第二十五旅 レティシアとの一日 前編
すみません、少し遅れました。
今日から一週間は俺と嫁一人以外は昼から希望の多かった狩りや修行を頑張って貰う事になった。
俺は一日過ごす嫁と昼食後に出掛ける。
修行に行く皆は便利なボックス持ちである俺の居ない状況での野営の練習もして貰うので、申し訳ないがいつもと違って結構な大荷物を持って修行に行って貰う。
しかも、危険ではあるがもうレニの森では修行にならないので、魔の森の浅い所で野営をする様言ってある。
怪我しないかとか気になりはするが、此処の魔の森の浅い所なら大丈夫だと思う。
念の為、レティを抜いたこのメンバーだとリーダー扱いのシーラに八割位溜まっている魔力庫を渡し、万が一には遠慮なく使う様あらかじめ言っておく。
で、最初の日なので今日はこれからレティとゆっくりしようと思う。
その前にやって置くべき事はやっとく為に朝から体力強化と魔力操作の基礎修行を皆でして、言い忘れた事が有ったので修行後昼前に大広間に集まってもらった。
「よし、集まったな。」
「はい。お話が有るとの事ですが。」
「ん~、まあ重要な話って訳では無いが。少し言っといた方が良いであろう注意事項がな。」
「「「「???」」」」
中途半端な言い方だったからだろうけど、皆の頭の上にクエスチョンマークが見える様だ。
「ま、俺の持論なんだが、皆あまり思い詰めて余り関係の無い人に相談したりしない様にな。心配を掛けたくないと行動したのに、余計に相手に心配をかける事になったら本末転倒だからな。確かに話が相手に伝わらない事も重要かもしれんが、リスクもあると理解はしとくべきだろ。」
「相談して来た人を自分に依存していく様仕向ける奴も中には居る。利用する為や、横恋慕で奪う為なんて事も有るだろう。自分に絶対従う手が増えるのは何をやるにも役に立つだろうしな。周りへの依存が悪化すると自分の運命とは?とか、自分のその場所に居る意味は?という本来意味の無い言葉に都合の良い優しい言葉を被せて使って、自分に関わる事が運命だとか居場所は此処だと言って利用しようとしてくるぞ。他人に行動の理由を求める人間って人を操ろう利用しようとする人間からするとカモだろうからな。傾倒・・・じゃなくて、あ~、何だったっけ・・・妄信が近いかね。下手をすると周りの人間という近しい人への関わり方を間違う事になるぞ。」
「良く新興宗教で利用されるが、信仰で無く現世利益優先の所でその言葉が使われる人はやはり必要とされたい思いが有るんだよ。其処へあなたが此処にいる意味はこれだ、と言い切られたり、ある程度の人が頑張れば出来るであろう事をやらせて運命という言葉を使ったりして傾倒させていき、教祖や幹部の上司の言葉を恩を売り時には自作自演で断り難くしていく。後は坂道を転げ落ちる様に宗教という名ばかりのモノに全てを捧げる狂信者が出来上がる訳だ。」
「・・話が長くなったな。そんな訳で信用出来る相手を俺たち以外に作って置く事だ。俺達に相談できないと思った事を冷静に話せる相手をな。出来れば俺達に相談してほしいが、近しい人には話しにくい事も有るから仕方ない。」
「・・なるほど。確かにこの世界でも狂信者は幾らでも居ます。仰っていた様な宗教系統の者から地下組織、貴族や王族の暗部まで、使い潰すにはもってこいの人材ですから。何処にでも居る・・というかそうなる様育てるのでしょう。」
一番そういう事が有りそうな人族の出のオルガがまとめてくれたが、嫌な情報付きだった。
実際にあるのならこの世界のそういう狂信者の方が面倒になりそうな気がする。
前世の場合は爆弾を持ったりと道具が必要になるが、この世界の場合大きな道具を使わずとも魔法でも直接でもかなりの被害を出す事が可能だからな。
伝えときたい事は伝えたので後はこれからの事を話しながらアルが作ってくれている今日の昼ご飯をゆっくり待っていた。
ニ十分後にはコボルド達が採って来た野菜とアッシュボアの炒飯が出来上がったので、昼を食べ修行に行く皆をレティと送り出した。
「さて、皆は送り出したし、これからどうしようか?」
「はい。申し訳ありませんが、何かする前にお伝えする事が有ります。」
何か真剣な顔をして言われたので、一体何事?と思いはしたが今現在の問題が何も思い浮かばなかったので大人しく聞く事にした。
「私達はこれから活動を始めるに当たりまして、妊娠をコントロールする事としました。行き成り初年度から誰かが妊娠するのもこれからの事を考えますと無理がありますし、シーラに頼んで薬を出して貰っています。大変申し訳ありませんが、お子様に関しては来年、出来れば再来年以降でお願いします。」
「ふむ・・・なるほど。シーラの作る事の出来る薬関係の中で聞いていたし、俺も気付けない事は無かったか。すまんな。そだな、そこはすまないが来年以降・・あーー俺も頑張るのか。」
