第二十六旅 レティシアとの一日 後編
話している内にもうレティの言っていた山頂に近い洞窟に着いていた。
サーチの範囲内には何も居ないと思うが、レティを見てるとこの世界の竜族はかなりチートと言うか他とのレベル差は隔絶している気がするし、結構頑張ったと思うんだがまだ俺でも気付く事さえ出来ない可能性も有る、か。
『まあ、今回は挨拶だけだし大丈夫だろ・・。よく物語でこの状況だと、テンプレとか言って俺がレティをさらった相手と見て攻撃してくるとかになるんだろうが。ま、有り得ないだろ。竜族のしかも知能では一二を争うハズの風竜の王が、状況判断出来ないとか無いだろうしな。』
『そうですね。お母様は歴代の風竜の中で最も自由であり自分勝手でもありますが、その中に他への影響など他の竜では考え無い様な事も気にする方でもある、筈ですね。引き継いだ知識に情報は有りますが会った事は無いので、実母なのですが伝聞の様な言い方になってしまいますが。』
<バサッ!>っと一つ羽ばたくと綺麗にゆっくり着地した。
『凄いな、レティ。まだほとんど飛行の練習してないのに着地もあんまり衝撃無いし。』
『それは当然です。これは引き継いだ知識や経験ではなく私達風竜族の本能ですから。まあ、ご主人様、といいますか人を乗せて快適に飛べるのは風竜くらいですが。』
『ん?そういえば、確か下級竜にワイバーンって竜がどこかの国に従魔でいた筈だけど、あれって風竜の下級種だろ?あれの乗り心地ってどうなんだ?』
降りながら聞いてみると、一緒にされたくなかったからかちょっと不機嫌気味に返事が来た。
『あれと比べられるのは悲しい限りですが。稀にかなり乗り心地が良い個体が居る程度ですね。人族に関係しているのは基本的には軍に所属している者が殆んどですので流石にそちらの情報は無いですが、自然に居る者達の中には気性がそれほど荒くない者もおりますから・・・知識の中でも百体に1体居るかどうかですね。』
「そうか。」
レティから降りてパスからではなく実際に声を出して話を続ける。
目の前でまたレティが人化の為に繭に包まれているのを見ながら独り言ちる。
「ま、確かに下級竜とはいえ、竜族に簡単に乗れるとか冗談にしかならんよな。」
洞窟に入って行きながら魔法の明かりを点け、まだ竜族の話をしていると、何か・・僅かにだが重圧が圧し掛かってきた気がしてレティを見ると僅かに肯いた。
いまだに俺のサーチには反応は無いんだが、この奥にいる様だ。
余り大きく無い大体横4m高さ5m位の洞窟を、所々に横道も有ったがレティにはもう分かっている様で迷い無く進んで行く。
魔法の明かりの中五分ほど進んで行くと、ゲームの中で竜が舞い降りて来そうな上が開けたかなり広い場所に出た。
まだ薄く圧し掛かる重圧は変わらないが、何故か居る筈の場所には誰も居ない。
不思議に思いレティを見ると、何故か何時もより表情を消して何も言わずたたずんでいた。
今の状況を良く考えると、何となくだがエーレーアのやりたい事が分かった気がする。
レティが此処まで案内するのは見逃すが、これ以上俺を手伝う事を禁じたのではなかろうか。
現状を何とか(多分)把握出来たので、全力でサーチを行うが今の所全く反応が無い。
完全な隠蔽能力なんかそう在るとも思えないし、今の俺の探索能力を考えると何か見落としてるだけだと思うんだが・・・。
まだそこまで使い慣れていないが、致し方ないので魔力眼を使って周りを見渡してみる。
サーチだけでも情報量が多くて慣れるまで時間が掛かったが、そこに視覚からの情報が有るとゆっくり慣らしているがまだまだだな。
ただ、その状態でも使ったのは無駄では無かった様で、薄っすら魔力の流れが見えた。
『さて、此処まで喋らず来たが、どうしようかね。』
『どう、とは?会わずに帰ると言う事ですか?ご主人様。』
『ああ・・スマン、言い方が悪かったな。レティに事前情報を聞こうか、とか、どうエーレーアに話せばいいか、とかな。普通の状況ではないけど、娘さんを下さいって言いに行くんだしな。』
余り俺がそう言う事を言わない所為か未だに慣れないみたいで、娘さんを下さいと言った瞬間ポフッと真っ赤になって下を向いてしまった。
『あー、うー。・・ふぅ、余り気になさる事は無いと思いなすよ。そもそも人とは違いますから、本来は一々許可なんて要らないですし。』
