第4話 初売上の翌日、道が一本消えました
初めて有料記事が売れた翌日。
売上は400円のまま。
けれど、フォロワーは増えていました。
少しずつ前へ進んでいるように見えたその日、noteへ読者を呼ぶために使っていたThreadsのアカウントが停止されます。
一つの数字が動いた直後に、一つの道が消える。
そんな中、俺は、自分がAIと続けてきた何気ない会話そのものに、まだ気づいていなかった価値があることを知ります。
朝、目を覚ますと、俺はすぐにスマートフォンへ手を伸ばした。
昨日までなら、最初に見るのは時刻だった。
今日は違う。
noteの通知欄を開く。
新しい購入通知が届いていないか。
夜の間に、二人目の購入者が現れていないか。
そんな期待を、完全には否定できなかった。
「……まあ、そうだよな」
売上は400円のままだった。
昨日初めて動いた数字は、翌朝も同じ場所にいた。
ゼロではない。
だが、増えてもいない。
画面を閉じようとして、別の数字に気づいた。
フォロワーが増えている。
昨日確認したときは十五人だった。
今は二十七人。
「十二人も増えてる」
全体の閲覧数も増えていた。
スキの数も増えている。
購入者は増えていない。
しかし、読んだ人は増えている。
反応した人も増えている。
次の記事も読んでみようと思ってくれた人が、十二人増えた。
それを成功と呼んでよいのか、俺にはまだ分からなかった。
売上だけを見れば、昨日から何も変わっていない。
けれど、画面の向こうにいる人の数は確実に増えている。
「これは、進んでるのか?」
俺はパソコンを開き、ChatGPTに尋ねた。
『売上は400円のままだけど、フォロワーが十五人から二十七人に増えた。これはどう考えればいい?』
すぐに返事が表示された。
『売上は横ばいですが、購入前の読者層は増えています。記事を見つける、無料記事を読む、スキを付ける、フォローする、別の記事を読む。その後に購入する人もいます』
「購入候補が増えている段階、か」
少し都合のよい解釈にも聞こえた。
だが、間違いとも言い切れない。
誰かが有料記事を買う前には、まず存在を知ってもらう必要がある。
一度も読んだことのない無職のおっさんへ、突然400円を払う人ばかりではない。
昨日の一件が、むしろ珍しかったのかもしれない。
俺はその日の数字をメモした。
全体ビュー、299。
スキ、84。
コメント、0。
フォロワー、27。
売上、400円。
売上は増えていない。
だが、記録する価値はある。
成功した数字だけを残す企画ではない。
増えなかった数字も含めて、全部さらす。
それが、この実験の最初の決まりだった。
俺はThreadsを開いた。
昨日の記事を紹介する投稿を作ろうと思ったのだ。
短い文章をいくつかに分け、最後にnoteへのリンクを置く。
交流が得意なわけではない。
大量のコメントへ返信する運用もしたくない。
それでも、無料で使える入口の一つとして、Threadsは悪くないように思えていた。
画面が切り替わった。
いつもの投稿一覧ではなかった。
アカウントが停止されたことを知らせる表示が出ていた。
「……は?」
一度、画面を閉じた。
もう一度開いた。
表示は変わらない。
再審査を求める項目も見当たらなかった。
原因に心当たりがないわけではなかった。
Threadsでは、何度か本人確認を求められていた。
電話番号を使ったSMS認証も行った。
しかし、あるとき本人の写真を求められた。
俺は主にパソコンで作業していた。
その場ですぐに自分を撮影する環境がなかった。
そこで、プロフィールに使用していたAI生成の「無職のおっさん」の画像を送った。
一度目は、それで通過した。
だから二度目も同じ画像を送った。
結果として、アカウントは停止された。
「一回通ったから、大丈夫だと思ったんだけどな……」
自分でも、正しい対応ではなかったことは分かっていた。
本人確認が必要だったのに、本人ではない画像を送った。
プロフィール画像として使っていたから、同じものを求められているのだと軽く考えてしまった。
一度目に通過したことが、判断を誤らせた。
俺は椅子の背もたれへ体を預けた。
初売上の翌日。
二件目の購入はない。
そして、noteへ人を送るために使っていた道が一本消えた。
