第11話 動画は自動でできた。でも、見てもらう道は自動ではできません
全体ビュー、九百九十四。
フォロワー、百二十九人。
スキ、二百四十六。
コメント、ゼロ。
売上、四百円。
「あと六ビューで千だな」
パソコンの画面を見ながら、俺は小さくつぶやいた。
noteを始めて十四日目。
最初の頃から考えれば、数字はずいぶん増えた。
フォロワーは百人を超えた。
スキも二百を超えた。
記事も、ラノベも、商品も増えた。
それなのに、売上だけは、最初の一件から微動だにしていない。
「四百円って、強いな」
俺が言うと、画面の中のChatGPTが答えた。
『強いというより、動いていないだけだと思います』
「そこは少しくらい、前向きに言ってくれてもいいだろ」
『最初の売上が消えることはありません。ゼロへ戻っていないという意味では、四百円を維持しています』
「そういう言い方をすると、なんだか立派に聞こえるな」
『実態は同じです』
やはりAIは容赦がない。
もっとも、妙に励まされるよりは、その方が助かる。
売れていないものは、売れていない。
読まれていないものは、読まれていない。
数字は、気を遣ってくれない。
ただし、今日は一つだけ、これまでとは違うことがあった。
俺はブラウザの別タブを開いた。
そこには、YouTubeへ投稿した二本のショート動画が並んでいた。
一つは現代編。
もう一つは江戸時代編。
どちらも、灰色の髪とひげを生やした、五十代くらいの男が主人公だった。
現代編では、パソコンの前で悩み、スマートフォンを見て驚き、最後には床へ両手をついて謝る。
江戸時代編では、着物を着た同じような男が、巻物を読み、銭を見つめ、最後には畳の上で力なく座り込む。
動画生成AIで、人物を一から動かして作ったものではない。
用意しておいた固定画像を切り替え、音声と字幕を組み合わせた、紙芝居に近い動画だ。
それでも、一応は動画になっていた。
しかも、俺が一本ずつ動画編集ソフトへ画像を並べたわけではない。
文章を渡し、音声を作り、画像を選び、字幕を付け、動画として出力する。
その一連の流れを、ある程度自動で処理できるところまで来ていた。
「できたんだよな」
俺は、もう一度確認するように言った。
『はい。少なくとも、固定画像と音声を使って動画を生成し、公開するところまではできています』
「俺、動画を自動で作る方法なんて知らなかったぞ」
『知っていたから作れたわけではありません』
「じゃあ、何で作れたんだ?」
『相談したからです』
「身も蓋もないな」
『事実です』
始まりは、本当に単純だった。
俺はAIへ聞いただけだ。
固定画像を使って、一分以上の動画を自動で作れないか。
動画生成AIは便利だが、長い動画を何本も作れば費用がかかる。
人物を固定すると、思った通りの顔にならないこともある。
短い動画ならともかく、一分、二分と続く物語を毎回生成するのは現実的ではない。
ならば、静止画を使えばいい。
音声と字幕を加えれば、紙芝居のような動画にはなる。
そう考えたものの、俺には具体的な作り方が分からなかった。
APIとは何か。
音声はどう作るのか。
画像と音声はどう組み合わせるのか。
字幕を動画へ入れるにはどうするのか。
そもそも、どのソフトを使えばいいのか。
分からないことだらけだった。
だから、全部聞いた。
ChatGPTへ聞き、Claude Codeへ渡し、エラーが出ればそのまま見せた。
違うと思えば直させた。
字幕が画面からはみ出せば、読めないと言った。
画像が合っていなければ、別の画像を使うように頼んだ。
俺がしたのは、プログラムを書くことではない。
完成した難しい命令文を作ることでもない。
目の前で起きたことを見て、
「違う」
「ここがおかしい」
「もう少し簡単にできないか」
と伝え続けただけだった。
それでも、少しずつ前へ進んだ。
Google AI StudioでAPIを使えるようにし、日本語音声を生成した。
音声ファイルができた。
静止画と音声を組み合わせた。
縦型の動画ができた。
字幕を付けた。
文字が切れた。
直した。
また別の問題が出た。
また直した。
そんなことを繰り返して、ようやく二本の動画を公開した。
「これも、対話だけでできたってことになるのか?」