「<クスッ>はい、皆で頑張りましょう。」
凄く晴れやかに笑ってくれたのでこの話は此処までにして、今日どうするかに話を戻す事にした。
てゆーか、一つ忘れていた事が有ったのを思い出した。
「よしっ!今日は午後一杯空の散歩と行こうか。約束してたけどなかなか実現出来なかったからな。空間魔法で下からの視線は隠すから、好きな様に飛び回ろう。」
「本当ですか?人とは時間感覚も違いますしもうちょっとなら我慢出来ましたけど、皆修行中で余り機会も無かったですし。・・・こう、そろそろうずうずと欲求が出て来てましたので嬉しいです。今は一人で勝手に飛んでも寂しいですしね。」
決めた事はとっとと始めるに限ると、レティには直ぐに竜の姿に戻って貰う。
久し振りに見る空色に煌めくその巨体は更に大きく威厳を増し、今や6m以上になっていて見上げていると首が痛くなるくらいだ。
『この姿は久し振りですね、ご主人様。』
「おう、久し振りだ。・・・・・すまんな。中々飛ばせてやれなくて。」
『いえ、状況が整ってからでなくては無用の危険を引き寄せる事になりかねませんから。』
落ち着いてゆっくり首を横に振るレティに感謝しながら、しゃがんだ?体に登っていく。
レティの鱗に触れていると、ちょっとヒンヤリしている硬質な鱗の中にあったかい体温も感じられて、そのままいい感じで昼寝が出来そうな気がする。
アホな感想は置いといて背中に乗り、レティが具現化してくれた鞍で自分の体を固定してレティが動き出すのを待つ。
まあ鞍とは言ったが、馬と違って乗る者を固定するのが主目的なだけなので、レティの口には勿論セットのハミは付いていない。
背の翼が動くと共に全体の魔力も動き出し、一羽ばたきで10m程一気に浮いた。
『では、参ります。』
『おう。お手柔らかにな。』
普通に言っても声が届かないと思ったのでパスを通して声を掛け、レティの下に固定してちょいちょい練習していた色を変える方法で空の色に偽装した障壁を張る。
待っていたのか張った直後力強く羽ばたき、一気にスピードを上げて空へと舞い上がった。
つい「おおっ!?」と声が漏れたが、流石風の竜王加速が半端じゃない。
横に空しか無くてスピードが計り難いけど、斜め下に見える地上が結構な速さで遠ざかっていくのを見ると、楽勝で時速百キロとかは越えているな。
ふと周りを見て気付いたが、空のモンスターが近くに一体も居ない。
本来空のモンスター自体が少ない訳で無く、更に強者以外は鳥型も亜人型も蛇型も群れが殆んどなのに、俺の視力で見れる距離にはと~おくに大きめの鳥型じゃね?ってのがギリ見える位だ。
『レティ、何か空のモンスターが見当たらないがこんなもんか?』
『はい。どの属性の竜王でも近くに居ればこんなモノかと。町でも少し話題に上がっていましたが、今年は空からの襲撃が少ないということでした。人の中に居れば無いと思いますが、長く同じ場所に留まれば逆に寄って来てお供え物と言うか狩った獲物を献上しにきたりする可能性も有りますが。』
かなりのスピードで飛び回りつつクルクルと回転したりするので、急いで360度全面に障壁を張ったりして万が一にも地上からバレない様にした。
ただ、障壁越しだけの景色も微妙なので、一旦地上で余り人の居なさそうな場所を選んで空中に停まって貰ってゆっくりと景色を堪能していた。
って言うか、すぐ気づかなかったがやはりレティは羽だけで飛んでいる訳では無かった様で、空中で止まっているのに羽ばたいていない。
『近くにモンスターが居ないからゆっくり景色が堪能できていいな。』
『今日は天気も良いですし、見晴らしがよくて飛びがいが有りますね。とても気持ち良いです。』
ある程度気が済むまで飛ばしてやろうとレティの背でのんびりしていたら、何やらパスから提案が聞こえて来た。
『ご主人様、ちょっと宜しいですか?』
『どした?』
『せっかくですので、お母様に挨拶をしていきたいのですがいかがでしょうか。事情も説明したいですし、私の親である以上今後関わる可能性が皆無では無いでしょうから。先程はその内と言う感じでしたが、予め一度会っておいた方がよろしいかと。』
『うっ!?マジで・・?その内行った方が良いとは思っていたが、このタイミングでか。・・・確かに、その内とか言っていたら後回しにして当分行かなそうだしな。今居る場所は分かるんだよな?レティ。』
『記憶にあるお母様の竜の巣はキュクロ大山脈の西の方に在りました。此処からですと南西に向けて3時間ほど飛んだ山頂付近かと。ただ、お母様は・・・と言うか風竜は飛ぶのが好きで、巣に居るより空にいる方が長く、遠くに見る事は有っても遭遇する事の無い竜として有名です。・・・要するに居ない可能性の方が高いですので、いるかもしれない、いたらいいな位の考えで行ってみましょう。私に継がれた知識では3ヶ月に2日、巣に居れば多い方みたいですので。』
少なくね?
