第二部 第14話 家族
卒業式も無事に済んで、春休みで家でゴロゴロする結子。
「去年言ってたあれ、今年もやろうか」
見かねた真人が提案する。
「えっ、何?」
「家族写真」
「撮る!」
「今年は向葵も増えたし」
「結子の中学入学だから、その記念に」
「いつ?」
「写真館に電話してみよう」
予約は三日後に取れた。
「今年はどんなドレスかな?」
「結子は中学の制服だよ」
「えぇ〜」
「だって、入学記念だし」
「中学の制服なんて、これからいつでも撮れるじゃん」
「でも、それこそドレスならいつでも取れますよ」
新凪も諭すように言う。
「そうそう、入学記念の制服姿は今だけだからね」
「服だけじゃなくて、思い出も時間も一緒に撮るんだよ」
真人の説明に。
「そっか、時間もか」
結子は妙に納得したようだった。
撮影当日。
新凪と向葵は更衣室へ。
結子は家から制服を着てきたので、スタッフに髪を整えてもらっている。
「お父さんもこちらへ」
真人も更衣室に案内された。
真人が着たのはライトグレーのスーツにダークグレーのシャツとアイボリーのネクタイ。
「パパ、むっちゃかっこいい!」
結子に褒められて真人が照れる。
そこに、着替えを済ませた新凪と向葵。
新凪はローズピンクのドレス。
向葵は同じ色のベビードレスを着せてもらって大人しくしている。
「あー!ママずるい」
「私もやっぱりドレスがいい!」
結子が不貞腐れる。
「新凪はね」
真人が言う。
「向葵を産んでくれて、新しい家族の記念だから」
「結子は、中学入学で新しい未来へ進んでいくでしょ」
「その制服は結子の未来の象徴なんだよ」
「なんか、うまく言いくるめられてる気がする」
結子はそう言いながらも納得したようだった。
真人と向葵を抱いた新凪の間に結子。
結子が半歩前に立つ。
「未来か……」
どんな未来だろう。
結子はカメラではなく、まだ見ぬ未来を見つめるような表情。
新凪は幸せの中にいる。
真人は結子を見た後、カメラに視線を向ける。
真人の目も、結子の未来を見ているようだった。
「それでは、撮りまーす!」
カシャ!
シャッター音と共にストロボが光る。
「ふぇ、ふぇ……」
ストロボに驚いた向葵が泣き始めた。
慌てる真人。
あやす新凪。
向葵の手を取る結子。
結局、その日はファーストショットだけで終わったと落ち込んでいた3人だったが。
「いい写真撮れましたよ」
着替えを終えて待合室に戻ってきた結子たちにカメラマンが言った。
モニターに写しだされたのは、泣いている向葵を囲む家族の写真だった。
「ここだ!と思いましたよ」
カメラマンが笑う。
ポーズをとってすましている写真ではなく家族のありのままが写っている。
真人は目をうるうるさせながら、今年も2枚とも額装を注文していた。
帰り道。
「私の入学記念だと思ってたのに、向葵に全部持ってかれちゃったよ」
結子が冗談めかして言う。
「入学式にはカメラ持って行って撮ってあげるよ」
「プロみたいにはうまく撮れないけど」
真人が言うと。
「あなた、カメラ持ってましたっけ?」
新凪が見たことないと言うふうに尋ねた。
「買わなきゃなぁ」
「そこから?」
三人の笑い声はいつも通り。
その笑いに包まれて、向葵も新凪の笑顔の向こうにある青空に手を伸ばしていた。
第二部完




