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死神様は生贄の娘を離さない 第二巻  作者: 武村


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三話 宴

日が落ちた頃

 いつも朝餉を囲む座敷は、

 宴の支度で賑わっていた。


「料理ができただ!」


「酒持ってきたよー!」


「きたきた!」


「酒だ! 酒だ!」


「ささ!

 乾杯しましょうぞ!」


 男はやれやれと息を吐いた。


「騒がしいな。」


「お祝いですからね。」


 透子はふふっと笑う。



「ほら主。

 早く座りなよ。」


 ハクに促されて、

 男は席に座る。


 透子も手を引かれて、

 隣に座った。


「今日は主様が主役ですぞ!」


「さっ!

 乾杯の音頭を!」


「いや、俺は別に……」


 男は照れを隠し、

 ぼそりと呟いた。


 ハクが酒を持って

 男に近づく。


 男に無理やり盃を持たせると、

 そこへ酒をついでいく。


「今日は遠慮はなしだよ。」


 盃に並々と注がれた酒を見つめる。


 そこには

 わずかに眉を寄せて

 困ったような自分の顔が写っていた。 


「どうかした?」


 ハクの声に

 男は小さく首を振った。


「いや……。

 では頂こう。」


 男は盃を上げた。


「乾杯……」


 男の声を皮切りに、

 皆口々に声を上げる。


「乾杯!」


「かんぱーい!」


「乾杯!」


「乾杯!

 あー!酒が美味い!」


 男もぐっと酒をあおった。


「主。」


 ハクは盃を男に向けて

 掲げた。


「おかえり。」


 そう言ってハクも酒を一気に飲み干した。  

 男はわずかに目を見開いた。


 おかえり。


 その言葉が

 胸の中へ染み渡る。


「ああ……」


 男も静かに盃を掲げた。


「ただいま。」


 男は目を細め、

 ハクもふっと笑う。


 そんな二人を眺めながら、

 透子は嬉しくなって、

 一口酒を飲む。


「……美味しい。」


 あんなに苦いと思っていた酒が、

 本当に美味しいと感じた。


「透子様!

 前は苦いって

 渋いお顔をされてたのに。」


 いちが驚いて近寄った。


「おっ。

 透子さん。

 お酒飲めるんだね。

 もう一杯どう?」


 ハクはそう言って、

 透子の返事を聞く前に

 盃に注ぐ。


「おい。ハク。」


 男はすかさず止めようとする。


「まあ、まあ。

 今日は無礼講だよ。

 ね?

 透子さんももっと飲みたいよね?」


「はい!

 なんだか今日は

 お酒が美味しいんです。」


 透子は嬉しそうに

 盃を傾けた。


「ほらね。」


 ハクはさらに酒をつぐ。


 透子は嬉しそうにそれを飲み干す。


「美味しいです。」


「ハク。」


「大丈夫だって。」


 透子は二人のやり取りを見ながら

 にこにこ笑っていた。


「透子様。

 大丈夫ですか?」


 いちが心配そうに

 透子に問いかける。


「大丈夫ですよ。」


 透子はふわふわする頭で

 にこっと笑う。


「……酔ってるな。」


「酔ってませんよ?」


 透子は首を傾げる。


「ハク。」


「なんだい?」


「もうやめろ。」


「えー。

 まだ二杯だよ?」


「駄目だ。」


 男は完全に透子の保護者になっていた。


「過保護だなぁ。」


「過保護じゃない。」


「過保護だよ。」


「違う。」


 男たちの応酬を眺めながら、

 透子は自ら酒をついで飲んでいた。


「酔ってないのに。

 黄泉守様は過保護です。」


 透子は飲みながら

 ぼそりと呟いた。


「なっ!」


 男は言葉が続かなかった。 


「ほらね。

 透子さんもまだまだ

 飲み足りないってさ。」


「お酒、美味しいです。」


 透子の頬が赤く染まる。 


「今日はこれで終いだ。」


 男はそう言うと、

 透子の盃を取り上げた。


「あっ!」


 透子は取り返そうと

 手を伸ばす。


 しかし男はそれよりも

 高く手を上げる。



「返してください!」


「駄目だ。」


 男はさらに高く上げる。


「意地悪。」


 透子は頬を膨らませた。


「……意地悪ではない。」


「意地悪です。」


 透子はむうっと

 顔をしかめた。


「過保護です。」


「過保護じゃない。

 もう顔が赤い。

 酔ってるだろ。」


「私はもう子供ではありません。」


「俺にとってはまだ子供だ。」


「酷い!

 いちさん!

 そのお酒ください!」


「ええっと……

 どうしましょう。

 ハク様……」


 困ったいちは

 ハクに助けを求めた。 


「うーん……

 後が怖いから

 主に従おう。」


「ハクさん、酷い!」


「ごめんなさい。

 透子様……

 怒ると主様は怖いんです。」


 いちもハクも苦笑いを浮かべる。


 透子はさらに頬を膨らませて抗議した。


「みんなして酷いです。

 子供じゃないのに。」


「また今度飲めばいいだろ。」


 男は優しく語りかける。

 それでも透子は納得しなかった。


「黄泉守様……」


「なんだ?」


「……嫌いです。」


「……」


 男は目を丸くして固まった。 


 座敷中の者たちの視線が

 男に注がれる。


「主?」


「主様?」


「……」


 男は固まったまま動かない。


「と、透子様!?

 さっきのは嘘ですよね?」


 慌てるいちに、

 透子は首を傾げた。


「お酒をくれない黄泉守様、

 嫌いです。」


 ぷいっとそっぽを向く透子を、

 男はぼーっと見つめる。


 周りの者たちは

 これは重症だなと苦笑する。


「でも……」


 透子はちらっと横目で男を見た。


「本当は、

 大好きです。」


 男の目はさらに丸くなった。


「ハハハッ!

 もう無理。

 限界!」


 ハクは腹を抱えて笑った。


「ハク様!

 駄目です。

 ぬ、主様に失礼です。

 ふふっ……」


 いちも我慢の限界だった。

 笑いが漏れてしまう。


「おやおや。」


「主様、顔が赤いですぞ。」


「耳も赤いですなあ。」


「いやー、めでたい!」


「宴じゃー!」


「うるさい!」


 男は盛大に照れていた。


 笑い声が座敷中に響き渡る。


 なんて幸せなんだろうと、

 透子もつられて笑っていた。


「いやぁ、明日が楽しみだね。」


 ハクが笑いながら、

 手酌で酒をあおる。


 まだ若干顔が赤い男に、

 ハクが酌をする。


 男はそれをくいっと飲み干す。


「明日か……」


 今まで明日が来ることを

 喜んだことがあっただろうか。


「明日も明後日も、その次も。

 楽しみだね。」


 ハクはさらに酒をつぐ。


 男は盃を見つめて、

 ふっと笑った。


「……そうだな。

 楽しみだ。」 


 隣では、


「猫又さんは、

 ふわふわですねぇ。」


 なんて言いながら、

 透子が猫又を抱いて笑っている。


「透子!

 撫ですぎ!!」


 揉みくちゃにされている猫又は

 やめろやめろと暴れている。


 それを見て騒ぐ妖たち。


 笑い声が絶えなかった。


 皆の楽しげな様子を眺めながら、

 男は思うのだ。


 こんな日も悪くないな……


 と。


 三話 宴 [完]





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