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死神様は生贄の娘を離さない 第二巻  作者: 武村


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六話 静寂の綻び


 客間を出た二人の表情は険しかった。


 廊下を進みながら

 二人は半妖の男について

 話していた。


「……黄泉蜘蛛を覚えてる?」


「ああ。」


「あいつが言っていた半妖の男と、

 今回の件。

 同一人物なんじゃないかな。」


 ハクの言葉に

 男は眉間に皺を寄せた。


「俺も、

 同じことを考えていた。」


「しかし、

 おかしくないか?」


「うん。

 あの時と同じ奴だとして、

 そんなに長く生きられるものなのか?」


 男もハクの言葉に頷く。


「半妖が、

 それほど長く生きるなど

 聞いたことがない。」


「……そいつ、

 ただの半妖じゃないのかもね。」


「ああ。」


 二人は神妙な面持ちで

 屋敷の外へと出た。


 冷たい風が

 二人の頬をかすめる。


 冬はもうそこまで

 迫ってきていた。


 ハクはふうと小さく息を吐いた。


「結界は主に頼んだよ。」


「俺は山を見回ってくる。」


「ああ。頼む。」


「了解。」


 ハクは背を向きかけて、

 ふと足を止めた。


「何かあればすぐ知らせるよ。」


「ああ。

 気をつけろ。」


「主も。」


 ハクは軽く手を振り、

 二人はそれぞれ、

 別の方向へ歩き出した。


 冷たい風が

 二人の間をすり抜けていく。


 山は静かに

 冬の訪れを待っているようだった。



 ハクは黄泉守と別れた後、

 まずは屋敷の周囲を見回った。


 冷たい風が

 頬を撫でる。


 いつもと変わらないように見えた。


 ハクはもう少し奥へ

 足を運ぶことにした。


「……異変は、ない。

 もっと奥へ行ってみるか。」


 ハクはさらに奥へと進む。


 辺りはやはり、

 いつもと変わらない

 静かな森だ。


 落ち葉を踏み締めながら、

 何か見落としてはいないかと

 慎重に辺りを見回す。

 やはり、どこも変わらない。


 そう思った矢先だった。


 強い風が吹き抜ける。


 風は木々を揺らし、

 落ち葉を舞いあげる。


「ん?

 あれは……」


 落ち葉がひらりひらりと舞う先に、

 一本の木。


 その木の幹には

 大きな爪痕が見えた。


 獣でも

 人でもない。


 異様な気配をそこから感じた。


 ハクは木に近づいて、

 その傷を良く観察した。


「……新しい。」


 ハクはそっとその傷痕に

 指を添えた。


 ハクははっとして、

 別の木にも目を向けた。


 ハクは木に触れていた指を離す。


「なんだ、これは……」


 ハクは辺りの木々に

 目を向ける。


 この一本だけではない。


 転々と他の木々にも、

 同じような傷があった。


 その傷は

 直線上に続いている。


「目印か?

 まさか……」


 ここから屋敷は離れている。


 しかし、

 結界のすぐ外側でもあった。


 (偶然じゃない……)


 ハクは黄泉守に伝えるべく、

 屋敷へと急いだ。




 黄泉守はハクと別れた後、

 屋敷の中心にあたる

 屋根の上に立っていた。


 冷たい風が

 男の黒い髪をなびかせる。


 男は静かに

 屋敷全体を見渡した。


 張り巡らされた結界は、

 今も正常に動いている。


 屋敷を囲む山々も

 静かにそこにあった。


 乱れはどこにもない。


「念には念を入れるか……」


 男は深く息を吐き、

 ゆっくりと目を閉じた。


 男の周囲が、

 淡く金色に輝き始めた。


 その光は波紋のように広がり、

 屋敷を包む結界へと

 溶け込んでいく。


「……ん?」


 一瞬、

 違和感を感じたが、

 それはすぐに消えてしまった。


「気のせいか……」


 男は右手を

 天高く掲げた。


「結界よ。


 我が許しのない者、


 何人なんぴとたりとも、


 通すことなかれ。」


 瞬間──


 空気が澄み渡る。


 淡い金色の光が、

 屋敷全体を駆け巡る。


 結界は静かに、

 しかし確かに、

 さらに強固なものとなった。


 男はふうと、

 深く息を吐いた。


 この結界を超えられる者は

 恐らくいないだろう。


 それほどまでに

 強く固く張った結界を

 破る者ならば、

 その半妖は只者ではない。


「主!」


 慌てて戻ってきたハクは、

 屋根の上にいる男に向かって

 声を上げた。


 男は屋根から

 音もなく飛び降りる。


「何があった。」


 ハクのただならぬ表情に、

 男の視線が鋭くなった。


「主……

 見て欲しいものがある。」


 ハクは男を連れて

 森の奥へと進む。


 そしてあの爪痕の残る木の前に

 たどり着いた。


「見てくれ。」


「これは……」


 男はその傷に触れる。

 異様な残穢が

 僅かに感じ取れた。


 男は木に触れたまま、

 森を見回した。


「この一本だけではないな……」


 同じ残穢が、

 別の木々からも

 かすかに感じ取れた。


「ああ。

 あっちも、その先にも。」


 男はしばし思考を巡らせる。


「……結界を探っている。」


「……結界を破る方法を?」


 ハクの言葉に男は首を振る。


「いや、それは分からんが。」


「入り口を探っているのか。

 何か別の目的か……」


「いずれにせよ、

 放ってはおけないね。」


「ああ。

 まずは、屋敷の警戒を強める。」


「そうだね。」


 二人は踵を返し、

 屋敷への道を急いだ。


 森は変わらず静かだった。


 しかし、

 その静けさが、

 嵐の前触れのようでもあった。


 六話 静寂の綻び [完]




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