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ジンダイ  作者: 吉田 将
第四章 万神アラハバキ
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報酬と予約

「うわぁ……! こんな素晴らしい岩を……ありがとうございます!」


 コウとタマノオヤが運んできた黒岩を見て満面の笑みで二柱に礼を述べるイシコリドメ。

 彼女は最初にコウが出会った時と比べてだいぶ印象が変わっていた。

 最初の時は長い黒髪はボサボサになっており、頬もやつれて、神衣も薄汚れており、自棄になって何も手につかないといった身なりであったが……今の彼女は髪に櫛を入れたのか、きちんと整えており後ろ髪を一本に束ねて結い上げている。神衣も汚れがないちゃんとしたものに変わっており、顔にも光が戻っていた。

 そのうえ、額には細い布のようなものまで巻いている。


「……初めに会った頃に比べて随分と変わったな」


「まぁ……これでも女神ですから」


「イシコリドメは気分の浮き沈みが激しいんスよ。それさえ無ければまともなんッスけどね……」


 呆れたように説明するタマノオヤのことを無視し、イシコリドメは黒岩の岩肌を撫でて状態を確かめる。

 そんな彼女に対しコウは申し訳なさそうに言った。


「すまないな。固さは大丈夫だと思うんだが、そんなゴツゴツした岩肌じゃ……」


「いえいえ、そんなことないですよ。岩なんて最初はどれもこんな感じですから……これを金床にするのはワタシの役目です」


「そうか。それなら良いんだが……因みにこれから鏡を作るとしてどれくらい掛かる?」


「そうですね……アマテラス様には申し訳ありませんが、早くて七日ほどは掛かるかと……」


「七日か……分かった。それは俺が伝えて了承を得てもらう。だから気にせず、務めに励んでくれ」


「何から何まですみません……あ、そうだ! お礼をしないといけませんね。ちょっとお待ち下さい」


 イシコリドメはそう言うと自身の小屋の中に入り、暫く経った後に戻ってきた。

 戻ってきた彼女の手には手のひら程の銅鏡が三枚ある。


「今はこんなものしかありませんが……どうぞ、受け取ってください。二枚はアラハバキ殿とアマテラス様に……もう一枚はタマノオヤに」


「おれまで貰っちゃって良いんスか?」


「勿論! この岩をここまで運んできてくれたんだもの!」


「……これは?」


「ワタシが遊び心で作った鏡です! 実はまだ誰にもあげていなかったんですが……よく出来ましたよ!」


 そう自信をもって話すイシコリドメを見た後、コウは鏡を凝視する。

 鏡の表面はよく磨かれ、曇の一つもなく凪の水面のような佇まいをしている。反対にその裏面である鏡背には絵とも字ともつかないような様々な文様が描かれており、これだけでも立派である。

 もはや、鏡というよりも宝鏡と称した方がふさわしい。


「遊び心で作ったんスか? それにしては立派なものッスよ!」


「あぁ、そうじゃなくて……遊び心というのはある仕掛けを施しているってこと」


「仕掛け? この鏡に何かあるのか?」


「ふっふっふ……それはいずれ分かりますよ。それでは、ワタシはさっそく務めを始めますので……これで失礼します」


 イシコリドメはそう言うと小屋の中へと入ってしまった。

 その様子を見ていたコウとタマノオヤは互いに顔を見合わせる。


「……一体、何をしたんスかね?」


「さぁ……だが、悪いことじゃないだろう。さて、俺もそろそろ戻るとするか……」


「アマテラス様の元にッスね? じゃあ、ここでお別れッスね」


「そうだな……今日は色々と助かった。ありがとう」


「いやいや、こっちも良いものを手に入れることが出来たんでありがたかったッス。それに会えて良かったッスよ」


「本当は俺も何か礼をしたいんだが……」


「翡翠の原石を見つけてくれただけで十分ッスよ。それに……同じ仲間に出会えて、おれは嬉しいッス!」


「仲間?」


「そうッス。だってアラハバキさん。おれと同じように他の男神がするような角髪みずらにしてないじゃないッスか! それにその首から下げた琥珀の玉も良いッスよ!」


「そ、そうか?」


 角髪にしていないのはあまり髪を伸ばしたくないからであり、琥珀の玉を首から下げているのはクジから貰った大切なものであるからなのだが、それには触れずコウはタマノオヤに相槌を打った。


「でも、その琥珀の玉……少し溶けかかっているッスけど、大丈夫ッスか?」


「なにッ!?」


 そうタマノオヤに指摘されたコウは首から下げていた琥珀の玉を眺める。

 確かに彼が言った通り、琥珀は玉の形を成しておらず、半分溶けかかった状態になっていた。


「これって熱に弱いんスよね……アラハバキさん、どこか熱い所に行ったッスか?」


「……あぁ」


 行ったもなにも昨日、天金山の炎の湖である火口に行ったばかりである。

 確かに溶けそうな暑さではあったが、まさか本当に溶かすとは思いもよらなかった。

 目に見えるほど落胆するコウ……そんな彼にタマノオヤは慰めるようにあることを提案した。


「もし、良かったらおれに預けてくれないッスか? 直してあげるッスよ?」


「えっ? 出来るのか?」


「おれはこう見えても装飾に関してはうるさいんス。扱うのは翡翠だけじゃないッスし、作るのも勾玉や首飾りだけじゃないッスよ」


「本当か? じゃあ……頼んでも良いか?」


「良いッスよ」


「すまない、それじゃあ頼む。礼は必ずする!」


「じゃあ、今度はおれの依頼を受けてもらおうッスかね? ちょうど、明日には出来ると思うんで取りに来て下さいッス」


「分かった」


 大切な琥珀の玉を預け、タマノオヤと別れたコウはその足でアマテラスの待つ神殿へと向かって行った。

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