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安心の器  作者: 古都麿
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第二部 第7話 初めてのご招待

午後。

まだ日は高いけど、小学校が終わるのはこんな時間。

「ただいま!」

とろりとした時間を切り裂くのはやはり結子の声だった。

でも、いつもと違うのは。

「お邪魔します」

結子の後ろから声がした。

結子について入ってきたのは、同じクラスの美穂だ。

「いらっしゃい」

新凪はソファから立ち上がろうとしたが。

「ママ、そのままでいいから」

最近、新凪のお腹はかなり目立つようになってきた。

「ママ、お茶もらうね」

そう言って結子は三人分のお茶を淹れた。

「結子のお母さん、大変な時期にお邪魔してしまって……」

美穂が気を遣う。

「いいのよ、こちらこそ大しておもてなしできないけど、ゆっくりしていってね」


「いらっしゃい」

挨拶が済んだところで真人が仕事部屋から出てきた」

「こんにちは、お邪魔してます」

美穂はちょこんと頭を下げた。

「休憩ですか」

新凪が尋ねるも。

「気になって我慢できずに出てきちゃったんだよね?」

結子にいじられる。

「いや、そんなこと……」

口籠った後。

「結子がいつもお世話になってるから挨拶しないと」

取り繕ったようなセリフに一同笑いが込み上げていた。


「ふーん」

「美穂、どうしたの?」

「ううん、なんでもない」

「何よ、気になるじゃない」

「言ってもいいのかな?」

「結子が本恋した真人さんがどんな人か気になってたんです」


「っ!?」

「やめてよみほぉ〜」

「だって、結子が聞いたんでしょ」

「昔の私を召喚するのはやめて〜」

そんなやりとりの後ろで真人が固まってる。

新凪がハラハラしてる。

結子は真っ赤になって泣きそうな顔で美穂にポコポコ両手拳を打ち付けてる。

美穂は拳を受けながら。

「ごめんごめん」

と笑ってる。

二人は結子、美穂と呼び合う仲なんだ。

真人は二人を見て吹き出した。


「ねえ美穂、今日晩御飯食べてかない?」

「えっ!?」

「パパ、いいでしょ?パパの唐揚げ」

「いいけど、美穂ちゃんは大丈夫?」

「大丈夫ですけど、いいんですか?」

「ええ、ぜひ」

新凪はニッコリ笑って言った。

「じゃあ、美穂ちゃんのお家に電話しとかないとね」


ジュー

プチプチ

油の泡が弾ける音。

キッチンに唐揚げを揚げる香りが広がる。

真人は唐揚げと会話している。

最初、大きくて荒い泡の音が、次第に小さく軽い音に変わる。

箸で持ち上げて、肉の大きさと重さのバランスで揚がり具合を見極める。

油から引き上げる瞬間、一瞬手を止めることで油切れがよくなる。

これが真人のこだわりだ。


食卓には山積みの唐揚げとサラダ。ご飯とスープ。

「いただきます」

美穂が唐揚げを一口食べる。

「!!」

「美味しい」

「お店みたい」

「ははは」

なぜかここにいる三人の反応が全く同じだったことを思い出して、つい笑ってしまった。

「ママも同じレシピで作るけど、パパの方が美味しいんだ」

結子は得意気に言う。

「結子にとって、真人さんの唐揚げは特別だから」

新凪が目を細めて言った。

「特別?」

美穂が不思議そうに尋ねる。

新凪は真人と結子の出会いの話をした。

「なるほど、そりゃ惚れるわ」

「もうやめて〜」

結子が照れる。

笑いが起こる。


「ごちそうさまでした」

食事が終わって落ち着いて。

「いいな」

美穂がつぶやく。

「ん?」

「真人さんみたいなお父さんなら、いつも家にいてほしいな」

真人も新凪もどう言葉にしていいかわからない。

特に真人は。

ちゃんと結子のお父さんになれてるだろうか、と思う。


少しの沈黙の後。

「送っていきまよ」

時計の針は8時半を過ぎていた。


帰り道。

「美穂ちゃん、今日は来てくれてありがとう」

真人は美穂に礼を言った。

「結子は学校でどんな感じ?」

真人は一番聞きたかったことを思い切って聞いた。

「明るくて、元気で、モテてますよ」

「えっ!?モテてるの?」

「はい、人気者です」

真人はほっとした。

「私、4年生から結子と同じクラスなんですけど」

美穂はポツリポツリと話し始めた。

「最初はそんなに仲良かったわけじゃないんです」

「おとなしくて、どちらかというと陰キャみたいな」

「でも、3学期ぐらいからかな、なんか変わったなって思ったの」

「3学期の席替えで隣の席になって話すようになって」

「これ、言っちゃっていいのかな……」

「事あるごとに真人さんの名前が出るようになって」

「今日会って、結子の新しいお父さんが真人さんで良かったなって」

「生意気言ってすいません」

美穂がちょこんと頭を下げる。

「いや、いいんだよ」

「話してくれてありがとう」


美穂の家に着いた。

ピンポーン

「はい」

玄関が開いて。

「ただいま」

「おかえり」

「遅くなってしまって申し訳ありません」

「結子の父です」

美穂の母親は参観日で見たことがある。

「いえ、こちらこそ夕飯までご馳走になってありがとうございます」

いかにもお母さんという感じ。

「わざわざ送っていただいてありがとうございました」

「遅くなってもご迷惑なのでこれで失礼します」

まだ、人と話すのは苦手かもしれない。

早々に切り上げて帰路についた。


美穂ちゃん、いい子だったなぁ。

結子とずっと友達でいてくれたらいいなぁ。

急ぎ足の真人を少し靄のかかった月が見下ろしていた。


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