第13話 Amazonの審査に通った。でも、売れたわけではありません
「Amazonの審査に通ったよ」
画面に表示された報告を見て、俺はしばらく動かなかった。
「……通ったのか」
もう一度、リンクを押す。
開いたのは、Amazonの商品ページだった。
そこには、俺がAIと一緒に作った絵本が並んでいる。
少女と猫が、なくした色を探して旅をする物語。
画像を作り、文章を直し、ページを並べ、間違っていた一ページを差し替えた。
PDFにして販売するだけでも、それなりに時間がかかった。
それを今度はKindle用に整え、Amazonへ申請した。
申請したからといって、必ず公開されるわけではない。
内容や形式に問題があれば、修正して出し直す必要がある。
だから、審査に通ったという事実は、素直に一つの前進だった。
「俺の本が、Amazonにある……」
過去にアフィリエイトをしていた頃、Amazonの商品ページは何度も見た。
誰かが作った商品。
誰かが書いた本。
誰かが販売しているもの。
そこへ人を案内し、購入されれば報酬が発生する。
当時の俺は、商品ページへ人を送る側だった。
今は違う。
画面に並んでいるのは、俺が作った本だった。
「立場が逆になったな」
そう呟いてから、俺は販売数を確認した。
当然ながら、数字が突然増えているわけではない。
審査に通った。
商品ページができた。
それだけだ。
「まあ、通っただけで売れるなら、誰も苦労しないか」
Amazonに本が並んだ瞬間、鐘が鳴るわけではない。
読者が列を作るわけでもない。
銀行口座の数字が増えるわけでもない。
新しい棚に、本が一冊置かれた。
今は、まだそれだけだった。
だが、販売場所が増えたのはAmazonだけではない。
昨日、俺はPayoneerとの連携を終え、Etsyにも商品を掲載した。
海外向けの販売サイト。
ショップ名は、AI Co-Creation Lab。
最初に置いたのは、日本語と英語を組み合わせたバイリンガル教材だった。
「おはよう」
「いただきます」
「ありがとう」
「おやすみ」
日常で使う短い言葉を、日本語、英語、ローマ字、画像、音楽で学べるようにしたものだ。
絵本だけではない。
日本語の歌。
英語の歌。
複数のデータをまとめ、ダウンロード商品として登録した。
そこまで進むには、商品を作る以外の作業も必要だった。
Payoneerとの連携。
本人確認。
販売者情報の設定。
英語の商品名。
英語の説明文。
商品画像。
検索用のキーワード。
販売価格。
日本国内向けのページを作るときとは、考えることが少し違う。
「商品を置く前に、店へ入る手続きが長いな……」
途中で書類の確認も必要になった。
すぐに開業できたわけではない。
それでも、一つずつ進め、ようやく最初の商品を並べることができた。
Amazonには絵本。
Etsyにはバイリンガル教材。
BOOTHにも商品がある。
販売場所だけを見れば、以前よりかなり増えている。
しかし、noteの売上は四百円のままだった。
最初に有料記事が一件売れてから、数字は動いていない。
「売る場所は増えた。でも、買う人が増えたわけじゃない」
その違いだけは、忘れないようにした。
店を作ることと、客が来ることは別だ。
本を並べることと、読まれることも別だ。
商品を増やすことと、売上が増えることも別だった。
俺はAmazonとEtsyのページを閉じ、次にYouTubeを開いた。
そこには、新しく投稿したショート動画が並んでいる。
一つは現代版。
五十代の無職のおっさんが、自宅のパソコンの前で悩み、AIへ相談し、失敗しながら何かを作っていく。
もう一つは江戸版。
同じ出来事を、江戸時代の浪人風に置き換えたものだ。
現代のおっさんがスマートフォンを見て頭を抱える場面は、江戸版では手紙を読んで青ざめる場面になる。
パソコンで数字を確認する場面は、そろばんを弾きながら帳簿を見る場面になる。
空の財布を見る場面は、小銭の入った巾着を逆さにする場面になる。
そして最後には、浪人が頭を下げる。
「もはやこれまで、詫びるしかあるまい」
同じ失敗なのに、時代を変えるだけで妙に大げさになる。
「現代版より、江戸版の方が悲壮感があるな」
AIは淡々と答えた。
『衣装、照明、和室の構図による影響です』
「分析すると急に身も蓋もないな」
どちらも、俺自身の顔を撮影した動画ではない。
AIで作った架空のおっさんの静止画像。
AI音声。
字幕。
BGM。
軽いズームや画面移動。
それらを組み合わせた、フェイスレス動画と呼ばれる形式だ。
現代版と江戸版には、それぞれ基本画像を用意した。
悩んでいる顔。
驚いている顔。
落ち込んでいる顔。
何かを思いついた顔。
パソコンへ向かう場面。
手紙を読む場面。
そろばんを使う場面。
頭を下げる場面。
最初は十枚ほどだった画像も、今ではそれぞれ二十枚前後まで増えている。
動画生成システムは、noteの記事を読み、場面を分け、内容に近い画像を選ぶ。
使える画像があれば再利用する。
足りなければ、新しい画像を生成する。
文章を入れるたび、すべての画像を作り直す必要はない。
「少しずつ素材を増やせば、使い回せる場面も増えるわけか」
『はい。基本画像が増えるほど、新規生成が必要な場面は限定されます』
使い回すといっても、毎回まったく同じ動画になるわけではない。
