第1章 3話 異世界交流
プロトがホログラムのように投影するマップを「広域マップ」モードに変更し、介人は周囲の状況を確認していく。
自機を中心とした立体的な地形データと、無数の赤点(生命体反応)がリアルタイムで表示されていた。
「えーっと、マップの赤点は『生命体反応』だったな。ここの赤い点が密集している場所……もしかして村か何かか? 一番近い水場に行く途中で通れそうだけど」
『現在地から北北西に約30キロメートル先の森の奥に、規模の大きい水反応――【湖】が存在します。その中間地点付近に、何者かの生命体反応が密集する集落のような領域を確認できます』
「よし、まずはそこを目指そう。もしかしたら異世界人との初コンタクトができるかもしれないしな」
◇
広大な草原を歩き始めてから数時間が経過した。ここまでは順調にモンスターと遭遇することもなく進むことができている。
「もう少しでさっきの集落が見えてきそうだな。友好的な出会いに期待したいところだが……」
『マスター、残念ながら相手はモンスターの可能性が高いです。個体データの蓄積が少ないため詳細な分析は不可能ですが、先ほどのファイヤードラゴンと共通の『魔石反応』が検知されました』
「なんにせよ、まずは様子を見よう。初の異世界交流になるかもしれないしな」
『マスター、戦闘に備えてアシストロボ形態で装着した上で接近することを推奨します』
「了解だ。――プロト、装着っ!」
瞬時にアシストロボ形態(もはや魔導アーマー)へと変形したプロトを纏い、介人は両手を上げて「敵意がない」ことをアピールしながら慎重に近づいていく。
徐々に集落の様子が見えてきた。どうやらあちらも集落の入口から出て、こちらに向かってきているようだ。
姿形は小柄な人型。手には錆びついた剣や粗悪な斧、槍、弓矢などの武器を握りしめており、一定の知性を持っていることが察せられる。だが、不気味な笑みを浮かべながらこちらを睨みつける視線からは、友好的な雰囲気など微塵も感じられない。
――シュッ!
突如、一本の矢が介人をめがけて一直線に飛んできた!
ガシッ!
「甘いっ」
プロトを装着した介人に、弓矢一本程度では牽制にもならない。動体視力と身体能力が跳ね上がっているため、飛んでくる矢を素手で軽々と掴み取ってみせた。これなら拳銃の弾丸すら掴めそうな感覚だ。
介人はさらに近づき、集落まであと数メートルという地点で足を止めて声をかける。
「話せるか?言葉は通じるか? こちらから敵対する意思はない! 武装解除してくれないか?」
「ケケケッ!」「ケーッ!」
返ってきたのは、冷淡な嘲笑と下品な奇声だった。
どうやらその奇声は攻撃の合図だったらしく、小柄な人型モンスターの群れが一斉に介人へ飛びかかってくる!
『マスター……』
「ああプロト、分かってる。――対処するぞ」
◇
ファイヤードラゴン撃破後からここまでの道中で、介人はプロトとともに火魔法の活用についていくつか検証を行っていた。
――火魔法の活用法 その1。
劣化版火炎弾、命名【ファイヤーボール】。
ファイヤードラゴンの火炎弾も再現できそうではあったが、あえてサイズや威力を抑え、複数同時発射や連射性を上げて殲滅力を向上させる――介人らしい効率的な最適化である。その成果が今、発揮される。
「プロト、マルチロックオン! 【ファイヤーボール】一斉発射!」
物凄い数の火炎弾が空を舞い、介人に襲いかかろうとしたモンスター達を瞬く間に焼き払っていく。
火の粉が消え去ったあと、無数の魔石が地面に残された。介人はその一つを手にとり、アーマーの胸元へ持っていく。そこはミニプロトの口にあたる部分であり、魔石を吸い込める程度に装甲が滑らかに開き、魔石を喰らっていく。
『マスター、魔石吸収により総魔力量の上昇と、このモンスターの解析が終了しました。種族名は『ゴブリン』。集団で行動することを好む好戦的な種族のようです。なお、今回は魔力量上昇以外の変化は確認できません』
「ありがとう、プロト。……まだまだ集落の方に残りがいるみたいだな。囲まれる前に迎え撃とう」
第一陣をあっという間に殲滅されたゴブリン達だが、逃げる気配はない。第二陣は先ほどより少し狡猾に前衛と後衛に分かれて陣形を敷き、後衛は弓矢で援護射撃、前衛は弓矢の着弾に合わせて攻撃を被せられるよう展開してきた。
「なかなかやるな。戦略的な知性はあるのか……?」
などと呟きながら、介人はアイテムボックスから適当な石を取り出し、弓を持つ後衛めがけて投擲した。
