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ジンダイ  作者: 吉田 将
第四章 万神アラハバキ
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必要な存在

「いやぁ、まさか川の流れを利用するとは……思わなかったッスよ! 」


「中つ国じゃよく人間が木を山から集落に送る時にこの方法を使っていたんだ。岩は重いし、沈むと思っていたんだが……川の底が意外と浅くて助かった」


 天安河原でコウと合流したタマノオヤは彼が休んでいる間に翡翠の原石を家まで運び、アマテラスから頼まれていた勾玉の首飾りを持って戻ってくると、コウと一緒に黒岩をイシコリドメの元へ運ぶ手伝いをしていた。

 コウは勾玉の首飾りをタマノオヤから受け取るとそれを袖の中に入れ、先にその中に隠れていたネネに持たせた。

 タマノオヤはそれでは落とすのではないか、と気になったがコウが袖を振っても首飾りが落ちる様子が無いので次第に気にしなくなった。

 そして、現在二柱は黒岩を一緒に転がしながらイシコリドメの元に向かっていたのであった。


「もし、この岩を見つけた場所が天香具山から流れている川じゃなかったら、こうも上手くいかなかった」


「なるほど、だからあの時に支流か本流か確かめたんッスね。にしても、普通ならこんな大仕事……この高天原だったらすぐに他の神に頼んじゃうッスよ?」


「まぁ、それが神本来の役割というか務めだからな……」


「因みにアラハバキさんって何の神なんッスか?」


「……何の神でもない」


「……は?」


「俺は他の神やお前のように何かに長けているというのが無いんだ。本来ならそれを生かして自身の務め、とするんだろうがな……俺には誰かの役に立てるような長けた力は無いんだ。だから、今まであてもなく旅ばかりしていた……」


 コウは魚の神であり、紡技という何かを繋いで導く神力を持っているが……それが何かの役に立つかというとそうでは無い。

 強いていうなら自分自身に対して役に立っている、といったところであろうか。

 けれども、その力で誰かをすぐに幸福にしたり救済したりすることは出来ない。

 それ故、彼はどのようなことを務めとしたら良いのか分からず、中つ国中を旅していた。

 最もそれも理由の内の一つであるが大きな理由はやはりカグツチを探し出し、養父母の仇を討つことであろう。

 その為、いつしか“復讐”がコウの務めとなっていた。

 それが果たせるのならどこへだって行き、何だってする。

 この八百万の神々の依頼を受ける万神にだってなる。

 しかし、万神に任命されてこうしてアマテラスの為に務めを果たしていると何だか妙な気分になっていた。

 無論、カグツチのことを忘れた訳では無いものの内に巣食う怒りの炎は少し勢いを弱めているように感じる。

 シオツチが琉球で言った言葉……何が大切なものかを知る。それを見極める為の場所であるこの高天原……確かに変わっている、変えられていくのを感じる。

 果たしてこれは良いことなのだろうか?


「でも、その旅のお陰でこんな色々なことが出来るじゃないッスか」


「……どうだろうな。色々なことが出来てもそれに長けた者には遠く及ばない」


「……別に及ばなくたって良いんじゃないんスか?」


「えっ?」


 色々なことを考えながら話していたコウはタマノオヤのその言葉に疑問の声を上げた。


「確かにその部分じゃ敵わないかも知れないッスよ? でも、肝心なことは“出来る”ってことなんスよ。例えば、もしアラハバキさんが勾玉や首飾りの作り方をおれから教わって、それを実際にやるとするッス。でも、おれには及ばない……あ、いや別にアラハバキさんを見下している訳じゃないッスよ。例えばの話しッスから……でも、そんな中もし俺が怪我や具合を悪くした、または別な理由で暫く務めが果たせなくなった……そうして、頼まれていた飾り物を渡せなくなる……もし、そんな状況になった場合、おれは迷わずアラハバキさんに頼むッスよ」


「……なぜだ? 俺が作って取り返しがつかなくなったら大変だろう?」


「そうかも知れないッスけど……必要な物を渡せなくなるよりは良いと思うッス。もし、失敗していたらおれが務めを果たせるようになった時に直せば良い話しッスから……つまり何が言いたいかっていうと……」


 タマノオヤはそこで一度言葉を区切り、その核心となることを告げた。


「アラハバキさんみたいな存在が必要なんス。特にこの高天原では……一つのことに長けて他のことが出来ない者より、長けていなくても色々なことが出来る者の存在が……だから自分が役に立てない、なんて言わないで下さい。現に今、おれはこうして大きな翡翠の原石を見つけることが出来ましたし、イシコリドメも金床の岩をすぐに調達出来た。これはかなりありがたいことなんスよ? それに……ほら」


 そう言って、タマノオヤは顎でしゃくって前方を指す。

 その方には小屋の前で両手を振って笑顔で待つイシコリドメの姿があった。


「イシコリドメ……よく来たのが分かったな」


「おれが家に行く時に彼女に伝えたんスよ。そしたら、出迎えるって聞かなくて……」


「そうだったのか……色々とありがとう。タマノオヤ」


「良いッスよ。それより、もう少しッスから頑張るッスよ!」


 女神の出迎えを得て、二柱の神々は岩を転がす手に更に力を込めた。

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