記事から抜き出される出来事が違う。
ナレーションも違う。
字幕も違う。
画像の順番も変わる。
同じおっさんが、別の日に別の問題で悩んでいるように見える。
実際、悩んでいる本人は毎回同じなのだから、それで間違ってはいない。
さらに、もう一つ別の動画も作った。
『無職のおっさんの異世界AI生活』。
第3話では、主人公が森で泣いていた子どもと出会う。
こちらはnoteの記事を江戸風に変換する動画とは違う。
ライトノベルの物語に合わせて、場面ごとの画像が必要になる。
森を歩く主人公。
木の陰に隠れる少女。
警戒する表情。
差し出されるセーター。
少しずつ縮まる距離。
物語に合う画像がすでにあれば、それを使う。
足りない場面があれば、ChatGPTが新しい静止画像を作る。
画像がそろえば、あとは音声、字幕、BGMを加え、一本のショート動画へまとめる。
「現代版と江戸版は、記事から自動で短い物語を作る」
「異世界版は、ラノベの物語に合わせて画像を組む」
似たようなスライド動画に見えても、中の作り方は少し違う。
現代版と江戸版は、俺が現実に行ったことを別の世界観へ変換する。
異世界版は、最初から物語として作った世界を映像へ変換する。
どちらも、本人の顔を撮影する必要はない。
カメラの前で話す必要もない。
何度も同じ台詞を録音する必要もない。
俺がするのは、文章を作り、完成した動画を確認し、最後に投稿ボタンを押すことだった。
「商品ページも増えた」
「動画も増えた」
「画像も増えた」
「それで、売上は?」
自分で問いかけて、画面の数字を見る。
四百円。
「……変わってないな」
作る仕組みは、かなり整ってきた。
記事を書けば、ラノベにできる。
ラノベや記事から、現代版と江戸版の動画を作れる。
物語を書けば、それに合わせた画像と動画を作れる。
絵本や教材が完成すれば、BOOTH、Etsy、Amazonへ並べられる。
だが、どれだけ変換できても、最後に残る問題は同じだった。
誰が見るのか。
誰が読むのか。
誰が買うのか。
AIは、商品を作る手伝いをしてくれる。
販売ページの文章も考えてくれる。
動画も作れる。
投稿文も作れる。
しかし、購入者まで自動生成することはできない。
「そこが一番難しいんだよな」
俺はブラウザのタブを順番に見た。
note。
Amazon。
Etsy。
BOOTH。
YouTube。
少し前まで、俺の作品を置く場所はほとんどなかった。
今は、いくつもの入口がある。
ただし、入口を作っただけでは、人は入ってこない。
看板を出す。
作品を増やす。
動画から記事へつなぐ。
記事から商品へつなぐ。
どこから人が来るのか、数字を見る。
今やるべきなのは、さらに新しい仕組みを作ることではなく、作った入口が本当に使われるのかを観測することだった。
俺はもう一度、Amazonの商品ページを開いた。
そこに、自分の作った本がある。
売れたという表示はない。
レビューもない。
派手な変化もない。
それでも、昨日までは審査中だった本が、今日は誰かが買える場所に置かれている。
「売れてはいない。でも、売れる状態にはなった」
それは成功とは呼べない。
収益化を達成したわけでもない。
だが、何もなかった場所に、棚が一つできた。
別の場所には店ができた。
YouTubeでは、現代のおっさんと江戸の浪人が、同じ失敗を別々の時代で繰り返している。
異世界では、もう一人のおっさんが、森で泣く少女と出会っていた。
世界は増えた。
入口も増えた。
あとは、どこかから誰かが入ってくるのを待つだけ――ではない。
「待っているだけじゃ、たぶん来ないな」
俺は次の動画ファイルを確認した。
タイトル。
説明文。
ハッシュタグ。
画像。
字幕。
問題はない。
投稿画面を開き、公開ボタンへカーソルを合わせる。
Amazonに本が並んでも。
Etsyに店ができても。
動画を自動で作れるようになっても。
最後に誰かへ届けるための行動は、まだ俺が続けなければならない。
「店番も宣伝も、無職のおっさん一人か」
クリックする。
現代版のおっさんが、インターネットの海へ流れていった。
続けて、江戸の浪人も流れていく。
売上は、まだ四百円。
だが、昨日より入口は増えている。
次に見るべき数字も、増えていた。
そして無職のおっさんは、Amazonに並んだ自分の本を眺めながら、次の投稿ボタンを押した。
第13話では、Amazonの審査通過、Etsyの開業、現代版・江戸版・異世界版のショート動画制作について書きました。
Amazonに本が並び、Etsyにも最初の商品を掲載できましたが、販売場所が増えたことと、売上が増えたことは同じではありません。
動画制作では、現代版と江戸版の基本画像をそれぞれ約二十枚まで増やし、既存画像で足りない場面だけを新しく生成する方式へ進んでいます。
『無職のおっさんの異世界AI生活』では、ライトノベルの場面に合わせて静止画像を用意し、既存画像の再利用と新規生成を組み合わせて動画化しています。
作る仕組みと販売する場所は、少しずつ整ってきました。
これから確認するのは、増えた入口のどこから読者や購入者が来るのかという部分です。
次回も、実際に起きたことと数字をもとに物語を続けます。
著者・原案・構想・実体験
無職のおっさん
協力AI・物語構成・本文作成・文体調整
G(ChatGPT)




