二話 帰還
三人は、
彼岸花の道を抜けて、
ようやく現世へ戻ってきた。
黄泉の門を抜けると、
沈みかけた夕日が
三人を出迎えていた。
ハクは大きく伸びをした。
「はあ……
帰ってきたねぇ。」
「はい。
帰ってきました。」
「現世の空気はやっぱり
気持ちがいいね。
主。」
「ああ。
そうだな。」
三人は清々しい気持ちで、
屋敷へと向かった。
男の手は繋がれたまま。
透子は握られた手を
静かに見つめる。
「ふふっ。」
「どうかしたか?」
「いえ。
私も、嬉しいんです。」
「そうか……」
男は透子の笑顔が眩しくて、
目を細めた。
自然と
繋いだ手に力が入る。
透子も優しく握り返した。
そんな二人を、
ハクは楽しげに眺めていた。
男が玄関を開ける。
「おかえりなさい!」
「おかえりなさい!」
「主様!
待ちわびておりましたぞ!」
「ハク様も、透子様も!
お帰りなさいませ!」
「無事でなにより!」
妖たちが
今か今かと
三人の帰りを待っていた。
そんな大歓迎に
三人は驚きつつも
笑顔で返した。
「ただいま戻りました!
皆さん!」
「透子様!!」
いちが堪らず
透子に抱きついた。
「いちさん!
ご心配をおかけしました。」
「ほんとですよ!
みんな、ずっと心配で心配で!」
いちは目にいっぱいの涙を浮かべていた。
「ごめんなさい。」
透子も同じように涙を浮かべる。
二人は今にも泣きそうだった。
「透子!」
「わあ!」
抱き合う二人の間に、
猫又が飛び込んだ。
危うく倒れそうになる透子を
後ろから男が支えた。
「透子!
おかえり!」
猫又はぎゅうぎゅうと
透子を抱きしめた。
透子は二人から抱きしめられながら、
後ろから肩を男に支えられながら、
無事帰れたことを
嬉しく思っていた。
「ふふっ。
ただいま帰りました。
猫又さん。」
透子は優しく抱きしめ返す。
「やれやれ。
みんな透子さんばっかりだね。」
「……まったくだ。
主が帰ったというのに。」
「そうは言うけど、主。
嬉しそうだね。」
「……うるさい。」
男の声は柔らかだった。
そんな男の変化に、
ハクは目を細めた。
良かったね。
主。
本当に……。
「さあ!
みんな!
酒を飲もう!」
ハクが皆の輪に入る。
「おい。ハク。」
「なんだよ主。
今日くらいいいだろ。
無事に戻れて、
主の欠けた心も戻った。
祝いだ!
祝い!」
男は呆れつつも、
まあいいかと、
頷いた。
「やったー!」
「酒だ!」
「飲もう!
飲もう!」
屋敷のもの達は
さらに大騒ぎ。
酒だ酒だと騒ぎながら、
宴の準備を始める。
「河童さーん!
お料理の準備お願いします!」
「分かっただ!」
いちの呼びかけに、
河童が元気に返す。
「猫又!
一番良い酒、持ってきてくれ!」
「にゃあ!」
ハクの声に
猫又も大きな声で答える。
透子をもう一度ぎゅっと
抱きしめて、
猫又は駆け出した。
皆が騒ぎながら、
それぞれ準備に取り掛かる。
そんな様子を眺めながら、
透子と男は顔を見合せた。
「みんな、楽しそうですね。」
「そうだな。」
「黄泉守様も、
楽しそうですね。」
透子はふふっと笑った。
「そうか?」
男もつられて、
ふっと小さく微笑んだ。
その瞬間。
さきほどまでの騒がしさが、
一気に静まり返った。
「主様が……」
「……笑った?」
「……本当に主様?」
「これは良きものを見た!」
「宴じゃ!」
一斉に向けられた視線に、
男は少したじろぐ。
「な、なんだ。」
ハクはふっと笑う。
「皆、嬉しいんだよ。」
ハクは穏やかに笑う。
「主が笑ってるだけで、
みんな嬉しいんだ。」
男は皆の顔を見渡す。
皆穏やかな表情で、
男を見つめていた。
それがなんだか
むず痒く感じて、
男は頬をかいた。
「主様、照れてる……」
「照れてるな……」
「照れてる……」
皆がくすくす笑っている。
男は堪らず声を上げた。
「うるさい!
ほら!
早く準備しろ!」
男は照れていた。
皆嬉しそうに、
主様が怒ったぞー!と
わらわらと準備に戻って行った。
「まったく……」
「ふふっ。」
「なんだ……」
「いえ。」
透子はくすくすと笑う。
男はぶすっと
面白くなさそうに呟く。
「照れてる黄泉守様。
なんだか
可愛らしいなって。」
「か、可愛らしい……?」
男は眉を寄せながら
目を瞬いた。
「俺が……?」
「はい。
なんだか子供みたいです。」
透子はにこにこと笑って答えた。
男は
そんなことを言われたのは初めてで、
固まった。
「ぶっ。」
「笑うな!」
ハクが吹き出すと同時に、
男は声を上げる。
「いや、無理。
だって、
主が。
可愛らしいって……」
ハクは腹を抱えて笑った。
「……もういい!
酒だ! 酒!」
男はぱっと透子の手を取る。
もう癖になっていた。
透子はその手を見て
嬉しくなった。
「黄泉守様。」
ずかずかと歩く男を見上げる。
「なんだ。」
「そんな黄泉守様も、
好きですよ。」
透子は優しく微笑む。
「そ、そうか……」
男の歩みがゆっくりになる。
耳が真っ赤だった。
透子はそんな男の様子に気づいて、
微笑ましく思う。
「主。
耳が真っ赤。」
「うるさい!」
ハハハッと
ハクの笑い声が廊下に響いた。
二話 帰還 [完]




