第6話 フォロワーは増えた。でも、売るものは増えません
第5話では、「note以外で、それほど難しくなく稼げる方法はある?」という問いから、初めてデジタル商品を一つ完成させ、販売ページへ並べました。
商品を置かなければ、売れる可能性も生まれない。
そう考えた俺は、次の商品も作ろうとします。
一方で、noteのフォロワーや動画の再生数は増え始めました。
数字だけを見れば順調です。
しかし、売上は四百円のまま。
さらに、新しい商品作りは完成直前の修正から抜け出せなくなります。
増えている数字と、増えない売上。
作れそうに見える商品と、完成しない現実。
第6話は、「作れば売れる」という思い込みが崩れた一日の話です。
朝、noteの画面を開く。
全体ビュー、四百七十五。
スキ、百三十一。
コメント、ゼロ。
フォロワー、六十二人。
売上、四百円。
「また増えてるな」
前日のフォロワーは四十人だった。
一日で二十二人増えたことになる。
このアカウントは、閲覧数とフォロワーを増やし、本当に収益化できるのか試すために新しく作った。
始めてから、まだ八日。
その間に六十二人がフォローしてくれた。
数字だけなら、悪くない。
少なくとも、誰にも見つからないまま終わってはいない。
日々の記録。
AIの使い方。
ラノベ。
音楽。
内容は一見ばらばらだったが、中心には同じ男がいる。
五十代。
無職。
貯金は減っている。
AIと話しながら何かを作り、それが収入になるのか試している。
俺は、四百円と表示された売上欄を見た。
「こっちは、まったく増えないけどな」
フォロワーが増えた。
スキも増えた。
動画も見られている。
それでも売上は増えていない。
読まれること。
フォローされること。
商品を買ってもらうこと。
全部、別の数字だった。
動画の方では、さらに極端なことが起きていた。
エレベーターを題材にした短い動画が、三万回を超えた。
別の一本は、四万回を超えた。
ほかの動画は、数十回や数百回のものも多い。
同じチャンネル。
同じようにAIで作った動画。
それでも、結果は大きく違った。
「エレベーターが人気なのか?」
そう思って確認してみると、検索から見られた割合は一部にすぎなかった。
大半の人は、エレベーターについて調べていたわけではない。
たまたま表示された短い動画を見て、扉が閉まるのか、誰かが間に合うのか、何が起きるのかを最後まで見たらしい。
題材よりも、状況が分かりやすかった。
最初の一秒で、何が起きそうか伝わった。
短いから、繰り返し見られた。
そういうことなのだと思う。
「四万回見られて、収益はゼロか」
俺は笑った。
四万という数字は大きい。
だが、収益化の条件を満たしていなければ、一円にもならない。
noteではフォロワーが増えている。
動画では再生数が増えている。
それでも、実際に増えた売上はゼロ。
数字が伸びることと、生活が楽になることの間には、かなり深い溝がある。
その溝を埋めるには、売るものが必要だ。
前日、俺は初めてデジタル商品を一つ公開した。
ならば、二つ目を作ればいい。
三つ目も作ればいい。
商品数が増えれば、どれかが売れるかもしれない。
その考えは、単純で分かりやすかった。
俺はAIへ相談し、新しいデジタル商品の案を出してもらった。
文章だけではなく、物語や画像を組み合わせた作品。
購入した人が、読むだけでなく、自分でも少し手を加えられる形式。
教育的な要素も入れられる。
子どもにも大人にも届くかもしれない。
「これは、商品になるんじゃないか?」
最初の試作品は、悪くなかった。
やさしい雰囲気の背景。
同じ物語に登場する少女と猫。
短い文章。
読んだ人が参加できる仕掛け。
数ページ作った段階では、完成形が見えた気がした。
ページを増やし、全体の構成を考える。
場面を変える。
登場人物の動きを変える。
伝える言葉を考える。
作品らしい形が少しずつできていった。
ただし、ページ数が増えるほど、問題も増えた。
少女の髪型が変わる。
猫の体格が変わる。
直してほしい場所ではなく、背景まで変わる。
日本語の文字が崩れる。
前のページではできた表現が、次のページでは再現できない。