竜って言えば日がな一日寝て過ごし、数ヶ月から1年に1回とか狩りに行くとかの生き物じゃないのか?
・・・・・って無意味か。
この手の知識は此処で知った現実に沿った物では無く、前世でのファンタジー小説の想像の知識なんだから逆に合っている方がおかしいんだよな。
まあ、個人的に地竜辺りには実際に居そうな気がするが。
『まあ、居たら、って事で良いだろ。何かメモじゃないけど、残して置く事も出来たりするのか?』
『はい。竜族同士ですと、下手に会おうとしても出かけていて行き違ったりもそうですが、巣が変わっていたり、稀にですが物好きは変化を使って人族や亜人族の町に行ってたりもあります。ですので、竜魔法で伝言を残す事が出来ます。確か二千年前位に他の竜に接点が少ないのを気にした五百歳位の水竜の若いのが作ったという魔法が有って、今の私でも使えます。』
『へ~、そんな魔法が有るんだな。竜族は皆使えるのか?』
『大体は、ですね。火竜はちょっとおつむが弱く攻撃的な本能に負けやすいのが多いので、そこまでちゃんと魔法を使っているのってあまり居ませんから。地竜は覚える事は出来るんでしょうが、面倒だって言って棲み処の洞窟などから出ても来ませんでしたし。ただ、それぞれの属性の竜王は確実に使える筈です。』
『おしっ!じゃ、行く気力が萎える前にちゃちゃっと行くか。で、居なかったら伝言を残す、と。空の散歩の続きも有るし、向かってくれるか。』
『はい♪有難う御座います、ご主人様。』
決まったのですぐに行く事にして、レティに向かってもらう。
かなり遠くにうっすらと見える気がしていた山脈が段々とはっきり見えて来た。
今迄まだ見た事の無かった主都フォートレウスが気になったので途中に左側の地上付近を見ていると、遠くに在る筈だが割と大きく見える大都市がキュクロ大山脈の麓から少し離れた所に在った。
う~ん・・・腐敗の温床と言う先入観が有るからか、遠目に見て周りより暗く見えると言うか、どんよりしている様に見えるのは気のせいだろうか。
見ているだけでテンション下がりそうだったので、遠方への視線を切り前方の景色を楽しむ事を優先する事にした。
ぼんやりと景色と風を楽しんでいると前方、後10分もすれば大山脈に着こうと言う所まで来た。
前世で言うアルプス山脈以上の威容を誇る大山脈に言葉を失っていると、知識に在ったと言っていたし一直線に山頂付近の遠くに見える大きな洞窟に向かっている様だ。
『どうだ、レティ?この距離で居るか分かるか?』
此処まで来ても察知系では俺には分からなかったので聞いてみると、レティにもまだ分からない様だった。
『此処まで来てご主人様と私に分からないのですから、居ないか此方を驚かせる為に気配を消しているかだと思います。』
お茶目な竜が居ても良いので驚かすのは良いとして、強大な竜王が気配を消すなんて事が出来るのかと吃驚した。
『いやいや、竜族がそもそも気配を消す必要なんかないだろ。疑う訳では無いが、そんな事本当に出来んのか?』
『ああ、そう言われるのは分かりますが、私達風竜は大体出来ると思いますよ。気配を消すと言っても、大体は風の動きや体を動かした際に出る音等が気配と言う物の主な訳です。本来は意図的に気配を消す為に風を操り音を届かない様にすれば魔力感知でバレますが、私達風竜はそのくらいの事なら意識を向けるだけで魔力を使わずとも出来ますので。存在感みたいな物を感じ取れる者や、勘が良い者には通じませんが。』
『そんな事が出来たのか。今迄俺達で模擬戦やっている時には使ってたのか?』
そんな事をしている様子は無かったので聞いてみると、やり忘れていた事を思い出させてくれた。
『いえ、模擬戦では基本的な事を主でやっていましたからほぼ使っていませんね。森で戦っている時くらいでしょうか。奇襲する時とか監視をする時、もしくは逆に追われている時などでないと気配を消す意味が無いですから。』
『・・・?っああ!?何か忘れている気がしていたが、それだ!!森や町での奇襲アリでの自由戦闘を忘れていたな。やっばいな・・・。元から森でのモンスター相手の狩りはやっていたから多少は大丈夫だが、人相手だと思いもしない方法やスキルでの隠蔽もしそうだ。俺はサーチが有るから良いとして、明日からの修行でレティに頼みたいんだが。これは皆で知識を持ち寄って、ある程度の強者相手でも逃げる位は何とか出来る様にしてくれ。直ぐには無理としても、出来るだけ早い内に何とか出来る様しないとヤバいな。』
前にオルガやシーラに人やエルフに居た特殊なスキル持ちを聞いた事が有ったので、そこら辺から何か出来る事や隙が見つかればいいが。
レティと話している内に、洞窟の近くの空まで来ていた。
次回4月15日0時投稿予定




