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異世界転移したらアシストロボが自我持ち魔導アーマーに進化しました  作者: 街いのしし


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第1章 8話 モンスターより怖い

フフスクル湖での穏やかな宴を終えた翌朝、介人たちは最寄りの交易都市ヒルクーツクを目指して出立した。


広大なウーラシア大陸の北へ続く街道は、豊かな森と起伏の激しい丘陵地帯を縫うように伸びている。道中、当然のように魔物たちが三人の旅路を阻もうと姿を現した。


「グルァアアアッ!」


鬱蒼とした森の木々を押し倒し、体高三メートルを超える凶暴な大きな熊が咆哮を上げて飛び出してくる。


「ビッグベアね。シッ……!」


だが、リナの動きは素早かった。腰の細剣レイピアを一瞬で抜き放つと、風を切るような踏み込みから目にもとまらぬ連続突刺を繰り出す。急所を的確に穿たれた巨熊は、悲鳴を上げる暇もなくドスンと崩れ落ちた。


さらに街道付近の開けた場所で、群れをなすウルフや獰猛なオークの集団に遭遇した際も同様だった。


「ふんっ……! はぁぁぁっ!」


長身の僧侶ギルが、身軽な体さばきでオークの棍棒をかわし、鍛え上げられた拳法の一撃――重厚な正拳突きを叩き込む。豪快な打撃音とともにオークの巨体が吹き飛び、残ったウルフたちはリナが俊足で放つ凄まじい高速剣であっという間に斬り刻まれていった。


(強い……。リナの目にも留まらないスピードと、ギルの無駄のない流れるような拳法……二人ともかなりの手練れなんだろうな)


介人は二人の洗練された無駄のない立ち回りに感心しきりだった。プロトの分析でも、二人の身体能力と武術の精度は極めて高い数値を叩き出している。


――しかし、問題は魔物を片付けたその直後に発生した。


「はぁ……はぁ……っ……。くっ……」


ちょっとした緩やかな坂道を登り切ったところで、介人はガクりと膝をつき、激しく息を切らしていた。汗が滝のように吹き出し、脚が笑って一歩も前へ進まない。


「ちょっとカイト……大丈夫? まだ街道に出てから三時間も歩いてないわよ?」


リナがあきれ顔で立ち止まり、腰に手を当てて介人を見下ろした。


「は、はぁ……。すまん、俺のいた世界じゃ……長距離の徒歩移動なんて……車か電車を使うのが……当たり前でな……っ」


「くるま? でんしゃ……? また意味のわからない単語を出してきたわね。……ねえ、もしかしてカイトって、あのすごい『プロト』を着ていない時は、ただの軟弱者なわけ?」


「うっ……。俺の本職はメカニック兼研究者だ。運動や肉体労働は専門外なんだよ……」


介人が息も絶え絶えに言い訳をすると、リナとギルは顔を見合わせた。


「カイト、これは笑い事じゃないわ。どんなに強力な魔導ゴーレムやアーマーを持っていても、中の本人がこんなに非力じゃ、万が一不意を突かれて鎧を着る前に襲われたら一たまりもないわよ!」


「リナの言う通りです、カイト殿。道具の性能に身を委ねるだけでは、真の危機を脱することはできません。生身の基礎体力と、最低限の護身術は身につけるべきです」


二人の真剣な眼差しを受け、介人は慌てて手を振った。


「いやいや! 気持ちはありがたいが遠慮しておく! 物理的な筋力増強や格闘技術の習得には膨大な肉体的な負荷と回復や反復練習に時間がかかる。プロトの自動防御フィールドとセンサーがあれば、不意打ちの回避率は99.8%だ。計算上、俺が生身で鍛える必要性は皆無――」


「――否定します」


介人の言葉を遮り、横に立つミニロボ――プロトが感情のない機械音声を響かせた。


「なっ……プロト!?」


『マスターの生身の筋力、柔軟性、および心肺機能の向上は、プロトアーマー着用時における思考追従速度と体動同調率を最大55%向上させます。リナ氏およびギル氏の提案は、マスターの生存率向上において極めて合理的と判断します』


「お、お前……! どっちの味方だコラ!?」


まさかの相棒からの寝返りに介人が戦慄していると、リナがこれ以上ないほど悪質でキラキラした笑顔を浮かべた。


「ふふん、相棒のプロトもこう言ってるわ! 決まりね! 野営の空き時間を使って、私がしっかりと鍛え直してあげるわ!」


「ま、待て! 理論上はそうでも、生身の人間には『疲労』と『筋肉の損傷』という限界がある! 追い込みすぎればパフォーマンスは逆に低下するんだぞ!」


介人が必死に抵抗しようとすると、隣で静観していたギルが柔らかな、しかしどこか恐ろしい笑みを浮かべて一歩前に出た。


「ご安心ください、カイト殿。先ほどお見せした通り、私は拳法だけでなく【回復魔法】のスペシャリストでもあります。骨折や深刻な筋肉の不全断裂でない限り、どれほど筋肉痛や疲労で体が動かなくなろうとも、私のヒーリングで即座に完全治癒させることが可能です」


「……はい?」


介人の思考がフリーズした。


回復魔法……? 疲労や痛みを即座に治癒……?


「……なるほどねぇ。つまり……どれだけ限界まで追い込んでも、ギルに直してもらえば無限に稽古が続けられるってことね!」


「なっ……!? お前ら! それはトレーニングじゃなくて地獄の拷問――」


「はい、おしゃべり終了! まずは腕立て伏せとスクワット100回! ほら素振り! 足腰が丸まってるわよ! ほら鍛錬! 鍛錬!!」


「ぐぎゃぁぁぁぁぁっ!?? タイム! ギブアップだからぁぁぁ!!」


――数時間後。


日が落ち、野営地に炎がぽつんと揺れていた。


地面には、魂が口から抜け出しかけた状態で真っ白く燃え尽きている介人の姿があった。


「はぁ……はぁ……生きてる……俺、まだ生きてる……」


「はい、お疲れ様カイト! ギル、回復魔法お願い!」


「承知いたしました。【ヒール】」


ギルの手から温かな聖なる光が注がれると、介人の全身の激痛と疲労が一瞬で吹き飛び、肉体が超回復を遂げる。


「よし! 体力が戻ったわね! じゃあ次は夜の体幹トレーニングよーっ!」


「鬼だ……! ここに悪魔と鬼がいる……!! プロト、助けてくれぇぇぇ!!」


『マスターの心拍数・バイタル正常。トレーニングの継続を推奨します』


「プロトのバカアアアアアアアアッ!!」


夜の静かな森林地帯に、ドラゴンの咆哮よりも悲痛な青年の悲鳴が響き渡った。


道中で出会ったどんな凶暴な魔物よりも、目の前の笑顔の仲間たちの方が遥かに恐ろしいことを、介人は身をもって理解するのだった。

読んでいただきありがとうございます。続きは明日11/3(火)に上げる予定です。ストックに余裕が出たら連日掲載などの前倒しも随時行いますのでよろしくお願いします。

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