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死神様は生贄の娘を離さない 第二巻  作者: 武村


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七話 守るべき日常

 屋敷に戻ってきた二人は、

 客間へと向かう。


「透子さんは、

 しばらく外へ出さない方がいい。」


「ああ。」


 男は眉間に皺を寄せた。


「また雅の時のように、

 狙われるとも限らん。」


 ハクも静かに頷いた。


「用心するに越したことはない。」


「ああ。

 透子は俺が守る。」


 男は客間の襖に手を掛けた。


「入るぞ。」


「はい。」


 透子の声にわずかな安堵を覚える。


 男は静かに襖を開けた。


 部屋では透子と雪女が

 楽しげに笑い合っている。


 その穏やかな光景に

 男は目を細めた。


 この何気ない日常を、

 この笑顔を、

 何があっても守らなければ。


 男は小さく息をついた。


「おかえりなさい。

 黄泉守様。」


「ああ。」


 透子の穏やかな声に、

 男はしばしの安らぎを得た。


「何を話していたんだ?」


 透子は少し照れながら答えた。


「雪女さんのお話を

 聞いていました。」


「雪女の?」


「そう。

 女の子同士、

 恋のお話よ。」


 雪女の声に

 男は僅かに目を開く。


「お前、

 女の子という歳ではないだろう。」


「まっ!」


 雪女は目を丸くした。


「失礼ね!」


 雪女はムッとした。


「見た目はまだ若いって

 評判なのよ!」


「そうか。

 良かったな。」


 男は真顔だった。


「そうか、

 じゃないわよ!」


 ハクはふっと吹き出した。


「主。

 女性に年齢の話題は失礼だよ。」


「そういうものか。」


 やはり真顔の男に

 雪女はさらにムスッとした。


「そういうものなんだよ。」


「ハク!

 もっと言ってやって!」


「ふふっ。」


 透子は思わず笑ってしまった。


「透子さんまで!」


「あっ、違うんです。

 黄泉守様の反応が面白くて。」


 透子は男をちらっと見て

 また笑いがこぼれた。


「雪女さんは、

 とっても綺麗で

 美人さんです。」


 雪女はまた目を丸くすると、

 ふふっと透子に微笑んだ。


「透子さん。

 やっぱり私と一緒に雪山へ

 いらっしゃいな。」


「駄目だ。」


 男は即答した。


「透子はやらん。」


 誰にも渡さんと、

 男は透子を守るように

 抱き寄せた。


「まあ!

 冗談も通じないのね。」


「透子さんのこととなると、

 いつもこうさ。」


 ハクは苦笑しながら

 小さく肩をすくめた。


 雪女はふっと笑うと、

 すぐにその笑みをおさめた。


「それで?

 何か気になることはあった?」


「ああ。」


 男の表情が、

 瞬時に真剣味を帯びる。


「森で、

 妙なものを見つけた。」


「森の木々に、

 奇妙な爪痕が残されていた。

 それも、最近のものだ。」


 ハクの言葉に、

 透子は息を呑んだ。


「やっぱり……

 もう来ているのね。」


 雪女は顔を曇らせた。


「ああ。

 ここから離れてはいるが、

 結界のすぐ外側まで来ている。」


 雪女は険しい表情のまま、

 小さく息を吐いた。


「……私、

 しばらくここにいるわ。」


「助かる。」


 男は静かに頷いた。


「しかし良いのか?

 冬の支度は。」


「冬を連れて来るのは

 私だけじゃないわ。」


「雪山の子たちに

 後で伝えるから大丈夫。」


 そして雪女はふっと優しく微笑んだ。


「それに、

 透子さんとまだまだお話したいもの。」


「透子さん。」


「はい。」


「私、ここにいてもいいかしら?」


「はい!

 私も、もっと雪女さんと

 お喋りしたいです。」


 透子も嬉しくて、

 笑い返すと、

 雪女もまた笑う。


「ふふ。

 本当に可愛い人ね。」


 男はそんな二人を見つめて、

 わずかに頬を緩ませた。


「雪女が残ってくれるのは心強いね。」


 ハクの言葉に

 男も小さく頷いた。


「ああ。

 そうだな。」


「いちに部屋を用意させよう。」


「じゃあ、俺が伝えてくるよ。」


 ハクはそう言って静かに立ち上がった。


「ああ。頼む。」


「うん。」


 ハクは軽く手を振って

 客間を後にした。


 ハクが出ていった後、

 部屋に残った三人は

 今後の話を始めた。


「透子。」


「はい。」


「しばらく外には出るな。」


 男は透子を真剣な眼差しで

 見つめた。


「何が起こるか、

 まだ分からんからな。」


「……分かりました。」


「私もいるから大丈夫よ。」


「雪女さん。

 ありがとうございます。」


 雪女の穏やかな声に、

 透子の心も少し和らぐ。


「庭までなら出てもいいでしょ?」


「……そうだな。

 庭までならかまわん。

 結界の中だしな。」


 そう雪女に答えた男だったが、

 正直なところ、

 屋敷から出したくはなかった。


「本当ですか?」


 透子の明るい声に、

 男は頷く。


「ああ。」


 屋敷に閉じ込めておくのも、

 気がまいるかもしれない。


「庭までだぞ。」


「はい!」


 嬉しそうにする透子を見つめながら、

 男は小さく息を吐いた。


 早急にこの件を片付けなければ。


 まだ見ぬ敵を睨むように、

 男は窓の外に目を向けた。


 七話 守るべき日常 [完]


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