第三十九旅 スマン!忘れてた。
シーラと家に戻ると皆起き出していてそれぞれ仕事に入っている様だった。
二人足りないがいつも通りイーリスはまだ寝ているんだろう。
因みに真夜も居ないが、真夜には基本こういう状況の場合俺が紹介するまでは姿を現さないでくれる様に言ってあるので、多分近くの森に居るのだろう。
俺が寝た後にも話して少しは緊張も解れたのか、家の中ではレティとアルに店の為に買って来たルーンとミナ、踊り子のルティアが料理を手伝っているのか人が数人動く気配が、って今気付いたが、俺も気配がとか言える様になったのは自分でも吃驚だな。
で、外ではオルガが拾ってきた子供達を鍛える前に少しでも体力を付けてやろうとしているのか、それぞれに合わせた木刀を持たせて素振りをさせていた。
ぱっと見普通に接しているが、俺がこのまま出て行くと買った本人と言う事もあるし、特にルティアはまた噛みついてくる可能性がある、か?……流石に無いか。
最初に言いかった事は最小限だろうが言ってはいたし、更に重ねて言えば自分以外の立場にも響く可能性があると気付かないほどおバカじゃないだろ。
俺がシーラを連れて森から出てくると、先ずオルガが俺に気付きそれを見た三人の子供がピシッと気をつけをして挨拶してきた。
「「「おはようございます!」」」
「おう、おはよう。」
「おはようございます。」
子供で一番ナマイキだったデュークも一緒にしっかり挨拶しているのを見ると、レティかシーラ辺りに何か言われたといった所かな。
一応オルガも元騎士だし可能性が無いとは言わないが、接して気付いたオルガの性質からしてどちらかと言うと冒険者気質の方が近いから……オルガには悪いがまず無いと思う。
まだ此方の実力を見せた訳じゃ無いし、此処に来た方法が方法なのでレティが普通じゃないとは思っているだろうが。
色々あって疲れ切り俺より遅くに起きただろう子供達も、慣れない運動に既に息が切れ始めている(一人少し違うのが居るが)様だったので、引き連れて朝飯を食いに家に戻る事に。
「よし、少しは運動したようだし先ずは皆で飯だ、飯。今、レティ達が作ってくれてんだろ。」
「「「はい!」」」
「そうですね。先ほど出てくる前にレティシア様が新人達を教育しながら作り始めていましたので、もうそろそろ出来るのではないかと。出てくる時にチラッと見ただけですが、ミナとルティアは多少は慣れている様でした。二人でルーンに教えて、レティシア様が助言して、アルが更に監督してって感じでしたね。」
行き成り難しい料理は無理だろうし、今日の朝飯はご飯と肉と野菜の炒め物くらいかな。
家に戻ってみると入る前から良い匂いがしていたが、良くしたもので皆で食卓に並べている最中だった。
人数が増えた所為で用意する量も増えていて出すだけで時間が掛かっていたので、俺とシーラも手伝う事にした。
最初は特にシーラには微妙な顔をされたけど、最近は諦めたのか普通に一緒に手伝ったりしている。
レティと真夜は俺が言うならって感じだったし、イーリスとオルガはそもそも余り食事の用意中に居ないし、個々の生活上好きにやっている様で、個人的には最近良い感じの距離感じゃなかろうかと思わんではない。
うん、こんな感じの言い回しがオッサン臭いんかね。
今は十五だけれども、そこら辺は全く変わらんな。
と、しょうも無い事を考えつつ飯の準備をしていたら、寝ていたであろう二階からと、今日は珍しく隣の家のイルメラとセルファースも皆集まって来た。
イルメラ達はイルメラ達で基本自分達で生活していたが、美味い物が食いたい時とか、籠り過ぎて人に会いたい時とかに家に来て飯を食ったりしていた。
今日は此処の説明したりで居て貰った方がいいと思ったから、予め話して来てもらう様にしといたが。
「おはよー。」
「「「「「「おはようございます!」」」」」」