俺が聞くと、ChatGPTは少し間を置いた。
『正確には、企画と問題解決は対話で進め、実装部分はClaude CodeなどのCode系AIを使っています』
「普通のChatGPTだけで全部作ったわけじゃない、と」
『はい。ただし、最初からClaude Codeへ完成した設計を渡したわけでもありません。何を作るか、どこまで自動化するか、何が問題かは、通常の対話で整理しています』
「対話AIが考えて、Code系AIが手を動かした」
『その表現が近いです』
俺は椅子の背もたれに体を預けた。
最近、AIの情報を見ていると、Claude Codeばかりが目に入る。
自動化。
アプリ開発。
エージェント。
ワークフロー。
何かすごいものを作るには、最初からCode系AIが必要なように見える。
けれど、俺が最初にしたことは違った。
記事を作りたい。
何を書けばいいか分からない。
この話はラノベになるか。
この文章は歌詞になるか。
絵本にできるか。
教材にできるか。
固定画像から動画を作れるか。
全部、普通の会話から始まっている。
俺が完成形を知っていたわけではない。
むしろ、完成形が分からないから相談した。
相談しながら、必要な形を見つけていった。
その結果、note記事ができた。
ラノベができた。
歌ができた。
絵本ができた。
教材ができた。
商品ができた。
そして今度は、動画を自動で作る仕組みまででき始めた。
「これ、かなりすごいことなんじゃないか?」
俺は言った。
『制作可能な範囲が広がっているという意味では、そうです』
「もっと驚いてくれてもいいだろ」
『ただし、売上は四百円です』
「それを言うな」
『重要な事実です』
そう。
そこが問題だった。
作れるものは増えた。
それも、かなりの速度で増えた。
記事なら、会話をまとめれば作れる。
ラノベなら、設定と方向を渡せば続きができる。
歌詞も作れる。
絵本も、物語と画像の型ができている。
日本語と英語を並べれば、学習教材にもなる。
一度テンプレートができれば、テーマを変えて何冊でも展開できる。
浮世絵風の塗り絵。
日本の風景を学ぶ教材。
買い物の日常会話。
学校で使う言葉。
食事のあいさつ。
旅行で使う表現。
アイデアだけなら、いくらでも出てくる。
動画も同じだった。
固定画像を増やし、台本を変えれば、別の話を作れる。
現代編。
江戸時代編。
昭和編。
異世界編。
宇宙編。
無職のおっさんは、どこへでも行ける。
本人は部屋からほとんど出ていないのに。
「作るだけなら、ほぼ終わりがないな」
『はい。制作能力だけを見れば、コンテンツ不足にはなりにくい状態です』
「なのに、見る人がいない」
『はい』
「そこは否定してくれないんだな」
『否定できる材料がありません』
Threadsが使えていた頃は、記事を公開するたびに、少しずつ人が来た。
フォローされる。
スキが増える。
記事を見てもらえる。
大きな流入ではなかった。
それでも、外からnoteへ入ってくる道が一つあった。
そのThreadsが停止された。
今は、note内部のおすすめと、わずかな検索流入に頼るしかない。
YouTubeに動画を上げても、動画を見る人とnoteの記事を読む人は同じとは限らない。
コメディ動画を見た人が、わざわざプロフィールを開き、有料記事まで読む可能性は高くない。
自動で動画を作れるようになっても、視聴者まで自動で現れるわけではなかった。
「動画も自動。音声も自動。字幕も自動」
俺は指を折りながら数えた。
「タイトルや説明文もAIが作れる。だったら、投稿も自動にできるらしい」
『Google Cloudや投稿管理サービスを組み合わせれば、仕組みとして検討できます』
「じゃあ、全部自動にすれば、寝てても勝手に増えるんじゃないか?」
『投稿数は増える可能性があります』
「再生数は?」
『保証されません』
「読者は?」
『保証されません』
「売上は?」
『保証されません』
「夢がないな」
『自動化できるのは作業であって、需要ではありません』
俺は黙った。
その言葉は、妙に正しかった。
自動化すれば、作業時間は減る。
同じ形式の動画を何本も出せる。
毎日投稿することもできるかもしれない。
けれど、それを見る理由まで自動で作られるわけではない。
