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死神様は生贄の娘を離さない 第二巻  作者: 武村


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三話 黄泉に迷いし娘

『これは、

 黄泉に迷いし一人の娘について

 記録したものである。』


『後の世の為、

 ここに書き記す。』


 男は次の頁をゆっくりと捲った。

 

  

 今より三百年ほど昔の話である。


 とある村に

 一人の娘が住んでいた。


 名を───みやびという。


 人と妖の境界が曖昧だった頃ではあるが、

 妖が見える人間は稀であった。


 雅もその一人。


 妖が見えていた。


 人には見えない者たちと

 語らい、時には救いの手を差し伸べる。

 人も妖も関係なく。


 村人たちは、

 雅に頼めば安心だと、

 恐れ忌み嫌うどころか、

 崇め敬った。


 そうしていつしか


 神の巫女

 

 と呼ばれるようになっていた。

 。 

 

「巫女様! 巫女様!」


「どうしたの?」


 村人の一人が

 血相を変えて、

 雅のいる社に入ってきた。

 

 息を切らしながら駆け込んだ男は、

 雅の前に膝をついた。


「助けてくれ!

 大変なんだよ!


 あ、あいつが……」


 慌てふためく男の話は

 要領を得ない。


「落ち着いて。

 何があったの?」


 雅は静かに声をかけた。


「りょ、猟師の一人が……

 帰ってこないんだ!」


「いつから?」


「昨日からだ。

 朝から、猟師三人で山に入ったらしいんだが、

 途中で一人いないことに気づいて。

 ……それで、二人は昼頃戻ってきたんだが。」


「もう一人はまだ帰らないのね……」


 雅は男の話を聞きながら、

 ゆっくりと目を閉じた。


「村の男衆で探したんだが、

 全然見つからねえ。

 ……足跡も、はぐれた場所から一人分消えてたんだ。」


「……神隠し、かもしれないわ。」


 社の中に

 びゅうっと一陣の風が入り込んだ。


 雅は目を閉じたまま、

 感覚を研ぎ澄ます。


 人には聞こえない音を、

 雅は拾った。

 

 

『オイデ……オイデ……』


 人ではない。

 雅は瞬時にそう思った。


 そして、


『助けてくれ……』


 か細い、人の声だった。


 雅はゆっくりと瞳を開く。


「まだ、生きているわ。」


 雅はすっと立ち上がる。


「……私が、独りで行く。」 

 

「そんな! 独りなんて!

 巫女様に何かあったら!」


「大丈夫。」


 雅は優しく男に言った。


 私が行かなければ。

 助けを待ってる人がいる。


 それに、

 人ではないあの声。


 調べる必要があるわ…… 

 

 雅は社に置いてあった提灯を手に、

 社の入口へと向かった。


「日暮れ前には戻るわ。」


「巫女様……」


 男は不安げな声をあげた。


「大丈夫。

 必ず戻るから、心配しないで。」


 雅は男を安心させるように微笑んだ。


『オイデ……』


 山の方からあの声が聞こえる。


 着物の裾をくいっと誰かに引っ張られた雅は、

 視線を下へ降ろした。


『行っちゃうの?』


 それは小さな狐の妖だった。


「ええ。

 助けを呼んでる人がいるの。」


『だけど、

 あそこは良くないヤツがいるよ。』


 狐の妖はクイクイと裾を引っ張った。


「分かってるわ。

 でも大丈夫だから。」


 膝を折った雅は

 優しく狐の頭を撫でた。


「ありがとう。」


 そして、雅は

 一人で山の中へ入っていった。


 この後、

 自分も神隠しにあうとは

 思ってもいなかった。

 

 三話 黄泉に迷いし娘 [完]

 


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