「おはよう。」
「……<ペコ>」
ガタガタと音を鳴らして皆が椅子に座っていくが、今の挨拶で気付いてしまった。
最初の内は俺達と話したりして少しは喋る様になっていたが、ここ最近セルがまた喋らなくなってしまっている事に。
イルメラの仕事上ちょっと気が強めでよく喋り仕事の邪魔になる可能性のあるオルガより、基本無口で邪魔にならないセルを付けた訳だが。
蛇足だが、前世の国民的漫画のキャラに同じ名前のキャラが居てなかなか言い出せず、愛称で呼び始めたのは俺が最後で細かい日時は分からんが、確か二月前位だった。
因みに他の皆は長いからか、俺より全然早い内からそう呼んでいたが。
まだ同行者はレティだけだったし、傍に女性が居て欲しかったとも言う。
始めに話を聞いたら元から喋らない訳では無く少し無口程度であって、長期間喋る事を許されなかった弊害でって事だった。
なので、イルメラの所にちょこちょこ顔を出してもう少しセルとも喋るつもりだったんだが……今思えば修練が楽し過ぎて当初の予定よりかなり少ない数しか顔を出していなかった。
イルメラは俺達に頼まれた物や、空いた時間も常に自分で作りたい物を何かしら作っている職人バカなので、そもイルメラ相手にも少しでも話しているか不安だ。
元からそこまで喋る方じゃなかったと言っていたし、そうじゃなきゃ喋れ無かった頃にストレスで禿げたり体調不良になったりしたろうが、忘れてはいけない事を忘れてしまっていた事はちゃんと考えんといかんか。
小さな事だからと後に後にと回して気が付いたら大事な事をも忘れた、なんて事にならん様しないとな。
「セルファース、何か報告有ったりするか?自分の要望でもいいし、イルメラが気付かない様な事とか。」
「……?……む……たまに食事を忘れる。……風呂も忘れる。……ん……床や廊下で寝る事も有る。」
間に長めに沈黙は有ったが、思う所が有ったのか幾つかすぐに出て来た。
イルメラが気付かない事とかじゃなくて、イルメラ自身の問題だったが。
「む?……いいじゃろ、そんな事。頼まれた事はきちんとこなしておるし、他のドワーフで問題になりがちな酒に関して儂には当てはまらんし。」
「ん?そうなのか?酒、好きじゃないのか?」
「嫌いではないがの。実は儂、そこまで好きじゃないんじゃよ。同じ村の男の鍛冶師が、ちょこちょこ酒に飲まれて鍛冶に失敗したり、暴れたり、碌なのが居なくての。ドワーフは基本酒に強く、ヒューマンより多く酒を飲んでも良い感じに酔うだけって者も多いんじゃが、全員がそうではないんじゃ。表に出て有名なドワーフ達はちゃんとしておるから表に出れるだけで、話にならん問題児も幾らか居っての。」
何か面倒事が有ったんだろうが、かなりの渋面をしながら喋っていた。
「ほ~。ドワーフだから、って種族全体で見ちゃダメって事だな。当たり前だが、人でも動物でも同種であってもかなり違う個体はいる物だし、精神的なモノに至っては理解出来ない連中なんて腐るほど居るか。」
「……あー、もう一ついいか。」
そのままイルメラと話していたら、ちょっと遠慮がちにセルから話しかけられた。
「どした?」
「ん……自分の事で……良いのか?」
「それは、当然良いよ。何々?」
自分の意見をこれまで全くと言って良い程言わなかったセルが言ってくれる(だから忘れたともいうが)のであれば、ある程度の事は無条件で良いと言えるが、さて。
「む……たまにで良いので……あ~……後衛を借りれないか?」
「へ?……後衛って事は採取や狩りで森に入るのか?」
「……ああ。今迄も近場には出ていたし、お前たちの修練に混ざって鍛えても居た。……が、この半年位はゴブリンや狼、強くてもレニの森に出るオーク種や魔獣系統しか相手にしていないから、……実戦の勘が鍛え様がなくてな。」