「昨日、少し前に進んだと思ったら、今日はこれか」
人生は、帳尻を合わせに来るのだろうか。
長い間、何も起こらなかった。
ようやく400円が生まれた。
その直後に、別の場所が閉じられた。
プラスとマイナスを同時に渡され、結局その場に立たされているような気分だった。
俺はChatGPTへ状況を伝えた。
『Threadsのアカウントが停止された。本人確認でAI生成のプロフィール画像を送った。一度目は通ったので、二度目も同じ画像を送ったら停止された。再審査もできないみたいだ』
返事を待つ。
『一度通過したため、同じ方法で問題ないと判断した経緯は理解できます。ただし、本人確認でAI画像を使ったことは停止理由になった可能性があります。今すぐ新しいアカウントを作り直すより、残っている導線を整理した方が安全です』
「まあ、そうだよな」
新しいThreadsアカウントを作ろうとは思わなかった。
また同じことが起きるかもしれない。
電話番号や端末が関連づけられていれば、新しいアカウントも止められる可能性がある。
そもそも、すでに管理する場所が増えすぎていた。
note。
X。
Instagram。
Pinterest。
カクヨム。
音楽を置く場所。
動画を置く場所。
始めたばかりなのに、入口だけは大量にある。
その全部を毎日動かそうとすれば、記事を書く前に一日が終わる。
「一本なくなったなら、残っているものを使うしかないか」
俺はThreadsの停止について、日次記事へ書くことにした。
隠す理由はない。
AI画像を本人確認へ使った判断ミスも含めて記録する。
成功だけを見せる企画ではない。
むしろ、こういう失敗の方が、後から同じことをする人には役立つかもしれない。
『無職のおっさん【6日目】の記事を作って』
入力したのは、それだけだった。
数秒後、記事が表示され始めた。
初売上の翌日。
フォロワー十五人から二十七人。
売上は400円のまま。
Threads停止。
本人確認でAI画像を使った経緯。
今後の記事を三種類に分ける方針。
今日まで話してきた内容が、一つの記事としてつながっていく。
「……改めて考えると、おかしいな」
入力した指示は短かった。
記事の構成も、細かな事実も、改めて説明していない。
それなのに文章ができている。
なぜなら、このスレッドにはすでに全部残っていたからだ。
最初にnoteを始めようとしたこと。
何を書けばよいか分からなかったこと。
Threadsを見ていたこと。
コメント交流は自分に合わないと感じたこと。
AIを複数使う役割分担。
動画や画像の制作。
有料記事の価格。
売上ゼロ。
最初の購入。
購入後の高評価。
そして今日のアカウント停止。
俺がその都度、普通に相談してきた内容が、ずっと蓄積されていた。
だから最後に、
『記事を書いて』
と頼むだけで、文章になる。
「俺、毎回プロンプトを考えてるわけじゃないんだよな」
世の中には、AIへ一度で完璧な文章を書かせるためのプロンプトが大量に公開されている。
役割を指定し、目的を指定し、構成を指定し、文体を指定する。
それは便利だ。
だが、俺はそれほど整った使い方をしていなかった。
思いついたことを話す。
提案を受ける。
違うと思えば、違うと言う。
予算が高ければ、高いと言う。
操作が分からなければ、画面を見せて聞く。
実際に試したら、結果を戻す。
それだけだった。
その会話が積み重なることで、AIは俺が何をしているのかを理解していた。
何を避けたいのか。
何を大切にしているのか。
どこまでが事実で、どこからが推測なのか。
どんな書き方を好み、何を大げさだと感じるのか。
普通に会話を続けていただけだった。
しかし、その会話は、ただ回答を受け取るためのものではなかった。
取材でもあった。
企画会議でもあった。
日記でもあった。
実験記録でもあった。
そして、後から記事や物語へ変えられる材料でもあった。
「これ、有料記事に書いた方がいいんじゃないか?」
俺は、自分で作った有料記事を開いた。
AIへ相談しながら記事を作る方法。
そこには、相談の始め方や、提案が合わない場合の聞き直し方が書かれている。
複数のAIをどう分担するか。
一つの出来事を複数の媒体へ展開する方法。
