第5話 楽に稼げる方法を聞いたら、商品が一つできました
初売上400円の翌日、noteへの入口として使っていたThreadsのアカウントが停止されました。
それでもフォロワーは増え、俺が普段からAIへ相談している会話そのものにも、まだ言葉にできていなかった価値があると気づきます。
しかし、価値に気づいただけでは収入にはなりません。
note以外にも、もう少し難しくなく収入を作れる方法はないのか。
そんな少し都合のよい質問から、俺は初めてデジタル商品を一つ完成させ、販売ページへ並べることになります。
楽に稼げる方法を探したはずなのに、待っていたのは結局、地道な商品作りでした。
朝、noteの数字を確認した。
全体ビュー、四百二十七。
スキ、百十三。
コメント、ゼロ。
フォロワー、四十人。
売上、四百円。
「フォロワーは増えてるんだけどな」
昨日は二十七人だった。
一日で十三人増えたことになる。
始めたばかりの個人アカウントとしては、悪くない数字なのかもしれない。
記事を読んでくれる人も増えている。
スキも増えた。
無料記事への反応もある。
けれど、有料記事の売上欄には、最初に生まれた四百円が変わらず残っていた。
減らない代わりに、増えてもいない。
俺はしばらく数字を眺めたあと、ChatGPTの画面を開いた。
前日までの会話が、そのまま残っている。
Threadsの停止。
有料記事の初売上。
AIとの対話そのものが記事の材料になっていたという発見。
そこまで進んでも、現実の収入は四百円だった。
俺は考え込んだ末に、かなり率直な質問を入力した。
『note以外で、それほど難しくなく稼げる方法はある?』
我ながら、都合のよい質問だと思った。
できれば難しくない方がいい。
大きな初期費用も払いたくない。
在庫も抱えたくない。
人と大量に交流する仕事も避けたい。
毎日決まった場所へ出勤する方法を探しているわけでもない。
できれば、一人で作業できる。
AIを使える。
今まで作ってきたものを活用できる。
そして、収入につながる可能性がある。
そんな条件を全部満たす、都合のよい方法がどこかに落ちていないか。
そう思って聞いた。
返ってきた答えは、予想どおりだった。
『完全に楽に稼げる方法はありません』
「まあ、そうだよな」
俺は独り言を言った。
分かっていた。
分かっていたが、聞くだけなら無料だ。
その後に、いくつかの選択肢が提示された。
仕事を受注する方法。
文章や画像を販売する方法。
動画を積み重ねる方法。
デジタル商品を作る方法。
それぞれに、必要な作業と向き不向きがある。
俺は一つずつ見ながら、自分には合わない部分を返していった。
『依頼を受けて、相手と何度もやり取りする仕事は、あまり向いていないと思う』
『在庫を持つのは避けたい』
『今から専門家を名乗るのも違う』
『まだ大きな実績があるわけではない』
『自動化して大量に売るような仕組みも持っていない』
提案を断っているだけのようにも見えた。
だが、向いていないものを無理に始めても、長くは続かない。
やがて、候補の一つとしてデジタル販売が残った。
文章、画像、テンプレート、教材などをファイルとしてまとめ、インターネット上で販売する。
在庫は必要ない。
購入者への個別対応も、受注制作ほど多くない。
一度作った商品は、公開しておくことができる。
「でも、俺に売れるものなんてあるのか?」
昨日までなら、そこで止まっていたと思う。
しかし前日の会話で、俺は一つ気づいていた。
自分では特別だと思っていなかったAIとの相談方法が、ほかの人にとっては知りたい内容かもしれない。
完成したプロンプトを一度入力しているわけではない。
何をすればよいか分からない状態から相談を始める。
提案を聞く。
合わなければ違うと言う。
実際に試す。
結果を戻す。
その対話の蓄積から、記事や企画が作られていく。
俺にとっては日常になっていた。
だが、ChatGPTを開いても、何を入力すればよいか分からない人は少なくないらしい。
記事を書きたいのに、題材が思いつかない人もいる。
完璧な指示文を作らなければ、AIを使えないと思っている人もいる。
「昨日気づいたことを、そのまま商品にできるのか?」
俺はChatGPTへ尋ねた。
画面には、商品の方向性が表示された。
誰に向けたものなのか。
どんな悩みを解決するのか。
購入後に何ができるようになるのか。
どこまで無料記事で伝え、どこから商品へ入れるのか。
話は、単なる思いつきから、少しずつ商品の形へ変わっていった。
ただし、詳しい中身を全部ここへ書くつもりはない。
それを書いてしまえば、商品としてまとめた意味がなくなる。
公開する記事では考え方を伝える。
具体的な手順や、実際に使える形へ整えたものは商品に入れる。
俺は、その境界を考えながら作業を進めた。
商品名は、
『AIと相談しながら記事を作るスターターキット』
副題は、
『完成したプロンプトも記事ネタもない人向け』
となった。
「名前だけ見ると、ちゃんとした商品みたいだな」
まだ中身は完成していない。
俺は商品名を眺めながら、少しだけ不思議な気分になった。
朝には存在していなかった。
そもそも、商品を作る予定すらなかった。
ただ、
『note以外で、それほど難しくなく稼げる方法はある?』
と聞いただけだった。
そこから相談を続けているうちに、商品の対象者が決まり、構成が決まり、必要なファイルが見えてきた。
俺は一つずつ作っていった。
読むためのファイル。
自分で記入したり編集したりするためのファイル。
相談を始める際に使える補助資料。
購入後に迷わないための説明書。
