表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死神様は生贄の娘を離さない 第二巻  作者: 武村


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/15

五話 賑やかな夕餉

「……思い出した。」


 黄泉に迷いし娘の本を読み進めていくうちに、

 男はふと手を止めて、

 顔を上げた。

 

 

「あの日、

 黄泉の門をくぐった時だ。

 鈴の音が聞こえたのだ……」


 男はその時の事を思い出していた。


「呼魂鈴、ですか。」


 透子の声がわずかに震えた。


「恐らく。

 黄泉蜘蛛の裁きが決まり、

 あいつを探していたんだ。

 その時、あの音がした。」

 

 蔵の中が静まり返った。


「じゃあ、

 その雅って子が鈴を鳴らしたのかい?」


 ハクは腕を組んだ。


「……違う。

 あの娘には聞こえていなかった。」


 透子は木箱を強く抱き締めた。


 昔の黄泉守様と

 今の私は同じだ。


 呼魂鈴の音は

 自分にしか聞こえていない。


「誰かが、黄泉守様を

 呼んでいたということでしょうか……」


 透子の言葉に

 男は答えない。


「その可能性は十分あるだろうね。

 しかし……」


 ハクはそう言うと

 うーんと頭を捻った。


「呼魂鈴の謎がさらに深まってしまったね……」


 男はハクの言葉を聞いて、

 同意するように深く息をついた。


「でも、

 三百年前の娘が雅さんだということは

 分かりましたよ!」


 気落ちする二人を励ますように

 透子は声を上げた。


「そうだな……」


 男はわずかに口角を上げた。


「うん。

 一歩前進したってことで、

 今日はこの辺にしようか。」


「そうだな。

 続きは明日にしよう。」


 男がそう言うと、

 三人は窓の外を見た。


 いつの間にか辺りは暗くなっている。


 思いのほか

 時間が過ぎていたらしい。

 

「いちたち、

 夕餉の準備してるかもよ。」


 ハクが苦笑した。


「あいつら、

 夕餉よりも酒盛りをしていそうだが……」


 その様子を思い浮かべて、

 透子は小さく笑った。


 しかし───


 胸の奥のざわつきは

 まだ消えていない。


 呼魂鈴の謎。


 三百年前の雅。


 そして、

 黄泉守を誰かが呼んでいた

 その理由。


 その謎だけが、

 静かに透子の胸に残り続けていた。

 

 

 

 

 

 案の定というか。


 座敷では、

 盛大な酒盛りが催されていた。

 

「おかえりなさーい!」


「主様! 遅かったですな!」


「待ちくたびれましたぞ!」


 そこには空になった酒瓶が

 いくつも転がり、

 いちが買ってきた土産も

 底がつきかけていた。


「追加の酒

 持ってきたよー。」


 そこにのんびりと猫又がやってきた。


「あ、主様。

 遅かったね。」


「……お前ら。」


 そんな様子に透子は

 ふふっと笑いが溢れた。


「夕餉はどうした。」


「ちゃんと用意してます!

 ほら!」


 いちが指した先には

 湯気のたつ鍋が置かれてあった。


「酒盛りついでに作りました!

 河童さんが!」


「ついでなのか……

 何故お前が胸を張って言うんだ。

 作ったのは河童だろうに。」


 えっへんと酒を片手に威張るいちの横で、

 河童はビクッと肩を揺らした。 

 

「お、おいらは頼まれたから作っただけだ……」


「河童さんのお鍋は

 とーっても美味しいんですよ!」


「そうそう!」


「酒の締めはやはり

 鍋に限る!」


「まあ、まだ締めんがな!」


「主様!

 早く食べましょう!」


 男は呆れたように

 ため息をついた。


「まったく、お前らときたら……」


 呆れてはいたが、

 どこか慣れた様子だった。


 男は鍋の前に座ると、

 器に盛り始めた。


「ささっ、透子様はこちらですよ!」


 いちに手を引かれて

 男の隣に座った。


「透子様は

 主様に食べさせてもらってください!

 あーんって。」


 あーんと大きく口を開けたいちに、

 透子は目を瞬かせた。

 

「あ、あーん?」


 透子は小さく首を傾げた。


「あーん。」


 いちは大きく口を開けたまま、

 いつの間にか隣にいた猫又の方を向いた。


 猫又は少し考えて、

 持っていたスルメを

 ぐっといちの口に押し込んだ。


「むぐっ!」


「いち、お前は何を言っているのだ……」


「ゴクン……

 だって!

 仲の良い夫婦はそうすると

 聞きましたよ!」


 男は即座ににいちの頭を小突いた。


「あいたっ!」


「まったく……

 誰から聞いたのだ。」


「ハク様です!」


「えっ、俺!?」


 鍋から何をよそうか迷っていたハクは、

驚いて声が裏返る。


「ハク……」


 冷めた目がハクを射抜く。


「いやいや!

 違うよ!俺じゃないって。

 あっ!

 多分狸だ!狸!」


「おい!

 濡れ衣を着せるな!」


 向こうの方から

 狸が抗議の声を上げる。


 座敷はたちまち

 笑いに包まれた。


「ふふっ。」


 透子は思わず笑ってしまった。


 男はそんな透子の笑顔を見て、

 肩の力が抜けるのを感じた。


 その笑顔が見られただけで

 今は十分だ……


 男はふっと目を細めた。

 

「透子、

 冷める前に食ってしまえ。」


 男はよそった器を透子に手渡した。


「はい。

 いただきます。」


 ふうふうと熱さを冷まし、

 口に運ぶ。


「……美味しい。」


 微笑む透子に

 その場にいる全員が癒された。


「そうでしょう!

 頑張ってつくりましたから!」


「河童がな。」


 いちにつっこむハクに

 一同笑いに包まれた。

 

 「細かいことは気にしません!」


 いちは胸を張った。


「いや、駄目でしょ。」


 猫又は呆れつつ酒を飲んだ。


「透子様が美味いと言ってくれた。

 おら、それだけで十分だ……」


 河童は困ったように頭の皿を撫でた。


「はい。

 とても、美味しいです。

 ありがとうございます。

 河童さん。」


 透子がそう言うと

 河童は照れたように笑った。

 

 

「そ、そうかぁ。

 ならまた作るだよ。」


 河童は照れくさそうに頬をかいた。


「本当ですか?

 嬉しい……」


「透子様は何でも

 美味しそうに食べてくださいますし、

作りがいがありますね!

 河童さん!」


「んだ。」


「そうだな!

 透子様が食べてるのを見ると、

 こっちも腹が減る!」


 男は皆の楽しそうなやり取りを見ながら、

 静かに酒をあおった。 

 

 酒の香りに、

 鍋の湯気。


 妖たちの笑い声。


 透子が来てから

 さらに賑やかになったこの屋敷を

 男は居心地良く感じていた。


「主様?」


 不意にいちが話しかけた。


「なんだ。」


「楽しんでますか?」


「ああ。」


「なら笑ったらどうです。」


「笑っているが。」


「どこがです?」


 避難めいた声に男は少し黙る。


「……目だ。」


「分かりませんよ!」


「そうか?」


 少々困ったような声を出す男に、

 座敷は再び笑いに包まれた。

 

 男は皆の笑い声を肴に、

 酒をあおるのだった。

 

 五話 賑やかな夕餉 [完]

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