第1章 10話 襲撃者達の末路
無事に10話まで掲載できました。読んでくださる方がいる事が大変ありがたいとともにとても励みになります。まだまだ色々な冒険や戦いを書いて行きたいと思いますので引き続きよろしくお願いします。
交易都市ヒルクーツクの朝。宿屋の前に立ちこめた異様な緊張感は、一瞬にして殺意へと変わった。
「――殺せ! アラハガマカの王族の生き残りだ!」
深いローブを羽織った男たちが一斉に懐から鋭い短剣や投擲毒針を取り出し、リナとギルに向かって襲いかかってくる。朝の通りを行き交う市民や旅人たちが悲鳴を上げて散り散りに逃げ惑った。
「チッ、街中で暴れるつもり……!?」
「カイト殿、下がってください!」
リナがレイピアを抜き、ギルが肉弾戦の構えをとる。だが、敵の数は十数人。狭い路地と街中の雑踏という足場の悪さもあり、そのまま戦えば一般市民への被害を避けるには限界があった。
「プロト、装着だ! 一般人に被害を出さず無力化する!」
『了解、アシストロボ形態へ移行します』
介人の呼びかけに応じ、傍らに待機していたミニロボが光の粒子へと分解される。瞬時に介人の身体を包み込み、流麗な魔導アーマーが完成した。
「なっ……なんだあの鎧は!?」
突如出現した未知の魔導鎧に刺客たちが動揺した隙を、介人は逃さなかった。
「水魔法発動……水圧コントロール、凝縮!」「マルチロックオン」
介人は右手を指鉄砲の形にして刺客たちへ向けた。プロトの解析システムが敵の動線と急所を見切り、バイザー内にリアルタイムで射撃レーダーを描画する。
「新技――『ウォーターピストル』連射!」
バシュッ! バシュバシュッ!
圧縮された空気が弾けるような鋭い破裂音が響いた。介人の指先から放たれたのは、超高圧・超高速に圧縮された極小の水流弾。プロトの精密計算によって威力が完璧に調整された高圧水流は、刺客たちの手首や膝関節、握っていた短剣の柄を正確無比に穿ち抜いた。
「ぐわあぁぁっ!?」
「て、手首が……っ!?」
狙いをピンポイントに絞った高圧水流弾によって、刺客たちの武器が次々と弾き飛ばされ、膝を撃ち抜かれた男たちが激痛の悲鳴を上げて崩れ落ちていく。
「な……何よあの魔法!? あんなに小さい水魔法なのに短剣を弾き飛ばすほどの威力があるなんて聞いたことないわよ!?」
「見事な狙撃です、カイト殿! では……ハァッ!」
介人の正確な遠距離牽制によって敵の連携が完全に瓦解。リナの目にも留まらない高速刺突と、ギルの鋭い正拳突きが炸裂し、十数人の襲撃部隊はあっという間に全員が叩きのめされ、全滅・無力化された。
◇
戦闘終了後、介人たちは気を失った刺客たちを捕縛し、頭目を人目のつかない裏路地へと引きずり込んだ。
「さて……誰の指示で動いているのか、少し喋っていただきましょうか」
ギルが穏やかで優しい笑顔のまま、刺客の頭目の前にかがみ込んだ。そして言葉と同時に、刺客の折れた指の関節へそっと手を触れる。
「【ヒール】」
「あ……がっ!?」
「一度骨を繋ぎ直し、もう一度正しい角度で圧力を加えます。回復魔法の微小な刺激は、激痛の神経伝達を極限まで活性化させますので……さあ、吐きなさい」
「ひぃぃぃっ!? や、やめろ! 喋る! 喋るから許してくれ!!」
ギルの「回復魔法を応用した軽い(恐ろしい)尋問」により、男は涙と鼻水を流しながら全てを白状した。
「ぐ、軍部のクーデター首謀者……エビロム将軍……アルバート様の命令だ! アラハガマカの亡命貴族と王族の生存者を抹殺するため、各地の港や交易都市に先遣部隊が解き放たれている……っ!」
「……やっぱり、アルの手先ね」
リナの瞳に冷酷な憤怒の火が宿る。尋問が終わると、ギルは男の首筋を打って静かに気絶させた。
「さて……カイト殿。ここからの問題はこの男たちの『処理』です」
ギルが真剣な表情で立ち上がり、介人を見つめた。
「彼らをこのまま生かして放せば、我々の居場所やカイト殿という協力者の存在情報が本国へ持ち帰られ、さらに大規模な刺客が送られます。情報を完全に遮断するためには……ここで全員の息の根を止める(抹殺する)しかありません」
「……っ」
介人は絶句した。
命を奪うという決断。日本という平和な現代社会で育った介人の倫理観と、過酷な政治闘争と命のやり取りの中で生きてきたリナたちの「世界の厳しさ」。その断絶が、介人の胸を強く締め付ける。
(リナたちが置かれている状況の重さは理解できる。ここで情報が漏れれば、本当に二人が殺される……。だけど、目の前で倒れている無力化した人間を、俺の目の前で殺させたくもない……!)