公開した結果をAIへ返す方法。
だが、もっと根本的な部分が抜けていた。
なぜ、俺は短い指示だけで記事を作れるのか。
それは、優れた一文のプロンプトを知っているからではない。
その前に、長い対話があるからだ。
俺は記事の最後へ、文章を追加した。
私は、記事を書くたびに完成したプロンプトを作っているわけではありません。
普段からAIへ相談し、提案に違和感があれば伝え、実際に試した結果を戻しています。その対話の中には、自分の経験、数字、失敗、判断、採用しなかった案が少しずつ蓄積されています。そのため、最後に「今日の内容を記事にして」「この出来事をラノベにして」と頼むだけでも、文章を作れます。短い指示だけで記事が完成しているように見えますが、実際には、その前の対話全体が取材と企画会議になっています。
入力を終えると、俺はしばらくその文章を見た。
自分では、特別なことをしているつもりはなかった。
AIへ相談していただけだ。
分からないことを聞いていただけだ。
それでも、その使い方は、他の人がまだうまく言葉にできていないものかもしれない。
記事を書くために、毎回机へ向かってネタを考える。
完成したプロンプトを準備する。
必要な情報を全部まとめて、一度で指示する。
俺は、ほとんどそれをしていない。
日常的な会話の中で、材料が勝手に積み重なっていく。
そして必要になったとき、その蓄積を記事へ変える。
「もしかして、俺が売れるものを見逃してたのか」
過去の実績。
特別な資格。
専門的な技術。
そういうものばかりを、商品になる経験だと思っていた。
だが、自分では当たり前にやっていることの中にも、他人が知りたいものがある。
AIにどう命令するかではなく、AIとどう相談を続けるか。
答えを一度でもらうのではなく、結果を返しながら一緒に考える。
その過程から、自分でも気づかなかった経験の価値を掘り出す。
それが、俺のやっていたことだった。
Threadsの道は消えた。
売上は400円のまま。
今日一日だけを見れば、前へ進んだとは言いにくい。
それでも、俺は新しいものを一つ見つけた。
外へ続く道ではない。
自分の中に、すでに積み上がっていたものだ。
相談してきた時間。
迷った記録。
却下した提案。
失敗した判断。
数字が動かなかった日。
それらは全部、ただ過ぎていった時間ではなかった。
後から文章へ変えられる。
誰かへ渡せる。
場合によっては、商品にもなる。
俺は画面の右上にある公開ボタンを見た。
今日の記事は、まだ完成していない。
ラノベもこれからだ。
二件目の売上通知も来ていない。
それでも、昨日とは違う。
「売るものがないんじゃなくて、売れるものだと気づいてなかっただけなのかもな」
誰に聞かせるでもなく、俺はつぶやいた。
画面には、フォロワー二十七人と表示されている。
売上は400円。
コメントはゼロ。
大きく人生が変わったわけではない。
今日も無職だった。
貯金も減っている。
未来の保証もない。
けれど、自分が何気なく続けてきた会話の中に、これから使える材料が残っている。
そう考えると、何もない一日が、少しだけ違って見えた。
初売上の翌日。
一つの道が消えた。
その代わりに俺は、自分が立っている場所の下に、まだ掘っていなかった鉱脈があることを知った。
無職のおっさんの実験は、まだ六日目だった。
第4話では、初売上の翌日に起きたThreadsアカウント停止と、AIとの対話そのものが記事の材料として蓄積されていることへの気づきを描きました。
売上は400円のままでも、フォロワーや読者は増えている。
一つの集客経路が消えても、これまで積み重ねてきた相談や失敗まで消えるわけではありません。
完成したプロンプトを毎回作らなくても、普段からAIへ相談し、違和感や実行結果を返していれば、その対話全体が取材・企画会議・制作記録になります。
本人にとっては無意識に行っていたことでも、他の人にとっては知りたい方法かもしれません。
次回も、実際に起きた出来事をもとに物語を続けます。
原案・構想
無職のおっさん、noteで稼げるのか実験中
物語構成・本文作成・文体調整
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