二話 ぬくもり
部屋の空気が
しんと静まり返る。
淡々と語られた内容は、
あまりにも
重いものだった。
目の前の少女は、
愛されることを知らず、
愛に飢えている。
そんな風に見えた。
「……そうか。」
黄泉守は目を閉じて、
小さく息を吐いた。
「それで、
父親の名は何と言う。」
桔梗は首を横に振った。
「父様の名前。
なんて言うのか知らない。」
「でも……
母様は、
父様は尊いお方で、
すぐ会える人じゃないって。」
(尊いお方……)
黄泉守は
ある神のことを思い浮かべたが、
すぐにその考えを改めた。
(まさか、
そんなはずはない……)
黄泉守は腕を組んだ。
いったいこの娘は何者なのか。
あの傷の治り方。
そして、
一切痛みを感じていないような様子。
常の妖ではない。
「桔梗ちゃん……」
透子は悲しげに眉を下げて、
桔梗の手を握った。
「辛かったね……」
「辛い?」
桔梗は首を傾げた。
「どうして、辛いの?」
本当に分からないような顔だった。
透子はそんな桔梗の様子に、
胸を痛めた。
「……私もね、
ここに来るまでは
心を殺して生きてきたの。」
透子の目に涙が滲む。
「本当は辛かったはずなのに。
苦しかったはずなのに、
知らないふりをして
生きていたの。」
ぽろりと透子の瞳から、
涙がこぼれ落ちた。
「……どうして
泣いているの?」
「桔梗ちゃんの代わりに
泣いてるの。」
「私の代わり……?」
「いつか、
桔梗ちゃんも
自分のために泣ける日が
きっと来るわ。」
桔梗のために涙を流す透子に、
男はその涙を優しく拭ってやった。
桔梗は未だに涙を流す透子と、
それを拭ってやる男を見つめた。
握られた手は
じんわりと暖かかった。
「……おねえちゃん。
泣かないで。」
桔梗は
おずおずと、
透子を抱きしめた。
小さな身体では、
透子を包むことはできなかったが、
桔梗は本当に
透子の涙を止めたかった。
「桔梗ちゃん……」
透子は少し目を見開くと、
ふっと微笑んで
優しく抱きしめ返した。
「……母様が、
よくこうしてくれたから。」
男は黙って
抱き合う二人を見つめていた。
桔梗は初めて
自分のために涙を流す誰かを知った。
透子もまた、
誰かの優しさを受け取っていた。
二話 ぬくもり [完]