「まあ、お前は完全な前衛だし、戦闘に置いて足りないのは後衛か。あ~、確か斧術と身体能力強化は以前から出来ていたが、ちょっと前に確認した時にも増えてたのは体術、大剣術、鍛冶を手伝ってたからか火耐性が付いてたくらいで……どう考えても後衛が必要だな。」
「……む。オーガ位までなら苦戦はしても何とかなるとは思うが……実戦の勘を戻しに行くのなら出来れば魔の森に行きたい。だが……浅い層に行くだけにしても、あそこは油断をすれば即、死につながるし……俺だけでは無理なのだ。」
珍しく引っかかりながらも饒舌に話したセルは、言う事は言ったのか一旦言葉を止めて此方をじーっと見て来た。
「ん~、オルガ以外は俺も含めて後衛も出来るからそれは構わないよ。時間が空く時だけにはなるが、前日までに言っといてくれれば出来るだけ手伝うよ。」
「……それで良い。助かる。」
今のセルの状況で強くなりたいのはよく分かる。
今は基本俺達に付いていくしか選択肢が無いし、何か起きた時、っていうもしかしたらをちゃんと考える事が出来るのであれば、実力は高いに越した事はないって事だ。
俺達の扱いに不満があるとかじゃ無いと思いたいが。
話しが終わり用意された朝飯を見ると……見た目は普通に美味しそうではあった。
最初だしまだ全部を任せていないと言っていた朝飯だったが、食ってみれば結構美味かった。
まあ、簡単な肉野菜炒めにご飯、汁物だけだし、ちゃんと味見をして確認しながら料理すればそうそう失敗しないもんだろ。
塩と砂糖が分からない上に確認もしない人とかは別だが。
「うん、ちょっと薄い気もするが美味いな。」
「そうですね、主様。私はこれくらいの味で良いですが、人族やドワーフ族には薄いのではないでしょうか。」
「そうじゃな。吞兵衛が多いドワーフは、飯とつまみを分けない輩も多いからの。基本早く出来て、しょっぱくて、じゃ。……儂は余り好まんが。なので、今日の朝飯はちゃんと美味いぞ。」
「あふ……うん、朝はこんな感じで……良いと……思う。」
食べながらうつらうつらし始めたイーリスを起こしつつ朝飯を食ってから、修練を、と言うより始める前の準備を始めようか。
食い終わったのを見てから全員を家の前の広い所に集めて見渡してみると、何人かはどう見ても今までほぼ運動していませんって言いたげなのが居るが。
いつも通り最初はショック療法で上の実力を見せて、そこからきちんと基礎を身に付けさせて……結局使える様に出来て動き出せるのは更に最短で半年、時間が掛かれば一年後くらいになりそうだな。
うん、どう考えても小説でよくある展開の様に、途中から色々足りないと分かっていても動き出さんと時間が人が全然足らない。
その癖盛り上がりとか全くない事になりそうな気がするが、そうならないよう行動しているから当然と言えば当然だ。
魔の森の事は数日から十日に一回は異常がないか調べに行っているし、物語で何時も何か起こりがちな町においては今は余り近付かない様にして泊まる事も余りしない様している。
「ほら!ルーン、ミナ、ルティア。余り関係無い様な顔をしているが、ここに居る全員ある程度鍛えるからな。ここに居る誰とでも、パーティを組んで最低でもランク3、出来ればランク5以上の冒険者とやり合える程度にはなって貰う。子供達も文字と算術、戦闘に置いても色々教えていくから。」
あからさまな文系の二人に、戦闘とは関係ない踊り子のルティアは最低限で構わないと思っている。
が、子供達は長い時間を掛けて次代に、次代に、と繋げていきたいと思っているので、最初のこの三人には一番前を進む者として出来うるだけ頑張ってほしい。
普通に考えてなかなか厳しい目標に騒ぎ出した仲間達と、それを生暖かい目で見ている嫁、どう鍛えようか見定めている嫁、眠そうな嫁が居て、見ていてとても楽しい。
さて、最後に隠れている嫁を紹介しようかな。