音速を超えた石は空気抵抗で粉々になり、激しい散弾となってゴブリン達を襲う。あまりの一瞬の出来事に、ゴブリン達は何が起きたかも分からずに絶命していった。ただの石投げだが、数回投げるだけで圧倒的な殺傷力を発揮し、後衛は全滅。残った前衛達は慌てて介人に襲いかかる。
「プロト、接近戦用火魔法を試すぞ!」
『マスター、了解しました』
――火魔法の活用法 その2。
火魔法を凝縮して刃状に放出する、命名【フレイムソード】。
ライ◯セイバーやビー◯サーベルの様にエネルギーを凝縮して形成する形態を、火魔法で再現したものだ。刃こぼれもなく、魔力切れさえ起こさなければ手入れ要らずの代物である。やや燃費が悪いのが欠点だ。
介人は【フレイムソード】を発現させたまま、ゴブリンの群れへ突撃する。
後衛が全滅し浮き足立った彼らは、為す術もなく斬り倒されていった。
「ふーっ、これで最後だな。プロト、戦闘態勢解除」
『マスター、周囲にモンスター反応がないことを確認。解除了解しました』
「なかなか使い勝手は良かったが、燃費と効率が悪いのは課題だなー。後ろの集落を燃やしたくないからファイヤーボールはやめておいたが、フレイムソードで切った死体は燃えずに残るから魔石を取り出す作業が生まれるな。このゴブリン、食用として考えるのは遠慮したいから
アイテムボックス行きはナシだし……そうすると燃やした方がいいか? ファンタジーあるあるだと、ほっておくとゾンビ化やアンデッド化しそうだし」
などと介人はあれこれ考えながら呟く。
およそ500個ほどの魔石を一旦アイテムボックスに仕舞いながら一通り周囲を確認し、魔石を抜き取ったゴブリン達をプロトの火魔法で焼却して集落へ向かった。
◇
学校の校庭ほどの広さに、建物と呼ぶより大きめのテントのようなものが30軒ほど並んでいる。
近くのテントの中を覗くと、そこは武器類がたくさん並ぶ武器庫だった。品質はあまり良くないようで、刃こぼれを起こしていたり、少し曲がっていたりと痛んでいるものが多い。
そんな中でも使えそうな物がないか手当たり次第に手にとっていくと、奥の方で装飾部に時折光を帯びるナイフを発見した。
「おっ、これは使えそうだぞ。ゴブリン達は武器としてしか興味がないから放置されてたのかもしれないが、なかなか使い勝手が良さそうなナイフだ」
「プロトはどう思う?」
『マスター。こちらは無限アイテムボックスを持っていますので、ここにあるもの全部を持っていくことを推奨します。今後何かの用途があるかもしれません』
「なるほど、プロトの言う通りだな。全部持っていくとしよう!」
介人とプロトは部屋中の武器類を次々にアイテムボックスへ放り込んでいく。どうやら雑多なアイテム類も混ざって置いてあったようで、いくつか手にとるも使い道が分からず諦め、そのままアイテムボックスへ仕舞っていった。
武器庫の中の物を仕舞い終え、他のテントを見て回ったが、寝床として使っていたようで目ぼしい物はなかった。
一息ついたところで、介人は検証を始める。
「プロト、さっきのゴブリンの魔石を出してくれ」
『マスター、了解しました』
ドサッ!
アイテムボックスから魔石を取り出すと、ミニプロトの倍以上の高さの山ができる。
「よしっ、魔石を食べてくれ!」
ミニプロトは大きな口を開け、魔石をどんどん放り込んでいく。
(プロトの口に入るのとアイテムボックスに入るのとでは空間が違うのだろうか?)などと思い浮かぶ疑問を考察しながら、魔石を喰らう姿を眺める。
『マスター、魔石の吸収が完了しました』
「どうだプロト? 何か新しいスキルは増えたか?」
『否定です。ゴブリンの魔石はエネルギー純度が低いため、機能拡張には至らないようです。ただし、本機の総魔力量が上昇しました。総魔力量が増えたことで自然回復の魔力量も増加し、結果として燃費が向上します』
「やっぱりスキルは増えないかー……」
介人はガックリと肩を落とした。
「最初に倒したファイヤードラゴンが別格だったか。要するに、雑魚の魔石はただの『魔力量強化(バッテリー拡張)』で、高スペックな敵の魔石じゃないと『新機能』は獲得できないってことか。探り探り色々試していくしかないか。まあ、魔力量が増えて自然回復量が増えるのは大助かりだけどな。結果として魔力の半永久使用(永久機関)も可能になるかもしれないし」
こうして、初の異世界交流は『虐殺』と『略奪』で終わったのだった。
今後は毎週水曜日に掲載していく予定です。→ストックに余裕ができてきたので続きは明日の18時に掲載前倒します。




