四話 手掛かり
屋敷に戻る朧車の中で
男は、骨董屋で
狐の店主から聞いた話を
ハクといちに語った。
「いったい誰が
透子様を呼んでいるんでしょうか……」
「全く手掛かりがないってのもねぇ。」
いちは顎に手を当て唸った。
ハクは腕を組んで何やら考え込んでいる。
「あ。」
ハクは何かに気づいたように
顔を上げた。
「主。
蔵を調べるってのはどうだい?」
「蔵か……」
「蔵があるのですか?」
「あるにはあるが……
最後に開けたのはいつだったか……」
男はわずかに眉を寄せた。
「あの蔵なら
古い物がたくさんあるし、
何か分かるかもしれないよ。」
「そうだな。
呼魂鈴の記録があるかもしれない。
戻ったら調べてみよう。」
男がそう言った時だった。
「呼魂鈴か!
それは懐かしい!」
外から朧車の大きな声が響いた。
皆の視線が、
一斉に御簾の向こうへ向く。
「朧よ。
何か知っているのか?」
男は静かに問う。
「ん?
主殿、覚えておらんか?
昔、呼魂鈴が鳴ったことがあったじゃろ?」
男はさらに眉を寄せて記憶をたどった。
「……そんなこと、あったか?」
「まあ、ワシが若かった頃じゃから。
覚えとらんでも無理はないわ。」
「朧車さんが若い頃って、
いったいいつのことです?」
いちは疑問を口にする。
「そうさな。
あの屋敷ができてすぐくらいじゃから……
ざっと三百年ほど前かのお。」
「さ、三百年!?」
あまりの数字に、
透子は驚き、声が裏返った。
「な、長生きですね。」
「妖じゃからのお。
ガハハっ!」
朧車は豪快に笑った。
しかし、男は笑わない。
固い表情で、先を促した。
「それで。
呼魂鈴が鳴ったのはその時か。」
「そうだ……」
朧車の声も真剣なものだった。
「呼魂鈴が鳴ったのは、
人の子が黄泉に迷い込んだ時じゃ。」
「人の子?
あ! 思い出した!
神隠しにあった少女か!」
ハクはその少女を思い出した。
「そうじゃ。
そして主殿、
お主がその娘を助けたのじゃ。」
朧車は懐かしむように呟いた。
「娘……」
「黄泉守様は、覚えておられないのですか?」
透子は男の顔を伺ったが、
目を閉じた男はわずかに眉間に皺を寄せるだけだった。
「すまんが、覚えがない。」
男は腕を組んだ。
「三百年も昔だからねぇ。
主らしいと言えばそれまでだけど。」
ハクは苦笑した。
「そういえば、
今もあの頃とよく似ているね。
あの時も、
黄泉で倒れていた娘を見つけて、
放っておけなかったんだよ。」
「俺が?」
「そうそう。」
ハクは頷いた。
「今みたいに、
その子の世話を焼いていただろう?」
透子は思わず男を見上げた。
男は気まずそうに頬をかいた。
「……別に、世話を焼いているわけではない。
……余計なことを言うな。」
「事実だけど。」
ハクは大袈裟に肩をすくめた。
「似ていると言えば、
その娘、透子様に似ていた気がします。」
いちもその少女を思いだしていた。
じっと透子を見つめた後、
いちは何度も頷いた。
「やっぱり、どことなく似ています。」
「私に?」
透子は思わず聞き返した。
「容姿が似ているとかではなくてですね……」
「雰囲気かな。」
説明に困ったいちの言葉を、
ハクが継いだ。
「そう!
それです!
優しいところとか。
あの娘も妖を恐れませんでした。」
「そうじゃ。
その娘もお主と同じ、
妖が見えておったわ。」
車内が一気に静まり返った。
「私と、同じ……」
透子は無意識に胸元へ手を伸ばした。
「稀におるがな。
だが本当に珍しい力じゃ。
本来、我ら妖と人は交わらん。」
「……何故、俺だけそれを思い出せんのだ。」
男は深く息を吐いた。
「まあまあ。」
ハクは苦笑しながら続けた。
「俺たちも今の今まで忘れてたし。
蔵に行けばもっと詳しいことが分かるかもしれない。」
「……」
透子の胸はざわついていた。
もしかしたらその人が
私を呼んでいるのかもしれない。
四話 手掛かり [完]




