三話 疑念
その日の夜。
皆が寝静まった静かな屋敷の一角。
黄泉守の部屋で、
男とハクは腕を組んで座っていた。
「……透子の前では
話せなかったが。」
「不可解なことが多すぎる。」
「ああ。
あの子のあの治癒の速さ。
妖の域を超えている。」
男は考え込むように、
目を閉じた。
「あの子の傷は、
けっして浅いものではなかった。
臓器には達していなかったが、
深く切り裂かれていた。」
「あの治りの速さ。
神の力にも匹敵する。
しかし……」
そんなはずはないと、
男は首を振った。
「神々は、
人、ましてや妖と
交わることは禁止されている。」
「掟か……」
「ああ。
どんな力を持った子が生まれるとも
限らん。」
男の頭に、
ある神の名がよぎった。
「……遊天神。」
「遊天神?
天界の神の一柱だったか。」
「ああ。
いや、まさかな……」
証拠がない。
断定はできなかった。
「……半妖の男に
やられたと言っていたな。」
「あの子を見つけたとき、
確かにそう言っていた。」
男は深いため息をついた。
「はぁ……。
いったい何者なのだ。
そいつは。」
ハクも息を吐きながら、
首を横に振った。
「残穢くらいしか、
手がかりがないからね。」
「ならば、
その残穢を辿ればよい。」
ハクは眉を僅かに寄せた。
「いや。
あの子が倒れていた場所に、
残穢はおろか、
気配も
影も
何一つ感じなかった。」
「あの子の腹以外に、
残穢は残っていなかったよ。」
男は腕を組み直した。
「……巧妙に
姿を消す術を持っているのか。」
「……あるいは、
あの子自身が半妖の男なのかも。」
男ははっとして、
ハクを見つめた。
「そんなこと……」
「有り得ないとは
言いきれないだろ?」
「……しかしな。
そんな兆候微塵もなかったぞ。」
「……確かに、そうなんだけどさ。」
「姿を変えれたとしても、
わずかにゆらぎが残る。
しかし、
桔梗からそれは感じなかった。」
「ああ。
そうだね……」
二人は
振り出しに戻った。
「……ここで考えても、
推理の域をでない。」
「ああ。」
男は静かに頷いた。
「もう一度、
天界へ行って来る。」
ハクは顔を上げた。
「遊天神のことかい?」
「ああ。
もう少し、あの神について
聞かねばならぬ。」
三話 疑念 [完]




