三話 旅路
門をくぐった先は
どんよりと
灰色がかった世界が広がっていた。
その中に
一面の彼岸花が
紅く地面を覆っている。
いつもの黄泉だ。
かたり。
胸元の鈴が動いた。
透子は木箱を取り出して
開ける。
小刻みに震え
それは淡く光だす。
透子はそれをそっと
手に取った。
光は一本の光の糸へと変わった。
「行きましょう。」
透子の言葉に
二人は頷く。
透子を先頭に、
すぐ後ろを黄泉守、
そして最後がハクだ。
三人は光の糸が導くままに、
歩みを進めた。
「黄泉って
こんなに広かったんですね。」
どこまでも続く空は
灰色。
太陽も見えない。
もしかしたら
朝も夜もないのかもしれない。
風が吹く音と、
自分たちの足音だけが響く。
「人間の世界より
遥かに広いぞ。」
「そんなに……」
男の言葉に
透子は少し目を見開いた。
「だから迷子になったら大変なんだよ。」
ハクの言葉にどきりとした。
「迷子……」
「お前は迷子になどならん。
俺がいる。」
「主がいるなら安心だね。」
ハクはくすりと笑った。
「もう。
怖がらせないでください。」
透子は少しムッとした。
「大丈夫だ。」
男の言葉に
透子はほっとした。
歩き始めてどれほど経っただろうか。
「あれ……?」
「どうした。」
「彼岸花が減っているような気が……」
気づけば、
一面に咲いている彼岸花が減っている。
黒い地面が見えていた。
「本当だ。」
三人は足を止めた。
「鈴はどうだ。」
男の声に
透子は視線を鈴へ向ける。
シャラン……
鈴は変わらず
道を示している。
「進めと、言っています。」
「ならば進むぞ。」
「はい。」
三人は再び歩き出した。
しばらく進むと、
彼岸花が途切れた。
黒く乾いた大地が広がる。
空気も変わった。
風がやけに冷たく感じる。
嫌な空気だ。
透子は思わず腕をさすった。
「寒いのか。」
「はい。少しだけ。」
男は無言で
自分の来ていた羽織を
透子に着せた。
「あっ。
黄泉守様はよいのですか?」
「構わん。
着ていろ。
風邪をひかれては困る。」
「ありがとうございます。」
透子は男に笑いかけた。
「主も分かりやすいよねぇ。」
「何がだ。」
「いや。
心を取り戻せば、
きっと分かるよ。」
ハクはニヤッと笑った。
その時だった。
シャラン……
鈴が先ほどより強く鳴った。
「今……!」
透子が何かに気づいた。
わずかに何かが聞こえる。
「透子さん?」
「今、何か聞こえました。」
黄泉守とハクは顔を見合せた。
「何か聞こえたか?」
「いや。何も。」
風に乗って
それは聞こえてきた。
泣き声だ。
誰かがどこかで泣いている。
「……聞こえます。」
その泣き声は小さかったが、
透子にははっきり聞こえていた。
夢で聞いたあの声だ。
「どこから聞こえるか、
分かるか。」
透子は目を閉じて、
耳を澄ませた。
かすかに聞こえるその声は、
鈴が指し示す方向だった。
「こっちです。」
透子は歩き出した。
気持ちが焦って
足が早くなる。
その先は薄く靄がかかっていた。
はっきりとは見えないが、
黒く大きな影が見える。
それは山のようだった。
「……あれは。」
それはあまりにも大きな山だった。
三人は足を止める。
黒く巨大なその山は、
まるで
この黄泉を支えるように
立っている。
「黄泉には、
こんな大きな山があるのですね……」
透子は初めて見る
巨大な山に驚いていた。
「……俺も初めて見た。」
ハクが険しい表情で呟いた。
シャラン……
鈴の音はどんどん強く鳴っていた。
「……初めて見るはずなのに、
俺はここを知っている気がする。」
黄泉守は山を見据えながら、
静かに呟いた。
透子はその横顔を見つめた。
金色の瞳が細められている。
まるで何かを思出そうとするように。
シャラン……
また強く鳴った鈴を
透子は握りしめた。
ここだ。
この先に黄泉守の失った心がある。
泣き声も強くなっていた。
待っていて。
すぐにそっちへ行くから。
三話 旅路 [完]