「人物だけ直して。ほかは変えないで」
そう頼む。
人物は直る。
その代わり、背景の色が変わる。
「背景はそのままで」
背景は戻る。
今度は、猫の模様が変わる。
「猫の形は前と同じで」
猫は似る。
しかし、文章の一部が別の文字になる。
一つを直す。
一つが壊れる。
また直す。
今度は別の場所が変わる。
作業は完成へ近づいているようで、同じ場所を回り続けていた。
残りは、あと二枚だった。
あと二枚。
その言葉が、何時間も変わらなかった。
「また違う」
画像を閉じる。
指示を変える。
生成する。
確認する。
「そこじゃない」
また閉じる。
また作る。
気づけば、日付が変わっていた。
さらに朝になった。
使った時間は、二十四時間を超えていた。
それでも完成していない。
俺は、途中まで並んだ画像を眺めた。
ここまで作った。
あと少しだ。
ここで止めたら、これまでの時間が無駄になる。
そう思った。
だが、同時に別の疑問も浮かんだ。
「完成したとして、売れるのか?」
答えは分からない。
需要を確かめたわけではない。
欲しいと言われたわけでもない。
販売ページへの入口もない。
まだ誰にも知られていない商品を、誰にも知られていない場所へ並べるだけになるかもしれない。
俺はAIへ聞いた。
『ここまで二十四時間以上使ったけど、続けるべきだと思う?』
返ってきた答えは、完成を励ますものではなかった。
『すでに使った時間だけを理由に続けると、さらに時間を失う可能性があります』
「分かってる」
分かっているから、聞いた。
ここまで使った時間は戻らない。
だが、これから使う時間は止められる。
俺は制作中のファイルを閉じた。
「終わり」
完成ではない。
中止だった。
商品は増えなかった。
増えたのは、作りかけのデータと、疲労と、失敗の記録だった。
少し眠ったあと、noteからメールが届いていることに気づいた。
同じような内容の通知が何通も並んでいる。
どうやら、質問を受け付けるための新しい機能が追加されたらしい。
多くの人が一斉に質問を募集し始めたのだろう。
「これは、やらなくていいな」
俺はすぐに思った。
読者と交流する。
質問に答える。
悩みを聞く。
それが信頼や収益につながることもあるのかもしれない。
だが、俺には向いていない。
昔、相談掲示板で無料回答をしていたことがある。
質問の多くは、検索すればすぐに見つかる内容だった。
説明書に書かれている。
同じ質問が少し上にある。
それでも読まずに、
『初心者なので教えてください』
と書き込む。
初心者だから分からないのではない。
読む前に、誰かへ処理を投げている。
現在なら、AIに一言聞けばいい。
何を調べればいいか分からなければ、
『何から調べればいい?』
と聞けばいい。
それすらせず、最初から人間へ答えだけを求める。
俺は、それに付き合いたくなかった。
個別相談を始めれば、時間を取られる。
一度答えれば、追加質問が来る。
無料で答えても、商品を買ってもらえるとは限らない。
むしろ、無料で答えてくれる人として認識されるだけかもしれない。
「俺が売っているのは、俺に質問する方法じゃないからな」
有料記事で伝えたのは、AIとの対話の始め方だった。
完璧な指示文を作る必要はない。
何が分からないのかを、そのまま話す。
提案に違和感があれば伝える。
自分の経験や結果を返す。
対話を続ける。
そうすれば、AIの中に本人の情報や判断基準が蓄積される。
十分に文脈ができれば、
『記事にして』
『ラノベにして』
『説明文を作って』
という短い言葉だけでも、コンテンツは作れる。
俺は本来使っているnoteやGitHubでも、その方法を続けてきた。
考えを話す。
AIの案を直す。
技術文書へ変える。
関連する構想へつなげる。
それを繰り返し、GitHubには百三十を超えるリポジトリができていた。
一つの魔法のプロンプトで作ったわけではない。
対話の積み重ねだった。
だから、対話の方法を一度説明すれば、基本はそれで完結している。
記事を書く方法。
企画を考える方法。
画像を作る方法。
動画へ展開する方法。
