第一部 第13話 結ばれた喜び
ある夜。
ベッドに入るとき。
「真人さん」
新凪がそこで言い淀んだ
真人は次の言葉を待っている
「私、ちゃんとお母さんになりたいです」
真人はきょとんとする。
「新凪さんは十分いいお母さんだと思いますよ」
「結子ちゃんも新凪さんのこと大好きだし」
「そうじゃなくて……」
新凪は意を決して告げた言葉が届かなくてちょっと落ち込む。
「ん?」
「もういいです」
拗ねてしまった。
「え、なんで!?」
真人焦る。
「そう言う意味じゃなくて……」
新凪はモジモジしている。
「ええと……?」
真人はまだわからない。
「だからっ!」
新凪は顔を真っ赤に染めながら小さく叫んだ。
「真人さんの子供のお母さんになりたいの!」
どうやら真人の意識は遠いところに飛んでいってしまったらしい。
変な顔をしたまま固まっている。
「……っ、ふふっ」
「なんですか、その顔……!」
「いや、えっと……」
「嬉しくて……」
「でも、気づけなくて……」
「新凪さんにここまで言わせちゃったのが情けなくて」
「ごめんなさい」
いろんな感情が混ざった顔だった。
新凪、笑いながら泣きそう。
「もう、真人さんってば……」
「なんかごめん」
「ふふっ」
「年齢的にもそんなに時間ないから」
ちょっと困ったように言った。
「無理してませんか?」
真人が心配して聞いた。
「真人さんの赤ちゃんが欲しいのは本当ですよ」
新凪が真人の耳元で囁くように言った。
そして。
「新凪さん……新凪さん……」
真人は新凪のうなじに顔を埋めて、何度も繰り返し名前を呼び続けている。
「真人さん…」
新凪も真人の体重を感じながら呼び返す。
名前を呼ぶことでお互いの存在を確認するように。
そして。
「新凪さん!」
真人の全身が震える。
「真人さん!」
新凪は真人にしがみ付く。
そして、少し落ち着いて。
「ありがとう」
真人は全てを受け止めてくれた新凪に甘い声で感謝を伝えた。
「私も嬉しい」
新凪は真人を受け止めた悦びを噛み締めていた。
優しいキスを交わして。
「新凪……」
真人は初めて、新凪を「さん」を外して呼んだ。
微笑む新凪。
そして。
「あなた……」
甘々な声で真人に応えた。
真人は真っ赤になって、再び新凪のうなじに顔を埋めてしまった。
新凪は真人の背中を撫でている。
その表情は慈愛に満ちていた。
翌日の朝
新凪と真人は昨夜の余韻を纏ったままソファに寄り添って座っている。
真人が新凪の肩を抱き寄せ、新凪は真人の胸にもたれかかって。
体の境界がもどかしいように。
「おはよ」
結子が起きてきて。
「おはよう」
二人揃っておはようを口にしたが、動く気配はない。
「……えっと、夜じゃないよ?」
「ええ、おはよう、ですよ」
真人は新凪を離そうとしない。
「……あなたったら、もう」
新凪も甘い声を出す
「新凪」
真人は確かめるように新凪を呼ぶ。
「こりゃダメだ」
結子は牛乳だけ飲んで。
諦めて学校に向かった。
二人の呼び方が変わっていることに少しの寂しさを感じながら。




