三話 風と共に
客間は静まり返っていた。
透子は不安に駆られた。
せっかく
黄泉守様の心を取り戻せたのに。
これからは楽しい日々が待っていると
何も疑わずに信じていた。
それなのに……
冷たい風が、
カタカタと窓を揺らす。
「……そいつがこの山に入ったとして、
この屋敷を見つけられるかは
そいつ次第だな。」
「え?」
透子は首を傾げた。
男は透子を見ると、
優しく口を開いた。
「この屋敷には
結界が張ってあるからな。」
「結界が?」
「ああ。
人であろうと妖であろうと、
悪意ある者はまず辿り着けない。」
透子はほっと胸を撫で下ろした。
「だから私も大丈夫だとは
思ったのだけれど、
念の為に知らせに来たの。」
「そうだったのですね。」
「ただ……」
雪女と黄泉守は目を合わせる。
「あの半妖は、
ただ者じゃない。
そんな気がするの。」
「……この結界を
越えるようであれば……」
男の声が低くなる。
「奴は、並の妖ではない
ということか……」
部屋の空気が張り詰めた。
「奴が俺に執着する理由も
気になるが。」
「透子や、屋敷の者たちに
害をなすなら。」
「容赦はせん。」
「……そうなれば、
私も共に戦うわ。」
男と雪女は静かに
頷き合った。
「黄泉守様……」
透子は男を見つめた。
男は透子を安心させるように、
小さく微笑んだ。
「大丈夫だ。」
透子の手を優しく握る。
「お前は、俺が守る。」
男の声に、
透子の肩から力が抜けた。
「はい。」
それでも、
胸の奥に巣食う不安は
消えない。
窓の外では、
静かに風が吹いていた。
♦♦♦♦♦
「なんだぁ。
この山だったんだ……」
山のふもとで、
男がニコニコと笑っていた。
「酷いなぁ。
黄泉守様。
なにも隠れなくていいじゃないか。」
男の笑顔は優しげでもあった。
しかしその瞳の奥は
笑ってはいない。
静かな闇だけが、
広がっていた。
三話 風と共に [完]




