第一部 第10話 災害級の剣幕
別の日。
「真人さぁん」
この日も新凪は。
「真人さん成分を充電させて」
そう言って、背中に擦り寄った。
「ん」
画面にポップアップが出る。
その瞬間。
真人の纏う空気が明らかに変わった。
「ちょっ、仕事中!」
真人がピリピリしている。
その言葉に拒絶の色が混ざっている気がした。
「……ごめんなさい」
真人がちょっと怖かった。
新凪は仕事部屋を出て寝室に戻った。
そして。
(真人さんの邪魔しちゃった)
涙が溢れた。
(お仕事中に邪魔したら怒るよね)
新凪は膝を抱えて泣き出してしまった。
(今日の真人さん、怖かった)
不安が大きくなる。
(嫌われちゃったかも)
思考が悪い方へ向かう癖が再発してしまった。
心の中でネガティブがぐるぐる回って抜け出せなくなって。
「ただいまー!」
結子が帰ってきた。
リビングに誰もいないのを見て。
「こっちかな?」
寝室を覗いた時、新凪が布団の上で膝を抱えて泣いていた。
「ママ、どうしたの?」
結子がただならぬものを感じて聞いた。
「なんでもないの」
新凪が力無く答える。
その声に、以前のような少し怯えた色が混ざっていた。
「なんでもないことないでしょ」
怒りが湧き上がってきた。
「お兄ちゃんだね?」
バーン。
結子は勢いよく仕事部屋のドアを開けた。
「お兄ちゃん、ママに何したのよ!?」
結子の剣幕に。
「えっ?」
真人は気圧される。
仕事でテンパっていたことも頭から吹っ飛ぶ。
「ママ、隣で泣いてんだよ!」
「何をしたのよぉ!」
「ママが出て行ったらどうすんのよ!」
結子の目にも涙が浮かんでいる。
「えっ?新凪さんが?」
新凪が優子を追ってくる。
「結子、違うの、真人さんは悪くないの」
「私が仕事忙しいのに邪魔しちゃったから」
真人は震え出していた。
顔色が見る間に失われていく。
結子の怒りは収まらない。
「ママに謝って」
地の底から聞こえてくるような声だった。
「ごめん!」
真人の土下座は、人間の早さの限界じゃないかというほど早かった。
「仕事でテンパってて、何も見えてなかった」
「言い訳にしかならないけど、ほんとにごめん」
新凪も真人の前に座って。
「私も、仕事の時は避けるべきでした、ごめんなさい」
そう言って、新凪は真人を抱きしめた。
真人も新凪を抱きしめて泣いていた。
結子の鼻息はまだ収まらなかった。
【結子の観察日記】
お兄ちゃんは剣幕に弱いみたい。
というか、たぶん強い感情をぶつけられるのが苦手なんだと思う。
もともと強い方でもなさそうだし。
ちょっとかわいいそうだったかも。
でもママを泣かせたんだから、あれくらいはいいよね。
これから、お願い事をするときは強くでようと思った。