細かな違いはあっても、根本は同じだ。
AIに相談する。
違うなら修正する。
試した結果を返す。
また考える。
「これ以上、何を商品にするんだ?」
俺は考えた。
同じ方法を言い換えたテンプレート。
同じ流れを表にしたワークシート。
同じ内容を分割した教材。
作ろうと思えば作れる。
だが、それは本当に新しい商品なのか。
すでに有料記事で説明した内容を、形だけ変えて売ることになるのではないか。
商品がないのではない。
一つの方法で、多くのことができてしまう。
だからこそ、続編を作る理由が見つからない。
商品を何個も並べることより、すでにある一つを必要な人へ届ける方が先なのかもしれない。
しかし、それにも問題があった。
入口がない。
動画が四万回見られても、有料記事へ人が来るとは限らない。
noteのフォロワーが六十二人になっても、商品を買うとは限らない。
商品を作る。
見つけてもらう。
興味を持ってもらう。
お金を払ってもらう。
その全部が別の作業だった。
「結局、簡単に稼げる方法なんてないんだな」
前日に分かっていたことを、もう一度確認した。
作れば売れるわけではない。
見られれば売れるわけでもない。
質問に答え続ければ売れるとも限らない。
俺は、これまでの記事と会話を眺めた。
情報は増えている。
スレッドも長くなっている。
新しい場所で作業を始めるたびに、最初から説明するのは面倒だ。
そこで、別の作業を思いついた。
これまでの記事や企画、数字、判断を、外部へ整理して残しておく。
AIの会話が途切れても、そこを読ませれば続きから始められる。
この収益化実験のために作った新しいアカウントの記録は、その目的に合わせて分けて保存する。
商品ではない。
直接の売上にもならない。
それでも、同じ説明を何度も繰り返す時間は減らせる。
失敗した企画も、数字が伸びなかった記事も、売上が止まった日も残せる。
将来、それ自体が何かの材料になるかもしれない。
「売るものを作る前に、作ってきたものを整理するか」
俺は新しいメモを開いた。
フォロワー、六十二人。
全体ビュー、四百七十五。
スキ、百三十一。
売上、四百円。
動画、四万回超。
中止した企画、一つ。
それぞれの数字を書き込む。
成果だけではない。
失敗も記録する。
二十四時間使って完成しなかったことも書く。
質問受付をしないことも書く。
商品を増やすことを急がないことも書く。
画面の中には、成功者らしい数字と、失敗者らしい数字が同時に並んでいた。
四万回。
六十二人。
四百円。
どれも嘘ではない。
どれか一つだけ見れば、話は大きく見える。
全部並べれば、現実が見える。
「これが、今の俺だな」
俺は保存ボタンを押した。
商品は増えなかった。
売上も増えなかった。
だが、増やさなくてよいものが少し分かった。
無理に作る商品。
無料の個別相談。
同じ内容の焼き直し。
そして、使った時間を惜しんで続ける作業。
稼ぐ方法を探していた俺は、少しずつ、やらないことを決め始めていた。
それが収益につながるのかは、まだ分からない。
ただ、少なくとも昨日よりは、無駄な方向へ走り続ける可能性が少し減った。
無職のおっさんの実験は、商品を増やす段階から、残すものと捨てるものを選ぶ段階へ進んでいた。
第6話では、フォロワーや動画の再生数が増える一方で、売上が四百円から動かない状況を描きました。
新しいデジタル商品も試作しましたが、完成直前の修正が続き、二十四時間以上を使ったところで中止しました。
作れば売れるわけではありません。
見られれば売れるわけでもありません。
また、質問に答え続ける働き方も、本人に合っているとは限りません。
今回の失敗から見えてきたのは、商品を増やすことよりも、すでにあるものを整理し、無駄な作業を減らす必要性でした。
数字は伸びている。
しかし、収入は伸びていない。
その差をどう埋めるのか。
無職のおっさんの実験は、まだ続きます。
原案・構想
無職のおっさん、noteで稼げるのか実験中
物語構成・本文作成・文体調整
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