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死神様は生贄の娘を離さない 第二巻  作者: 武村


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四話 忍び寄る影

「いちです。

 お茶をお持ちしました!」


「入れ。」


 男が静かに答えた。


 すっと襖を開けた先、

 空気の重さに、

 いちは顔を強張らせた。


「あ、あの。

 私、お邪魔でしたか?」


「いや。

 構わん。入れ。」


 いちは皆にお茶を配りながら、

 男の様子を窺う。


「では私は、

 下がらせていただきますね……」


「いや、

 お前も残れ。

 伝えておきたいことがある。」


 男の静かな声に

 いちは緊張して

 背筋を伸ばした。


「は、はい!」


 そして男は、

 いちに雪女の来訪の理由と、

 半妖の男について、

 話して聞かせた。


 雪女も時折言葉を交えながら、

 雪山での出来事を話した。


 話が進むうちに、

 いちの表情が固くなっていく。


「……怖いです。

 主様は、

 心当たりがないのですか?」


「全くないな。」


 男は静かに首を振った。


「いちよ。

 屋敷の者たちにも

 知らせてくれ。」


「承知しました。」


 いちが席を立つと、

 男はいちを呼び止めた。


「いち。

 ハクに客間に来るよう

 伝えてくれ。」


「はい。

 では、失礼します。」


 いちは頭を下げると、

 客間を後にした。


 いちが部屋を出た後、

 雪女は男に訊ねた。


「ハクは何か知ってるかしら?

 あの人、情報収集は得意でしょ?」


「どうだろうな。

 まあ、念のためだ。」


「ハクはあなたより

 顔が広いしねぇ。」


 雪女はくすりと笑った。


「……余計な世話だ。」


 男はわずかに眉間に皺を寄せ、

 いちの用意した茶を手に取った。


 しばらくしたのち、

 ハクが客間へやってきた。


「入るよ。」


「ああ。」


 すっと襖が開く。


 ハクは部屋に入ると、

 雪女を見て微笑んだ。


「やあ、久しいね。

 雪女。」


 ハクは皆を一瞥すると、

 穏やかな笑みを収めた。


「随分と重い空気だけど、

 何かあったのかい?」


 男はハクが座るのを待ってから、

 半妖の男について話し始めた。


 雪女から聞いた話を、

 順を追って語った。


 ハクは話を聞くうちに、

 表情が固くなる。


「そいつ、

 いったい何者なんだ?」


「俺にも分からん。

 身に覚えもない。」


「……嫌な感じがする。」


「念の為、

 結界は強めた方がいいかもね。」


 ハクの言葉に男も頷く。


「ああ。

 俺もそう思っていた。」


 男は静かに立ち上がる。


「透子。」


「はい。」


 透子は男を見上げた。


「俺は今から、

 結界の強化をしてくる。」


「分かりました。

 お気をつけて。」


 透子の不安げな顔を見て、

 男はふっと小さく笑う。


「大丈夫だ。」


 男はそう言うと

 透子の頭を優しく撫でた。


「すぐ戻る。」


 襖に手をかけた時、

 ハクが呼び止めた。


「待って、主。」


 男は襖にかけた手を止めて、

 静かに振り返った。


「俺も行くよ。」


 ハクも立ち上がった。


「そうか。」


「結界は主に任せるけど、

 見回りは俺がしよう。」


「ああ。頼む。」


 男はハクの言葉に

 静かに頷いた。


「私は、

 あなたたちが戻ったら

 一度山へ戻るわ。」


 雪女は窓の先を見つめた。


「もしかしたら、

 まだあの半妖が

 山にいるかもしれないし。」


「ああ。

 分かった。

 それまで透子を頼む。」


 雪女は頷くと、

 透子に向き直った。


「透子さん。

 黄泉守が戻るまで

 私と一緒でもかまわないかしら?」


「はい。

 よろしくお願いします。」


 透子が笑顔で返事をすると、

 雪女も微笑み返した。


 男は一度透子を見た。


「では、行ってくる。」


「はい。

 お気をつけて。」


 男は頷くと、

 襖を静かに開けた。


 そして男とハクは

 客間を後にした。


 部屋には

 透子と雪女の二人だけ。 



 四話 忍び寄る影 [完]




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