「殺さずに……情報を持ち帰らせなければいいんだな?」
「え……? カイト、何を……?」
介人は深く息を吐き出すと、倒れている刺客たちの真ん中に踏み出した。
(火魔法で熱さのコントロールができるなら、水魔法で冷たさのコントロールもできるはず。極限まで温度を低下させるイメージ、水分子の熱運動を極限まで停止させる……分子同士の距離を縮め、急速に結晶化させるイマジネーションだ……!)
地球での物理学知識を頭の中で明確に可視化し、魔法のイメージとして強く固定する。介人が両手を突き出すと、刺客たちを囲むように発現した『水魔法』の水の固まりが白く凍りつき始めた。
「ぶっつけ本番――『アイスプリズン』!」
猛烈な冷気が路地裏を吹き抜けた。
介人の強力なイメージによって変質した水の固まりは、瞬時に超低温の巨大な氷塊へと姿を変え、倒れていた刺客たち全員を頭部まで丸ごと閉じ込めた。氷の中で刺客たちのバイタルは一瞬で極限まで低下し、脳や細胞を傷つけない「仮死状態」へと移行する。
「な……っ!? 水魔法から一瞬で全員を氷漬けに……!? でもカイト、これじゃ凍死するんじゃない?」
「大丈夫だ。瞬間的な氷化により脳や細胞を傷つけない『仮死状態』になっている。……そして、仕上げだ」
介人が空間を向いて手を払うと、プロトの空間歪曲機能が発動し、氷漬けになった刺客たちの巨大な氷塊が、すうっと空気の中に吸い込まれるように消え去った。
「「……はい!?」」
リナとギルがハモるように叫び、目の前で起きた現象に目を見開いた。
「プロトの『亜空間ストレージ(アイテムボックス)』だ。この内部は時間経過が完全に停止する。本来、生きている生物は入れられないが、モンスターの死体などは入る。仮死状態の人間が入ったこの状態なら、認識的には『ただの氷塊』と同じ扱いだ。解凍しない限り、彼らの意識が戻ることもないし、外部へ通信や情報を発信することも不可能だよ」
介人はフッと息を吐き、魔導鎧のバイザーを上げて二人に苦笑いを向けた。
「これなら誰も死なないし、情報も絶対に漏れない。……俺なりの『処理』だ。文句はあるか?」
「文句なんて……あるわけないじゃない……っ! 一瞬で氷漬けにして空間の中に放り込むなんて……そんなの聞いたこともないわよ!!」
「まったくです……カイト殿の発想と魔導技術には、毎回度羽を抜かれますな……」
呆然と立ち尽くす二人に、介人は改めて頼もしい笑みを浮かべた。
「二人とも、これで心置きなく出発できるだろ?……それに、俺も考えが変わった。こんな刺客がウロウロしてるなら、二人だけで旅立たせるわけにはいかない」
「カイト……それって……」
「俺も一緒に行くよ。Fランクの新人冒険者だが……この『魔導アーマー』のようなプロトがいれば、二人の役に立てるはずだ。水くさいんだよ、同じ釜の飯を食った仲じゃないか。ここまで巻き込まれて知らんぷりできるわけないだろ」
「それにあれだ、ここでこのまま俺と別れたらさっきの奴らを解放しちゃうかもしれないぜー」
――とうそぶく介人。
予想外の提案に、リナの瞳がパッと輝き、ギルも深々と満足そうに頷いた。二人も短い旅の中であったが、介人のその人柄に惹かれていた。こうして、二人の旅立ちで見納めになるはずだった三人の旅は、新たな目的と強い絆を胸に、次なるステージへと動き出すのだった――!
読んでいただきありがとうございます。テンポよく読んでもらいたい部分なので続きは明日11/5(木)に上げる予定です。ストックに余裕が出たら連日掲載などの前倒しも随時行いますのでよろしくお願いします。




