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安心の器  作者: 古都麿
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第二部 第13話 卒業式

「いってきまーす」

不思議なほど、いつも通りの声。

「いってらっしゃい」

「後で行くからね」

新凪が身支度を整えながら答える。

新凪が身支度を整えている間、真人は赤ちゃん、向葵と名付けられた娘をあやしている。


「お待たせしました」

新凪が準備を終えた。

ベージュの明るいタイトフレアワンピースが似合っている。

「綺麗だ」

「真人さんも素敵ですよ」

真人は紺色のスーツを纏っている。

向葵は真人の胸に顔をくっつけてはいるが、目は覚ましている。

「それじゃ、行きましょうか」

二人揃って、学校への道を歩く。

「あっという間でした」

新凪が歩きながらボソリという

「入学式がついこの前だったと思ってたのに」

真人は黙って聞いていた。

そう、入学式の時は、自分はこの人の隣にはいなかった。

「あっ、ごめんなさい」

新凪が気づいて謝る。

「いえ、6年間お疲れ様でした」

真人が結子と出会って2年半。

2年半でも、十分にいろんなことがあった。

他人として出会って、家族になった。

そんなことを考えているうちに学校に着いた。


講堂に案内され、保護者席に座る。

明るいベージュのタイトフレアワンピースを纏った新凪は一際目立つ。

「抱っこ、代わりましょうか?」

新凪がいうが。

「いや、いいよ。大丈夫」

笑顔で答えた。

「ふぇ……ふぇ……」

講堂の空気を敏感に感じ取ったのか向葵がぐずり出した。

真人が立ち上がってあやす。

平日の卒業式のため、両親揃って参列の家は少ない。

そのせいで真人もお母さん達から注目を集めていたが。

立って向葵をあやしているので完全に視線が集中した。

「すいません」

周りの保護者に頭を下げながら。

「ちょっと、外に出てきます」

新凪に声をかけて外へ出ようとするが。

「大丈夫ですよ」

後ろに座っていたお母さんがそう言ってくれた。

しばらくあやしていたら慣れてきたのか、向葵もおとなしくなった。

真人は再び保護者席に腰を下ろした。

「ありがとうございます」

新凪がお礼を言って、真人のスーツの胸元を拭く。

真人のスーツはデロデロになっている。

向葵は最近、涎の量が多くなってきた。

多分、乳歯が生える前兆だろう。

「せっかくキメてきたのに、台無しですね」

新凪はそう言って笑った。


卒業式が始まり、卒業生が入場した。

「結子、どこかな」

真人が言うと。

「ほら、あそこですよ」

新凪が指差した先を見ると。

結子が緊張した表情で前をまっすぐ見ている。

式辞、校歌斉唱のあと。

いよいよ卒業証書授与。

順番に名前を呼ばれた生徒が壇上に上がり卒業証書を受け取る。

結子も卒業証書を授与され、その表情は未来を見ている顔に見えた。

「うぇ、うぇ…」

新凪が隣を見ると真人が泣いていた

「もう、あなたったら」

そう言いながらも新凪の目にも涙が浮かんでいた。

来賓の祝辞が続いた後、在校生代表の送辞。

そして。

「答辞、卒業生代表、早川結子」

結子の名前が読み上げられる。

緊張した顔の結子が壇上にに上がり、答辞を読み上げる。

「うそぉ、こんなの聞いてないよ」

真人は完全に終わっていた。

新凪も驚いている。

「どうして黙ってたのかしら」

結子の答辞が終わった後。

卒業の言葉を卒業生全員で読み上げ。

卒業生が退場して卒業式は終わった。


教室に移動した新凪と真人と向葵。

担任の先生からの最後の説明が終わって、解散となった。

「パパ、ママ!」

結子が駆け寄ってくる。

「パパ、泣いてた?」

「泣いてましたね」

新凪が答える。

「泣いてないよ」

真人が強がるが。

「ウソ、涙の跡がついてるよ」

そう言って、結子がニヤリとした。


「ちょっと、挨拶していこう」

真人が担任にお礼を述べて、美穂の母親にも挨拶した。

「中学に行っても仲良くしていただけると嬉しいです」

お互い、そう挨拶をして。

帰路についた。


「そういえば、結子は全然泣いてなかったね」

新凪が言うと。

「だって、中学に行ったらまたみんな会えるじゃん」

「なんだかえらくドライだな」

真人はそう言って。

「そういえば、どうして答辞を読むって、黙ってたんだ?」

真人が尋ねると。

「サプライズってやつ?」

「パパ、これで絶対涙腺崩壊すると思って」

「見事に決壊してましたね」

新凪が笑う。

「もうやめて」

真人は降参という顔で苦笑した。


帰宅して。

「これで、この制服ともお別れだね」

制服を脱いだ結子がしんみりという。

「次は中学の制服ですね」

新凪も感慨深げにいう。

4人はソファーに座って、しばらく静かな時間を過ごした。


「そろそろ、お昼ご飯に行こうか」

真人の言葉に結子が目を輝かせる。

「バランカバランカ!」

「結子はハンバーグが好きだな」

真人が言うと。

「違うよ、一番好きなのはパパの唐揚げ!」

「外にパパの唐揚げより美味しいのないから、二番目のハンバーグなんだよ」

真人は一瞬言葉を失う。

新凪はそれを聞いて微笑んでいる。

真人は。

結子のその言葉に、涙腺は再び決壊した。


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