない。そもそもなんで風竜がこんな所に居るのよ。」
「ん~……つっても、お前らもここに来る時にレティの力を見たろ?あれの説明は他にどうしようもないと思うが。」
「うっ!?……まあ、常人じゃないとは思ったわよ?だからって、竜!?なんでそうなるのよ?」
「……そーよ、そーよ。意味が分かんないよ。」
もう諦めて意識して呼吸を整え落ち着く様にしているルーンの横で、落ち着く事の出来ないルティアとミナの二人が意識を逸らしたいのか俺に絡んで来ていた。
そこまで俺に逆らう気が無いのか単に盾にしているだけか、ミナはルティアの後ろから顔を覗かせて、だったが。
話している内に用意が整ったとパスが来たので、ちゃちゃっと紹介する事にして手を叩き注目させる。
とりあえず子供達は安心させる為に離れた所にシーラ達嫁と一緒に落ち着かせている。
<パンッ!>「ほら、皆注目。そろそろ竜化が終わるから、覚悟はしとけよ?最近育ってきたからか、威圧感とか尋常じゃないからな。」
『余り脅さないでいただきたいですね、ご主人様。』
『すまんすまん。』
声が届いた瞬間かなり大きく膨らんでいた魔力の繭が解けていった。
横に立っているとかなり見上げないと頭部を見る事が出来ないが、以前見た時より更に大きくなっている様だ。
しかも更に鮮やかな青に煌めいた巨体を見ると、前より乗りやすそうでちょっと遠乗りしたくなってくるな。
大体5m弱に成長していた西洋竜を感慨を込めて見ていたら、気付くと周りから音が消えていた。
緯線を下ろして周りを見ると、嫁以外皆ポカーンと口を開けて止まっていた。
さっきみたいに恐慌状態になるよりは良いけど、ほっとくと時間も掛かるしちゃちゃっと進めますか。
「ほれ、これで理解したろ。……ついでにそのまま説明に入るけど、此処は一年位前から俺とレティがアル達コボルドの集落を守る事で成り立っている場所だ。それからイルメラやオルガ、セルを助け、シーラとイーリスを奴隷商で買い、確かその辺りでこの家が出来たんだったか……多分な。で、基本は常に修練、たまにギルドで依頼を受けるって形で実戦を行いながらランクを4まで上げて、今回お前達を連れて来たって事だな。」
一気に喋って周りを見てみると、ただ茫然としている者とちょっとは思考力が働いてる様に見える者とに分かれていた。
これまでの喋りで気の強さが分かるルティアと、コバンザメ気質なのかただの気弱じゃないのだろう理由にその後ろに引っ付いてるミナはまだ思考能力が有る様だ。
ルーンと子供達は時間が止まったかの様に半分口を開けたままピクリとも動かないな。
「……理解出来たか~?出来て無くても進めるから、言いたい事があったら早めにな~。」
数分時間を置いて聞いてみると、色々理解出来たからかただ追いついていないからなのか、無言のままだったが一応頷いていた。
更に時間を置いて座りたい者は椅子に座らせ、模擬戦を行う事に。
また人化したレティと皆から離れて対峙し、俺は棍を、レティは木刀を構える。
普段は戦闘の合図は無いからと、模擬戦も同じ様に行っている。
二人が武器を持った辺りで不意に襲い掛かったり、逆にすぐに森に入ったと思ったら気配を消され追った瞬間不意打ちされたりなんかもしたし……同じ事をすると手加減しても見れなかったとかになりそうだしせんけども。
「まあ、此処が普通じゃないと気付いたと思うが、更に色々諦めて貰う為にもちゃんと目をかっぽじって見る様に。……行くぞ!」
向かい合い、ピリピリ来る闘気を押し返しながら武器を構えた。
本当に待たせてすみませんでした。