結局予め何かして置く事はやめて、素直にまっすぐ行く事にして魔力の流れてくる方を確認した。
上に開いた洞窟の途中竜の巣らしきものから10mほど上の見え難い所から、俺から見ても今の成長したレティより高濃度の魔力が自然に溢れている様な気がする。
さっきまで襲って来ていた薄い重圧は消えていたので、もう気付いたなら早く来いって事なのだろう。
レティに俺ごと魔法で飛んでもらい横道を確認すると、2m位の普通の人が使う様なある程度整備された道が有った。
入って行き少し進んで曲がった先に、何故かこの場所に不釣り合いな重厚な扉が有った。
ここまで進んできて当然分かっているが、どう考えてもサイズ的にエーレーアは人型でここに居るんだろう。
<トントン>「入っても良いだろうか?風竜王エーレーア。」
素材のよく分からない扉を叩き、入る許可を貰おうとする。
数秒待つと中で動いている気配がして、レティとほぼ同じで、でもより落ち着いて聞こえる声で返事が来た。
「どうぞ。待っていましたよ。」
許可を得て(多分)部屋に入ると不可思議な所だった。
15m四方の白色の部屋に、茶色の本棚が立ち並んでいた。
部屋の奥にある机で何か書き物をしていたらしいエーレーアが、顔を上げゆっくりと立ち上がるとこちらに近付いて来た。
正面から見ると、やはりレティに似た顔に色はそのままの金髪だがストレートの髪が腰まで有り、レティと同じ空色の瞳がこちらを何故か友好的な感じで見ている。
「いらっしゃ~い、貴方が娘の主ね。」
!?
何かやけに友好的に挨拶された!?
しかも、俺がレティをテイムしているのもバレてるし・・。
って、まぁ、そもそも自分の、竜王の娘が、人族と一緒に居る理由なんて一目見れば竜王眼で分かるか。
レティに聞いたら、竜王の眼で見るとかなり細かい所まで性質やらなんやら分かるみたいだし。
無理につながっているのか、隷属術なのか、テイムなのかとか見るだけで分かるってんだから、さすが竜王、与えられたチートとかでは無く種の持つ基本能力だけでも俺の鑑定なんかより余程使える能力だ。
「ん~?目の前で考え事するのはお勧めしないわよ?」
ハッと気づくとエーレーアが目の前に居て、考え事でしわの寄った眉間を指で押されていた。
「うっ!?すみません。」
「まあまあ、そんなに硬くならずにもっと気さくに話してくれていいのよ?この子を助けてくれたお人ですもの。居ない間に卵を持って行かれた私が言うのもどうかと思うけどね。」
ちょっと気まずげな感じになったが、気になっていた事だったので突っ込んでみる事にした。
「では、そこを聞かせて貰えないか?あの時ガルーダは盗んだ後ガニア山北側に逃げて来たんだろうが、本気で探そうと思えば捜し出せたんじゃないのか?」
「そうね・・。まあ、そんなに難しい話ではないのよ。私達竜族は、基本的に子育てはしないの。特に私達風竜は巣に居ない事も多く何も置いてないし、一々竜の巣に忍んでくるなんて名誉欲に目が眩んだ阿呆な人族位ですもの。他の竜もほぼ同じで竜の巣に何かある訳では無いし、私達が食べ残した魔の者の素材が転がっていればマシくらいだと思うのよ。・・って、話が飛んだわね、ほぼ終わっていたけれど。要するに私達竜族の知識が有るんだし、自己の力だけで生き残れって言う事ね。」
「え~、助けた俺が言うのも何だけど、ガルーダの変異種みたいだったけれどそれでもなのか?」
「ええ。もちろん。確かにレベルは足りないかもしれないけれど、その程度なら生まれて直ぐでも確実に勝っていたと言えるわね。・・ああ、だからって勿論貴方がした事が余計なお世話だったとか言う事ではないわ。生死を掛けた戦闘である以上、想定外の事が起こる可能性がある事は分かっているし。」
二人で話しているとレティが間に入って来た。
「お母様、私の事はもう良いですから。ご主人様。先ず挨拶を済ませましょう。」
「ん?そうだな。・・・最初に言うべきだったか。申し訳ありませんでした、風竜王エーレーア。先ず、伝えなければいけない事が。私が助けた彼女にレティシアと名付けました。その上で、娘さんを正式に嫁として貰いに来ました。・・まあ竜族にこんな人族の習慣を押し付けるのもどうかと思ったが、付き合ってくれると嬉しい。」
今迄に経験の無い事をしている上に普通の親では無いエーレーアに一所懸命話していると、何か生暖かい笑みを向けられてしまった。
