第一部 第11話 指輪
ある日のキッチン。
「新凪さん」
「はい」
「今度の休日、買い物に付き合ってもらえませんか」
「いいですけど、何を買いに?」
「秘密です」
休日。
「どこへ買い物に行くんですか?」
「着いてのお楽しみです。」
(その口ぶりだと、自分にも関係あるものかしら)
結子もニヤニヤしながらついてきた。
「ここです」
真人が案内したのはアクセサリーショップだった。
「結婚指輪?」
結子が目を輝かせている。
「婚約指輪と結婚指輪です」
真人はサラッと言った。
そして。
「そろそろ時間かな」
そう呟いて真人は店に入って行った。
「新凪さん、どれがいいですか?」
「真人さんが選んでください」
新凪は頬を赤らめている。
「最初は、自分で選んで渡そうと思ったんです」
真人は照れながら。
「でも、サイズがわからないし」
ちょっと困った顔。
「それに、新凪さんが身につけるものだから、気に入ったのを選んでもらったほうがいいかなって」
新凪の表情にはまだ遠慮が張り付いていた。
ほんの少しの沈黙の後。
「こういうの、センスなくてごめん」
新凪は首を振った。
「一生物だから、値段は気にしないで」
そう言われても値段は気になる。
ところが、指輪コーナーの値札は裏返されていた。
入店の時、真人は時間を気にしていた。
ということは。
「真人さん、前にも来たことがあるんですか?」
最近の新凪は勘が鋭い。
でも、せっかくの真人の気遣いに甘えることにした。
新凪が選んだのは小さな石をあしらった、シンプルなデザインのものだった。
「本当にこれでいいんですか?」
新凪は微笑む
「これなら、いつも身につけていられるから」
「それなら、結婚指輪でも……」
真人は言いかけたが。
「私、欲張りだから両方身につけていたいんです」
新凪は柔らかく微笑んだ。
「いーなー、私も欲しい」
後ろで見ていた結子が言った。
「彼氏ができたら買ってもらいなよ」
真人も軽口で応酬する。
「けちー」
結子が頬を膨らませる。
「真人さん、指輪だけはダメですよ」
後ろで見ていた新凪が腰に手を当てて頬を膨らませて言う。
「指輪は私だけですからね」
【結子の観察日記】
ママは、買ってもらった指輪を薬指にはめて嬉しそうに眺めてる。
羨ましい。
それにしても、指輪だけはダメって、ママがあんなふうにいうとは思わなかった。
ママって、意外と嫉妬深いのかもしれない。




