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死神様は生贄の娘を離さない 第二巻  作者: 武村


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八話 何気ない日常

 

「いらっしゃい!」


 団子屋の主人が

 威勢の良い声で

 雅たちを出迎えた。


「こんにちは。」


 雅も笑顔で返した。

 その後ろから男も暖簾をくぐる。


「おっ。

 今日も仲がいいねぇ。」


 手を繋いだままの二人に

 店主はニヤッと笑う。


「……団子を二つ頼む。」


 男は照れを隠すように、

 注文をした。


「はいよ!」


 店主が店の奥へと下がる。

 二人は近くの席に腰を下ろした。


「黄泉守様。

 たったの二本ですか?」


「ああ。」


「少なすぎます。」


「どうせこの後も

 どこかで何か食うんだろ?」


 不服そうに頬を膨らます雅に、

 男はやれやれと肩をすくめた。


「そ、それはそうですけど……」


「ならば、ほどほどにせねばな。」


 雅はうーんと唸りながら

 何やら考え込む。


 そして閃いたように、

 瞳を輝かせた。


「良いことを思いつきました!」


「なんだ?」


「それは後のお楽しみです。

 あっ、お団子来ましたよ!」


「はい。

 お待ちどう様。

 ゆっくりしていきな〜。」


 店主はにっと、

 白い歯を見せた。

 

「いただきます!」


 雅は手を合わせてそう言うと、

 団子を一口頬張った。


「美味しい!」


 もぐもぐと団子を噛む姿が、

 なにやら小動物に見える。


 男はそんなことを思いながら

 団子を口にした。


「美味いな。」


 嬉しそうにほおばる雅。


 それを楽しげに眺める男。


 二人は

 ただそれだけのことが

 幸せだった。

 

 

 食べ終えた二人は

 茶をすすっていた。


「それで?

 良いこととはなんだ?」


「ふふっ。

 お土産です。」


「なんだ。

 そんなことか。」


「そんなこととは、

 酷いですね。

 屋敷のみんなにも

 食べていただきたいのです。」


 ムッとする雅に、

 男は若干焦る。


「分かった分かった。

 好きなだけ買えばいい。」


「本当ですか?」


 雅が嬉しそうに笑う。


 男もふっと小さく微笑んだ。




「いや、好きなだけ買えとは言ったが……」


 男は両手にたくさんの土産を

 持たされていた。


「買いすぎではないか?」


「だって、お屋敷には

 たくさん妖がいるでしょ?」


「こんなにはおらんぞ。

 まさか、お前……」


「ふふっ。

 もちろん私の分もありますよ。

 あなたの分もね。」

 

 薄々勘づいてはいたが、

 雅が喜ぶのなら、

 それでもいいかと、

 男は自分の甘さに

 ふっと笑った。


「ならばそう言え。」


「言ったら買ってくれないでしょ?」


「さあ?

 買うかもしれないだろ?」


「なんですか?それ。

 絶対買わないでしょ。」


 雅と男は顔を見合せて、

 笑い合った。

 

 その後は、

 蕎麦屋に寄ったり、

 小間物屋へ寄ったり。

 目の着く店に足を運んだ。


 目的などない。


 街を二人で散策する。

 ただそれだけで楽しかった。


「そろそろ帰るか。」


 空に茜色が差す。


「そうですね。」


 雅の頭には、

 金木犀の簪が揺れていた。


 小間物屋で

 たまたま見つけたそれを、

 男は雅に送った。


「よく似合ってる。」


「ふふっ。

 ありがとうございます。」


 男が雅の頭に手を伸ばす。

 揺れる花弁にそっと触れた。


「さあ。

 帰りましょう。」


 雅は男の手を取った。


「ねえ。

 随分と楽しそうじゃないか。」


 後ろから女の声がした。


 男ははっと振り返る。

 さっと、

 雅を背に隠した。


「おやおや。

 これは思った以上に、

 大事なんだねぇ。

 その娘が。」


 妖艶な女が、ニヤリと笑う。


「お前は……黄泉蜘蛛よもつぐも。」


 何故気づかなかったのか。


 黄泉蜘蛛は人に化けていた。

 

 女はくすりと笑った。


「よしとくれよ。

 何もしないさ。

 今日はね。」


「お前。

 何故戻った……」


 黄泉蜘蛛は確かにこの手で、

 罰を与えたはずだ。


 にわかには信じがたかった。


 黄泉蜘蛛はニヤリと笑う。


「そんなの

 教えるわけがないじゃないか。

 まあ、強いて言うなら。」


 女は自身の髪を指でくるくると

 いじりながら、

 どうでも良さそうに答えた。


「お前の邪魔をしたい誰かに、

 救ってもらったのさ。」


「誰だそいつは。」


 黄泉守は眉間に皺を寄せた。


「知らないね。

 私にはどうでもいい。

 それより……」


 女は

 黄泉守の背に隠れる雅に

 話しかけた。


「やっぱりあんた、

 美味そうだねぇ。」


 雅は怯えた。

 咄嗟に黄泉守の袖を掴んだ。


「お前!

 どういうつもりだ!」


 男は苛立った。

 黄泉蜘蛛は、

 何もしないというが、

 そうはいかないだろう。


 ならばこの女、どうにかせねば。


 舌なめずりをする女を

 男は睨みつけた。


「おお怖い怖い。

 今日はあいさつだけさね。

 またね。」


 女は霧のように消えていった。

 

 黄泉蜘蛛の気配が消えてしばらく、

 雅は震えが止まらなかった。


 動けず、

 男の袖は掴んだまま。


 雅は浅く息を吐く。


「雅。」


「ハァ、ハァ……」


 だんだん呼吸が浅くなる。


 黄泉守は異変に気づき、

 雅の肩に両手を置いた。


「おい、雅。」


 雅は気が遠くなった。


「雅!」


 男の叫びを最後に、

 雅は気を失った。


 倒れる寸前、

 黄泉守が雅を抱えた。


 男は雅を抱き上げると、

 その場を駆け出す。


 森に入り、

 朧車を呼んだ。


 早く、屋敷に帰らねば。

 

 男は焦っていた。

 

 八話 何気ない日常 [完]

 


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