「まあまあ、言い慣れない言葉を使ってまで丁寧にありがとうね。さっきまでの話で理解してると思うけど、竜族、特に風竜は産まれる前から放任なのよ。ちょっと名前は私が付けたかったと、ほんのちょっとだけ思わないでもないけど、今回は私がそれを言ってもねぇ?」
「そうですね、お母様。今更そんな事を言われても私もご主人様も困ってしまいますので、その辺りでお願いします。」
何か似た感じの笑顔を浮かべながら遣り取りする二人を見ると、竜族とは言え変化した姿は母娘に見えるな。
大体の目的は果たしたのでそろそろお暇しようとすると、最後に忠告をくれた。
「まあ、もう当分会う事は無いだろうから、ちょっとだけ助言をあげるわ。貴方、鑑定のスキルを持っているわね?今回賢明な判断をしたと言えるけど、私達上位の存在は自分達で鑑定出来るのは勿論、鑑定されれば知る事が出来るし何だったら妨害も出来るのよ。初対面の相手に行き成り鑑定された日には、最初どんなに好感触でもどうでもいいと思っている相手以外は八割方敵対されるわよ。気を付ける事ね。」
「・・やはり、そうか。重々気を付けるよ。ありがとう、エーレーア。いや・・・・・お義母さん?」
どういう反応をするのかどうしても気になったので、竜族でそういう言い方をするのかは分からなかったが試しで言ってみた。
あまり反応は無かったが、ちょっとだけ嬉しそうにしている気がする。
「・・もう挨拶は終わったんだから早く行きなさい。私は久し振りに帰って来て、もう少し此処でゆっくりするつもりなんだから。」
エーレーアは拗ねたのか、こっちを手で払い後ろを向いてしまった。
仕方ないのでレティを促し、後ろから礼だけして出て行く事にする。
重厚な扉を閉め一応聞いてみる。
「気を悪くした訳では無いよな?レティ。」
「はい。今迄言われた事の無い呼ばれ方をしたものだから、照れていたのでしょう。今迄の知識の中で人に近い所で生活をした事も有りますが、此処まで心理的に近くに人が来た事はありませんから。」
「そっか。それなら良し。じゃあ、またゆっくり空の散歩しながら帰りますか。」
キュクロ大山脈西部頂上付近からまたレティに乗ってゆっくり北東へと飛んでゆく。
レティにしたらゆっくりなんだろうがかなり速いスピードで帰っていると、少し行った位の所で来る時に確認を忘れていた山の麓近くに在るガドニー村と、かなり遠くには薄っすらフォートレウスが見えた。
変わらず周りより暗く見える気がするフォートレウスは置いといて、ガドニー村はこの国に在るダンジョンの近くに作られたダンジョン村だ。
その内行く事になるだろうし、レティに言って速度を落として貰い上空から色々見て見る。
近すぎず遠すぎない所にパッと見ではあるが数千人規模の村がある。
魔力眼やサーチを使って確認していくと、やはり半数ほどが冒険者や騎士の様だった。
自分で潜っているのか、自分以外に潜らせているのか、遠目で分かり難いが多分数人だが貴族が居るのは意外だった。
どう見ても弱っちい者の周りにある程度強い者が集っているのを見ると、この遠目だとどれだけの権力かは分からないのですごい矛盾を見た気がする。
他にもダンジョンの近くにも商店や屋台が有るみたいだし、かなり活気が有る様だ。
多少情報収集をし、雰囲気だけ確認したので帰る事にしてレティに頼むと下から視線を感じた。
ダンジョン近くにいるパーティの内の一人がこっちを見ている様だ。
魔力眼を持っているのか明らかに視線がこっちに合っているが、障壁で姿は見えていないだろうし一々伏線にするのも面倒なので、反応せずそのまま即移動して貰う。
そのまま途中のウルビーノやパント村、傍に在るアーニト川を横目で見て地形や近くの状況を確認しつつ順調に帰って行く。
今度は右側にガニア山を見つつ風景を楽しみながらレティの背中でのんびりする事一時間、別に緊急事態が起こる事も無く、夕方過ぎに村に着く事が出来た。
「ただいまー。」
「お帰りなさい、ユウ様。」
防衛のコボルド達に迎えられ村に入ると、そろそろ夕刻で薄暗くなっている中夕食の準備中なのだろう良い香りが漂って来ていた。
最近思うが街に居る時の同じ状況の時より良い香りが漂っている気がする。
「おし、じゃあ晩飯にしますか。」