内容を確認し、文章を直し、順番を整理する。
ファイルを一つのフォルダーへまとめる。
それを圧縮する。
そこで、また問題が起きた。
Windowsの標準機能でZIPファイルを展開すると、日本語のファイル名が文字化けした。
「開けば読めるけど、これは商品として嫌だな」
専用の解凍アプリを使えば問題はなかった。
だが、購入者全員が専用アプリを使うとは限らない。
商品を買って最初に見るものが、意味不明な文字になったファイル名では印象が悪い。
俺は相談し、フォルダー名とファイル名を半角英数字へ変更した。
中身は日本語のまま。
最初に読むファイルには、日本語で収録内容を説明した。
「作るだけじゃなくて、開くところまで考えないといけないのか」
売る側になって初めて気づくことがある。
自分のパソコンで開ければ完成ではない。
購入した人が迷わず使えるところまで整える必要がある。
商品画像も必要だった。
表紙だけでは、何が入っているのか伝わらない。
一枚目は商品の表紙。
二枚目は収録内容。
三枚目は記入ページの見本。
四枚目は相談用資料の見本。
内容そのものを全部見せるわけにはいかない。
だが、何が届くのか分からない商品では、購入する側も不安になる。
見せすぎず、隠しすぎない。
そこでも境界を考えた。
商品ページを作る場所として選んだのは、BOOTHだった。
アカウントを作り、ショップ名を決める。
商品カテゴリを選ぶ。
説明文を書く。
価格を入力する。
画像を登録する。
ZIPファイルをアップロードする。
項目を一つ進めるたびに、知らない言葉や迷う選択肢が出てきた。
「技術書でいいのか? その他書籍なのか?」
『内容から考えると、実践的なAI活用教材なので、技術書が近いです』
「ショップの画像サイズは?」
『推奨サイズに合わせて作りましょう』
「サブドメインはどうする?」
『商品内容が分かり、短く覚えやすいものが適しています』
一つ質問する。
一つ進む。
また分からないことが出る。
また聞く。
そうやって作業を続けた。
これは、まさに商品そのもののテーマと同じだった。
最初から販売ページの作り方を全部知っていたわけではない。
完成した手順書を持っていたわけでもない。
分からないことを相談しながら、一つずつ形にしていった。
最後に、公開ボタンが表示された。
価格は五百円。
売れる保証はない。
有料記事は一度売れた。
しかし、別の商品が同じように売れるとは限らない。
BOOTHに商品を置いただけで、人が自動的に集まるわけでもない。
それでも、公開前と公開後では違う。
存在しなかった商品が、一つ存在するようになる。
俺はボタンを押した。
商品ページが公開された。
「……できたな」
画面には、朝にはなかった商品が並んでいた。
売上はまだない。
アクセスが集まるかも分からない。
商品説明が十分なのかも、価格が適切なのかも、これから確かめるしかない。
それでも一日で、何もなかった場所に販売ページが一つできた。
俺は改めて、朝に入力した質問を思い出した。
『note以外で、それほど難しくなく稼げる方法はある?』
結局、楽に稼げる方法は見つからなかった。
代わりに見つかったのは、自分がすでに持っていた経験を、商品として整理する方法だった。
楽ではなかった。
文章を直した。
ファイルを作った。
文字化けを直した。
商品画像を作った。
販売ページを設定した。
何度も確認した。
それでも、ゼロからすべてを学び直すよりは、今まで続けてきたことの延長にあった。
俺が持っていなかったのは、売れるものではなかったのかもしれない。
自分の経験を、他人が使える形へ変える視点だった。
ただ経験を語るだけでは商品にならない。
相手が使えるように整理する。
迷わないように順番を作る。
開いてすぐ分かるように整える。
そこまでして、初めて一つの商品になる。
noteの売上は四百円のまま。
フォロワーは四十人。
BOOTHの商品数は一つ。
新しく増えた売上は、まだゼロ円。
大きく稼げる方法を見つけたわけではない。
けれど、昨日まではnoteの記事しかなかった。
今日は、自分で作ったデジタル商品が一つある。
「楽に稼ぐ方法を聞いたはずだったんだけどな」
俺は少し笑った。
AIは、楽に稼げる秘密を教えてはくれなかった。
その代わり、
「今あるものから、一つ作ってみたらどうか」
と、遠回しに示してきた。
質問の答えが、文章ではなく商品として残った。
売れるかどうかは、まだ分からない。
それでも、棚に並べなければ、誰かが買う可能性も生まれない。
無職のおっさんの実験は、稼ぐ方法を探す段階から、売るものを一つずつ作る段階へ進み始めていた。
第5話では、「note以外で、それほど難しくなく稼げる方法はある?」という質問から、初めてデジタル商品を完成させ、BOOTHへ登録するまでを描きました。
楽に稼げる方法が見つかったわけではありません。
それでも、AIへ相談を続ける中で、自分では当たり前だと思っていた経験を、誰かが使える形へ整理するという道が見えてきました。
商品を作るには、中身だけでなく、ファイル形式、文字化け対策、説明書、商品画像、販売ページなども必要です。
販売ページへ並べた時点では、まだ売上はゼロです。
しかし、存在しなかった商品が一つ生まれたことで、売れる可能性も初めて生まれました。
次回も、実際に起きた出来事をもとに、無職のおっさんの収益化実験を物語として続けます。
原案・構想
無職のおっさん、noteで稼げるのか実験中
物語構成・本文作成・文体調整
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