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夏の終わりに神隠し  作者: 裏道昇


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第4話 神隠しの話

「続きは? また神隠しが起こったんでしょ?」

「分かった分かった、今から話すよ」


 双葉がいなくなったことを確認すると、紅葉は俺の腕を引いて続きを訊いてきた。軽い気持ちで話したらこんなことになってしまった。


「本当にあと少しだぞ。双葉に怒られるからな……」

「あはは、でもそんなに長くないでしょ?」


 紅葉が俺の言い草を笑う。

 俺は笑い返してやった。


「いや、かなり長いな」

「えー、最後まで聞きたいのに……」

「次は中学校に上がった時か。アキを探しても見つからなくて諦めた頃だな」

「一年後ってこと?」

「そうそう、神隠しは毎年起こったからね」

「毎年!?」


 紅葉が目を見開いた。神隠しに遭うことでさえ普通に考えたら有り得ない。

 毎年遭っていたとなれば驚きもする。紅葉の目がまん丸になるのも当然だろう。


「そうだよ? 神隠しは必ず夏の終わりに起こったんだ」




 神隠しに遭ってから俺は暇を見つけて神社に顔を出すようになった。そして一年が経った八月三十一日も同じように軽い気持ちで神社にやってきた。


 そこで急に霧と風に襲われて――目を開けたらアキがいた。


「は?」

「……いらっしゃい」

「アキ!?」

「また会ったねー、シュウ」


 驚く俺を気にした風もなく、アキはひらひらと手を振った。その様子に緊張感などは見当たらず、同級生に朝の挨拶をしてるように見えるくらいだった。


「お前なぁ! 久しぶりに会ったっていうのに軽すぎだろ!?」

「え? そんなに久しぶりかな?」

「一年だぞ? もう中学生になっちまったよ」

「……ふむ」


 アキは顎に手を当てて俺の様子を眺めている。俺の何が気になるのか、上から下まで眺めながら「なるほど?」なんて呟いた。


「その割にはまだ小さいね」

「うるさいなっ! 俺はこれから本気を出すんだ」

「あっはっは、みんなそう言うんだよ?」

「……お前、どこにいたんだよ。村を探しても見つからないし」

「…………」


 気になったことを聞いてみたが、アキはまだ何かを気にしているように見えた。

 あまり考え込む性格には見えなかったので少し意外に思う。


「? どうした?」

「……いや、何でもない。私もシュウを探したんだけどねー」

「本当かよ、それで会えないってどうなってんだ」


 アキと再会することは出来たが、この時のアキは上の空だったように思う。

 同じように雑談をしただけで、日が暮れると帰って来られた。




「……当然のように神隠しに遭うんだもんなぁ」

「慣れって怖いよね」


 さらに翌年の八月三十一日。これだけ繰り返せば流石に分かる。

 八月三十一日に神社へ来ると神隠しに遭うということなのだろう。


「やっぱりアキもいるしさ」

「それはお互い様でしょうよ」

「そう言えばアキはどうしてこの神社に来たんだ? ここには何もないぞ?」

「私? 私は単純にお参りに来たのよ」

「お参り? わざわざこの神社に?」


 偶然で石段を登ってくるとは考えにくい。アキがこの神社を選んだことになる。

 言っちゃ何だが、他にも神社はあるだろう。わざわざお参りでここに来るか?


「……親戚から神社のことを聞いたのよ。それでお参りに来たってだけ」

「そっか、村に親戚がいるんだもんな」

「シュウこそ何の用で神社まで来てるのよ」

「俺は……猫にごはんをやろうとしてだな」


 どうにも歯切れが悪くなってしまう。俺のイメージと合っていない気がしていた。いや、神社に足繁く通うイメージでもないとは思うんだけど。


「あはは、そうだった! 猫の召使いで来たんだったね」

「うるさいな! 今はやってないよ」

「え? もうごはんも持ってきてないの?」

「そうだよ、しばらくあの猫は見てないんだ」


 するとアキは腹を抱えて笑い出した。

 一通り笑った後に俺を示す。


「クビになってんじゃん!」

 痛いところを突かれて俺は目を逸らした。




「それで? 次の年はどうだったの?」

「今日はここまでだ。これ以上話したら双葉に怒られる」

「えー、全然途中じゃん。これじゃ寝られないよ」


 紅葉が分かりやすく膨れていた。

 まぁ無理もない。肝心の約束まで進んでないからな。

 

「ねぇ、もう少し話してよ。お母さんには黙ってるからさー」

「でも明後日からは学校だろ?」

「明日は休みなんだから大丈夫だよ」

「ほんとかぁ?」

「絶対大丈夫だから!」


 甘いと思いながらも揺らいでしまう。正直に言えば、俺自身も少しだけ興が乗ってしまっていた。それにあと少しくらいなら話しても許される気はする。


「……仕方ないな。こっそり話すか」


 そう笑って俺は居間の明かりを消しに行った。

 もし双葉が下りてきても、暗ければ隠れてやり過ごせる可能性がある。


「よし、静かにしてろよ」


 紅葉が何度も頷く。テーブルに載せたスマホの明かりが照らす薄明りの中、紅葉の頭に一度触れると俺は小声で続きを話し始めた。


読んで頂きありがとうございます!

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