誰にも求められていないものを百本作っても、誰にも求められていないものが百本になるだけだ。
「じゃあ、作る意味がないのか?」
『そうではありません』
「珍しいな。否定しなかった」
『作らなければ、試すこともできません。ただし、作ること自体を成果と勘違いしない方がいいということです』
「動画を公開した。それで終わりじゃない」
『はい。どの題材が見られるか、どの冒頭で離脱されるか、どの形式なら続けて見られるかを観測する必要があります』
結局、また観測だった。
記事も同じ。
商品も同じ。
動画も同じ。
AIへ相談すれば作れる。
しかし、世の中へ出した後は、数字を見るしかない。
見られなければ、入口を変える。
途中で離脱されるなら、冒頭を変える。
売れなければ、内容か説明か価格か、それとも単純に人が来ていないのかを考える。
自動化は、実験の回数を増やしてくれる。
だが、答えまでは出してくれない。
「有料記事に、今回のことを追加したんだよな」
『はい。固定画像と音声を使った自動動画生成の試行や、AIへ相談しながら進めた流れを追加しました』
「値段は上げたいんだけど、今はセール中で変えられない」
『七月末までは変更できない予定ですね』
「だから、今買った人は得をする」
『今後も追記が増え、購入済みの読者がその内容を読めるのであれば、そうなります』
「絵本や教材の作り方も、実際に海外販売できたら追加できる」
『ただし、まだ販売できていない内容は、実績として書かない方がいいです』
「分かってるよ」
俺は画面を閉じかけて、もう一度noteのアクセス状況を見た。
最も読まれているのは、有料記事だった。
八十二ビュー。
実験開始の記事は七十六ビュー。
わずかな差ではあるが、日報よりも、
「何を書けばいいか分からない」
という悩みを扱った記事の方が、入口になり始めていた。
それでも、購入は一件。
数字が少なすぎて、良いとも悪いとも判断できない。
ただ一つ分かったことがある。
俺は、もう「作れない人」ではなかった。
記事も作れる。
物語も作れる。
音楽も作れる。
絵本も教材も作れる。
動画も作れる。
必要なら、その制作工程を自動化するところまで進められる。
問題は、そこではない。
「作る方法は、ほとんど見つけた」
俺は声に出した。
『はい』
「でも、届ける方法は見つかっていない」
『はい』
「自動で作れるようになったのに、見てもらう道だけは自動でできない」
『現時点では、その通りです』
パソコンの画面には、公開したばかりの動画が二本並んでいた。
現代の無職のおっさん。
江戸時代の無職のおっさん。
時代が変わっても、困っていることは似ている。
金がない。
仕事がない。
何かを始める。
失敗する。
謝る。
それでも、また次を作る。
俺は再生ボタンを押した。
画面の中の男が、最後に深々と頭を下げた。
『誠に、申し訳ございませんでした!』
音声が流れた。
俺は思わず笑った。
「謝ってばかりだな、こいつ」
『マスターが決めたシリーズです』
「そうだった」
売上は増えていない。
導線もない。
動画が伸びる保証もない。
それでも、昨日までは存在しなかったシリーズが、今日は存在している。
それだけは事実だった。
作ることができるなら、試すことができる。
試すことができるなら、観測することができる。
観測できるなら、次を変えられる。
俺は新しいメモを開き、短く書いた。
自動化できたもの・音声・字幕・動画
まだ自動化できていないもの・読者・再生数・売上
少し考えて、その下に一行付け足した。
次に作るべきものは、動画ではなく入口かもしれない。
だが、その入口の作り方だけは、AIへ聞いてもまだ答えが出ていなかった。
コンテンツは、ほぼ無限に生まれる。
しかし、それを見る人は、自動では生まれない。
俺の実験は、作る段階から、届ける段階へ移り始めていた。
そして、その方がずっと難しいことを、俺はようやく理解し始めていた。
原案・構想
無職のおっさん、noteで稼げるのか実験中
物語構成・本文作成・文体調整
ChatGPT
原案・構想
無職のおっさん、noteで稼げるのか実験中
物語構成・本文作成・文体調整
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