「はい、私もアルに習いまして、まあまあ美味しい物を作れる様になりました。私個人の好みでして、作るのは基本ステーキやハンバーグばかりですが。ちゃんと合わせてご飯も美味しく炊ける様になりましたし、今日は狩って取って置いたアースボアの腿肉のハンバーグにしましょう。」
頷きながらボックスからアースボアを解体して部位別に保存しておいた袋を取り出しレティに渡してやる。
今日の様々な事を話しながら俺も少しは手伝い夕飯を作り、普段は皆が居て五月蠅い位のリビングで二人だけで食事を始める。
とろける肉に舌鼓を打ち、ご飯と一緒に頬張るご飯に幸せを感じていると、正面から温かい視線を感じ見てみるとレティが嬉しそうにこっちを見ていた。
「美味しいですか?ご主人様。」
「ああ。すっげー美味いよ。塩胡椒の加減も問題無いし、焼き加減もちゃんと好みの感じになってるし。修行の成果だな。」
レティと楽しい食事を終え、今度は風呂へと向かう。
此処は温泉では無いが皆風呂の良さに気が付いたらしく、状況によっては一日二回入る者も居た。
基本普段は湯で流すだけで終わるが、今日は取って置きの石鹸を出してレティにも渡してあるのでゆっくり浸かってから出て来るだろう。
先にあがって自分の部屋に戻ると、だんだん緊張して来た。
紛らわす為にちょっと多く魔力を注ぎ、光量は余り無い1~2cmの小さい光球を無数天井に固定しそれっぽい雰囲気を作ろうとしてみる。
レティが気に入ってくれるかは分からんが。
十分ほど待つと、風呂上がりでちょっと上気したレティが別の理由でだろう真っ赤な顔で部屋に来た。
「お待たせいたしました、ご主人様。」
相も変わらず綺麗な姿勢で礼をして部屋へと入って来たレティを呼び込みベッドで横に座ってもらう。
「これから先何処までいけるか何が出来るか分からんが、皆で適当に頑張っていこう。」
「はい。適当に、ですね。」
俺の言いたい事が分かっている様で、薄っすら温かく笑いながら答えてくれた。
一々深刻にならず、人の所為にも自分だけの所為にもせず、皆で話し合い適切な行動をしていこうと言う俺の想いが伝わったであろう事は見れば分かった。
最後にベッドに上がりレティに向かって一礼する。
「この世界で最初にテイムした相手がお前で良かった。レティシア、これからもよろしく頼む。」
「はい、幾久しく可愛がっていただけます様よろしくお願いいたします。」
ベッド上で向かい合い身を正し礼をし合っている現状にちょっと笑い合ってから、徐に近付きレティに触れるだけのキスをする。
「<チュッ>んっ・・・ふっ、あっ・・。」
そのまま押し倒し、乱暴にならない様触れて行く。
色々キスをしたり、悪戯したりはして触れてはいたが、この日始めて女性を抱いた。
とても柔らかく温かい、相手を思い、思って貰える素晴らしい時間だった。
朝起きると何時もの様にレティが横に寝ていたが、当然何時もとは違う姿で今日は悪戯する気にならずちょっと離れて全身を見てみた。
俺とあまり変わらないくらいまで伸びた身長に、程よく付いた筋肉、横に向いても余り垂れないおっぱ・・・欲望が溢れたがこの世界に来て始めての従魔がレティだったのは幸運だったと本当に思う。
少し見るだけならともかく何時までも見続けるのも変態臭いし、また寝転び上を向きながらいつも通り手隙になった時用の修行を行う。
未だに何時感じても不思議な魔力を自由に使う為、余り消費し過ぎない様濃度を変え形を変え目の前の空間に光や水、風、火と小さい球を次々作っては消していく。
不意に今まで出来ていなかった事に挑戦したくなったのでイメージを固めつつ、補助にこの頃言わないで飛ばしていた詠唱を短めにだがしてみる。
『夜の帳を 影を 闇を生み出せ 闇』
一応部屋を暗くするだけのつもりでやってはみたものの、何か足りないのか魔力を消費するだけで何も起きない。
1人で色々ごちゃごちゃやっていたら横からの視線を感じた。
この状況ではレティの視線と分かっているので、発動していた光魔法を消しレティの方を見ると仕方ない人だなぁみたいな感じで見られていた。
「おはようございます。ご主人様。朝からお忙しいようですが、もう少しこのままでゆっくりしましょう。時間はまだありますから。」
ふにょんと腕に幸せな柔らかさが当たり、小難しい事が一切考えられない状況でお昼近くまで過ごした。
次回4月25日0時投稿予定




